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認識

前回の違和感は、まだ説明のつかないまま残っている。


見えているものが何なのか、分からないままでも日常は続いていく。

ただ、その違和感は、確実にこちら側へ近づいてきているようだった。


——窓から差し込む明かりで目を覚ました。


いつも通り、事務所の中で二人とも寝こけてしまったらしい。

向こうのソファベッドでは陽向が間抜けな顔で眠っていた。


自分の方は夢見が悪かったので、眠気が残ってだるい。

昨日の少女が夢の中にまで現れ、相変わらず電柱の傍にたたずんでいた。

気持ちよさそうに眠っている陽向に少しイラついたので起こしてやることにする。


「おい、陽向、もういい時間だぞ!」

「お…おぅ…」


いつものことだが、寝起きも寝相も悪い。


取りあえず顔を洗っていつもの喫茶店に行くことにした。

今日は授業が10時からなので、その前の腹ごしらえと、昨日の少女の確認だ。

喫茶店に行くことを言っても陽向は特別な反応をしていなかったので、昨日のことは言わずにおいた。

分かっていて反応していないような気もするが。


「毎度~」

「あぁ、陽向君か、今日は誰もいないから好きなところに座りなさい。」


マスターはコーヒー豆を焙煎しながら振り返りもせずに答えた。

これだけ頻繁に来ると声だけで分かるみたいだ。


「境君もかけなさい。」

「あ、分かってたんですね。」


振り返りもせず気づかれたのは、相変わらず不思議だった。

自分の調子が悪いことに気が付いてくれたようで、気を遣ってくれていた。


「さて、どうせ昨日の件でよう寝れんかったんやろ?」


抜けているようで、そういったところはしっかり見られていた。

言われた通りなので頷いて眉間を押さえる。

寝不足でうっすらと頭痛があったので、思わず手が動いた。


「まぁ、そうなるやろと思てたから、もう一人呼んどいた。」


喫茶店のドアが開く音がする。昔ながらのドアに付いているベルの音だ。

マスターがアイコンタクトで自分たちのいる席を案内しているので、陽向の言ったもう一人だろう。


「境、調子が悪いみたいだな。」


頭の上から少し冷たいような雰囲気の声。榊静流(さかきしずる)だ。

こいつも陽向と同じく高校からの腐れ縁で、事務所にたまる仲間の一人でもある。


「陽向、境に説明していないのか?」

「まぁ、せやな。静流が来てからの方が話しやすいやろ。」

「いつもながら、俺に丸投げするつもりだったんだな。」


当事者の一人である自分を放っておいて、二人で話が進んでしまっている。

それはどうなんだろうと思うところだが、陽向の言う通り、彼の説明ではわからないことが多い。

理路整然と説明してくれる静流から話してもらった方が分かりやすいのは間違いない。


静流が陽向の隣、自分の斜め前の席に落ち着いた。

こちらも同じようにブレンドコーヒーを出してもらって、軽くため息を付きながら話し始めた。


「店の前に居た少女を見たんだな?」

「何で知ってるんだ?」

「それをこれから説明する。」


静流は陽向を一瞥してから話をつづけた。

当の陽向はいつも通りヘラヘラしているので、色々と分かっているんだと思う。

いつもの事なのだが、やはりちょっと解せないものはあった。


「陽向の様子からわかるだろうけど、あの少女はこの世界のモノじゃない。」

「いや、それは昨日の雰囲気からわかってるけども、どういうことだ?」

「境、よう聞いてたか?」


いつもと同じように静流が話していたのに対し、陽向はいつもと違って少しまじめな表情だ。

何かを聞き逃している気がしたが、この時はまだ分からなかった。

陽向はそういう体質なので、昨日も注意していたのだと思っていた。


「この世のもんではないってならいつもの事や、静流が言ったのは『この世界のモノではない』や。」

「あ!」


ようやく気が付いた。

単純に生きているものではないということではなかったのだ。

生死というもので表現されるものではないと言われていたのだ。


「そう、陽向の言っている通り、あの少女は生きている。ただ、俺たちの知っているところで生きているわけじゃない。」

「どういうことだ?」

「そこの詳しいことは調べてみようと思っているんだけど、陽向や境は認識できるけど、俺は認識できないんだ。」

「更に分からんぞ?」


何を言っているのかよくわからない。

自分と陽向には、多少なりそういうものを感じる感覚がある。だが、それだけでは説明がつかない。


「恐らくやけど、存在するところが違ういうことは、この世のものでないというのと近いんやと思う。」

「だから、多少なり心霊体質の俺や陽向は認識できるということか?」

「せやな。そういうことやんな?」

「そうだね。境の認識で間違いないよ。ただ、存在としてはそこにあるんだから、何かコンタクトの方法がないかなとは思ってる。」


感覚的なものは陽向の方が分かるからか、静流の説明できない感覚の部分を陽向がフォローしてくれた。

いつものやり取りから考えると、少し珍しいケースだと思う。

静流も初めてのパターンで戸惑っているのと、自分にも分かるのではないかという期待があるように見えた。


「境は向こうを認識している。ということは“向こうも境を認識している”ってことになる。」


静流としては当たり前のことを言ったつもりだろうが、自分の背中に冷たいものが流れるのを感じた。


「あちゃ~、こっちの話が聞こえてたみたいやで…」


昨日の少女が、ガラス一枚隔てたすぐ外に立っていた。

そう、ガラス越しの、少女の目はこちらを“正確に”捉えていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


今回の話では、「見えている側」と「見られている側」の関係が少しだけ揺らぎ始めました。

まだ断片的ですが、この違和感がどこへ繋がっていくのか、少しずつ見えてくると思います。


もし気になる点や感じたことがあれば、ぜひ教えてください。


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