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第二章 【神聖帝国】1.帝国領へ・・・ 後編

【試練の崖】を登る3人と森の民の面々、そこに立ちはだかる崖の守護者

気づかれずに登りきる事はできるのか?それとも・・・

第二章 1. 帝国領へ・・・ 後編スタート!


男達に連れられ、荷物を担いで崖に向かう。

向かう途中で、一緒に崖を超える森の民の家族と合流し荷物を預ける。

男の家族・・・妻と子供・・・子供の年のころは10歳くらいか・・・

もう一人の男の方はどうやら独り身の様だ。


【試練の崖】の入り口は、関所を少し北に行ったところにあった。

入り口というには少し乱暴な・・・普通の人が見たら、ただの獣道にしか見えないだろう。

先頭はフィンと独り身の男、続いて家族持ちの男の妻、子供、男と続き、ノクス、エリシアの順番で崖を登り始める。

―暗く足場は悪いが、荷物がなければ何とか登れそうだ―

エリシアが前を登っているノクスの表情をうかがうと、既に顔は険しくなっていた。

ノクスとは反対に、前を歩いている森の民の面々は荷物を担いでいるとは思えない足取りで崖を登っていく。

―護衛とか要らないんじゃないか?―

そんな事を思いながら必死で歩く。ここではぐれたら山羊どころではない・・・終わりだ・・・。


崖の中腹に差しかかったころだった。

突然前を歩いていた二人が立ち止まる・・・右手を後ろに突き出し【止まれ】と声もなく合図している。

フィンがボソリと呟く。


『マジかよ・・・』


続いて男が青ざめた顔でこちらを見ながら言う。


『崖の守護者・・・本当にいたんだ・・・普通の山羊じゃない、アレは神の使いだ。』


男の言葉に緊張が走る。

エリシアとノクスには、暗すぎてあまりはっきりとは見えないが、確かに前方の岩場に巨大な影がたたずんでいる。

山羊にしてはあまりにも大きい・・・体も、ツノも・・・

フィン、そして森の民の面々には、その姿がハッキリと見えているようだった。


『ここは何回か通った事あるけど、あんなの見たことないぞ・・・。』


誰に言うでもなくフィンは呟くと、額から噴き出した汗をぬぐう。

その流れ出た汗は、崖を登ってきたからではない事は、だれの目から見ても想像するに容易かった。


『言い伝えは本当だったんだ・・・』


森の民の子供が目を丸くして驚いている。

その姿を見たエリシアは前に出る。


『フィン、【ヤツ】はもうこちらに気が付いているのか?』


少し悩んでから答えるフィン。


『おそらくだけど、まだ気が付いてない・・・こちらが風下だし、何よりヤツラは本来明るいときに動くから。』


その答えに、覚悟を決めた顔になるエリシア。


『では行こう!ここからが私たちの出番だ!フィン道案内を頼む。なるべくヤツに気取られないようにな。ノクスは男たちと最後尾を頼む。』


そう言うと先頭に立つ。

ここから崖の頂上までは、あと半分といったところか・・・

―登りきるまで、気づいてくれるなよ―

そう自分に言い聞かせて登り始める。



音を立てず、息を殺して登る・・・

どれくらいの時間登っただろうか、頂上が見え道もなだらかになってきた。

―あと少し・・・―

と全員が思った瞬間だった。

大きな岩が頂上付近から転がってくるのにフィンが気づく。


『危ない!避けろ!』


間一髪のところで全員が岩を避ける。

胸をなでおろすフィン・・・それと同時に背筋に寒気が走り、口を両手で覆う。

―しまった!―

思うや否や大山羊の居た岩場を見る。

さっきまで微動だにせず、岩場にたたずんでいたはずだ・・・姿がない・・・。


『まずい!頂上までみんな走れ!』


大山羊が、こちらに向かっている事を察し、号令をかけるフィン。

状況を理解したエリシアが、フィンのところに駆け寄る。


『どれくらいで追いつかれる?フィンは弓矢で牽制!ノクスは私に魔術を!男たちは女と子供を連れて走れ!私は剣で応戦し時間を稼ぐ!』


