第二章 【神聖帝国】2.意思無き帰還 パート4
突然の王都からの迎えに警戒する三人、果たして罠か?それとも・・・
◇
馬車は王都に向かっていた。
ゆっくりと、しかし確実に・・・。
馬車の周りを騎兵がずらりと取り囲み、外から見ても、それが高貴な者の馬車であることは疑いようもなかった。
―もう半日もすれば王都か―
馬車の小窓を少し開け、外の景色を眺めながら、エリシアは、あの街で起きた事を思い返していた・・・
―
―
―姉上からの迎え?―
震える手で剣を握り込み、エリシアが老人に問いかける。
『私を迎えに来たと?どうやって私の居場所を知ったのだ?』
老人は感情を見せぬまま、淡々と答える。
『貴方様が手放された、グレイス様からの贈り物の指輪からでございます。貴方様の足取りが途絶えたと知らせを受け、グレイス様は直ちに貴方様の探索をお命じになられました。』
―探索?殺害の間違いでは?―
エリシアの胸の奥に、ドス黒い感情が込み上げる。
そんなエリシアに、フィンが小声で囁く。
『エリシア!囲まれてるぞ・・・物陰に三人・・・いや、四人か?』
その言葉を聞くや、エリシアは鋭い目つきで老人を睨みつける。
『その、物陰に隠れている者たちはなんだ?私を迎えに来たにしては、えらく物騒だな。』
その言葉に、老人の眉がピクリと動く。
『いやはや、参りましたな・・・これらは【護衛】の者たちです。武装を解いて出てきなさい。』
老人がそう告げると、物陰から音もなく影が現れる。
全員が黒い布に全身を包んだ者たち・・・数は七人。
―七人もいたのか⁉気配を読み切れなかった―
フィンは、自らの読み違いと、影たちの動きの無駄の無さに、動揺を隠しきれずにいた。
『この者たちの気配を感じ取るとは・・・なかなか良い手駒をお持ちだ。しかし、まだ若い・・・読み違えに動揺し隙だらけですぞ?』
老人の言葉に、エリシアは何かを悟ったように剣から手を放し、両手を上げて前に出た。
『わかった。一緒に行こう。この者たちは金を払って雇った者たちだ。何も知らん。だから手を出さないと約束してくれ。』
老人は軽く頷くと、路地の奥に待たせていた馬車へとエリシアを促す。
『おい⁉』
『エリシアさん⁉』
驚く二人の方に振り向き、エリシアは静かに言った。
『今までありがとう。厳しい旅だったが楽しかったぞ。フィン、報酬は払えなくなってしまったな。だからこれを受け取ってくれ。』
そう言うと、左手から腕輪を外し、フィンにそっと手渡す。
『ノクス、短い間だったが、色々助けられた。話を聞いてくれてありがとう。王都へはいつか来てくれ、良いところだぞ。』
そう言ってニコリと微笑む。
『では行こうか!』
振り向きざまに見せたエリシアの横顔は、二人が幾度となく目にしてきた、覚悟を決めた時の顔だった。
◇
取り残された二人は、どうする事も出来ず、ただ立ち尽くしていた・・・。
ノクスの手には、去り際に老人が手渡してきた、銀貨の入った袋。
―何もできなかった―
動く事も、声を出す事も・・・自分たちの無力さに打ちひしがれる。
『何だってんだ、ちくしょう・・・。』
誰に言うでもなく、フィンが呟く。
その表情からは、悔しさと、苛立ちがにじんでいた。
『行ってしまわれた・・・。』
ノクスは呆然と、エリシアが乗り込んだ馬車のあった場所を見つめている。
『渡されても、困るんだよ!どこで、どうやって換金するんだよ・・・こんな物!』
エリシアから渡された、帝国王家の紋章が大きく刻まれた腕輪を、地面に叩き付けようと腕を振り上げた・・・が、できずに力なく腕を降ろした。
『エリシアさんは、この後どうなるのでしょうか?それに、あの人たちは・・・王都からの迎えと言っていましたが。』
―グレイス様が王都でお待ちです―
老人は確かにそう言った。
殺そうと思えば、いつでもできたはずだ・・・なのに殺さなかった。
街中だったから?いや・・・そもそも、あの影たちからは、肌がピリピリするような嫌な感じはしなかった。
『本当に、迎えに来ただけなのかもな・・・。』
フィンがボソリと呟くと、ノクスが顎に手を当て、少し考え込んだ後、口を開いた。
『では、確かめに王都へ行きませんか?』
突拍子もないノクスの提案に、フィンは目を丸くする。
『私はエリシアさんに【いつか王都へ来てくれ】と言われました。今が、その時だと思うんです。ですから、一緒に行きましょう!フィンさん!』
ノクスの言葉に、フィンは少し頭を掻きながら答える。
『確かに、俺もまだアイツから、報酬をもらってないからな。こんな腕輪もらっても換金できなきゃ、ただのガラクタだ。王都に行ってエリシアに、このガラクタを叩き返してやるとするか。』
二人は前を向き、進む道を選んだ。
その目には、もう迷いはなく、見据えるのは帝国王都のみ。
しかし・・・この直後、二人は重要なことに気づくことになる。
―
―
―
―ところで・・・王都ってどうやって行けばいいんだ?―
覚悟の帰還を選んだエリシア・・・それを追う二人。
果たして王都では何が待ち受けているのか?
二人は王都にたどり着けるのか?
第二章 【神聖帝国】2.意思無き帰還 完