ここに来る前に、各々のできる事を確認しておいたエリシアが指揮を執る。


『あんま前に出るな!まともにやり合おうなんて考えるなよ?』


その言葉にエリシアはニヤリとして答える。


『まともにはやり合わんさ!ノクス頼む!』


エリシアの掛け声とともに祈りだすノクス。


『エリシアさん結界を張ります。ですが、もって数度・・・基本的には避けてくださいよ!』


そう言うとエリシアに手をかざすノクス。

瞬間、エリシアのフード付きのマントが黒い薄膜で覆われる。


『来る前に試したが、男たちの体当たり程度では、ビクともしなかったから何とかなるだろう!ノクスは先に行っててくれ。あとで落ち合おう。』


言い終えた瞬間だった。

―岩を蹴る音―

黒い影が三人に迫る!

最初に反応したのはフィンだった。岩場から大山羊が頭を出した瞬間、躊躇なく矢を射る!

―ドンピシャ!―

まさに、この言葉でしか表せないようなタイミングで放たれた矢。

しかし・・・なんの手応えもなく矢は虚しく空を切る。


『避けた⁉おいおい・・・あのデカさで⁉』


驚きと焦りの入り混じった声で呟く。

エリシアはフィンの前に出て叫ぶ。


『殿は任せろ!フィンは頂上を目指して走りながら私の援護を!』


その言葉にフィンが頂上を目指して走り出す!エリシアも剣を抜き放ち、後ろを警戒しながらフィンに続く。

フィンが先に逃げていたノクスに追いついたころだった。

後ろで何か固いもの同士がぶつかる音がした。

フィンが振り返ると、エリシアが大山羊の圧力に押されながらも、剣で大きなツノと打ち合う姿があった。

―動きが止まった⁉今なら―

考えるより先に動いていた。

動きの止まった大山羊に向けて矢を連続で放つ。

フィンにとって動いていないものを射るのは造作もない事だった。

恐ろしく正確に連続で放たれた矢は、エリシアのフードをかすめて命中・・・する筈だった。

またもや、すんでのところで後ろに飛び跳ね避けられてしまう。


『くそ!なんで当たらないんだ⁉』


苛立ちを見せるフィン・・・だが、牽制には成功した。

数本の矢がつくった一瞬の間をエリシアは見逃さない。踵を返して、全力で頂上を目指して走る。


『こっちだ!』


フィンがエリシアに向かって手を上げ叫ぶ。

エリシアの後ろを執拗に追う大きな影・・・。

ふと、そこでフィンは違和感を覚えた。

―【ヤツ】はエリシアに反応している?何に反応してるんだ?まずは音・・・これは間違いない。おそらく俺の放った矢も風を切る音に反応して避けてるんだろう・・・でもそれだけじゃない・・・本来、明るい時間に動いている動物にしてはエリシアに対しての動きが正確すぎる・・・まさか⁉―


『ノクス!魔術ってのは物にもかけられるのか?』


答えるノクス。


『はい!物にもかけられますよ。先ほどの魔術はエリシアさんのマントにかけましたから。でもなぜです?』


その答えを聞いて納得した顔をするフィン。


『ノクス!俺の矢に魔術をかけられるか?』

『できますが・・・かけます!』


迷っている暇はなかった。

ノクスが祈りながら矢に手をかざした瞬間、矢の先端が黒い霧で覆われる。

その矢を弦にかけ弓を構えるフィン・・・一瞬、大山羊の黄金に妖しく光る眼と視線が交差する。

―やっぱりだ!【ヤツ】は魔術に反応している―

確信があった。


『エリシア!俺が矢を放ったらマントを崖下に放り投げて全力で走れ!』

『⁉・・・おう!』


一瞬の戸惑いを見せたが、瞬時に反応するエリシア。

エリシアの答えが返ってくる前に放たれた矢は、大山羊の頭上を通り越して崖下に飛んで行く。

その矢に反応して、矢の飛んで行った方向を目で追いかける大山羊。

その隙を見逃さなかったエリシアが、脳天に重い一撃を加える。

―固い・・・でも手応えありだ!―

そう思うや否や、マントを崖下に放り投げて全力で走る。

大山羊はエリシアの強烈な一撃と、矢とマントにかけられた魔術の残滓に反応して、パニックを起こしているようだ。

三人は全力で走って頂上に転がり込むようにたどり着いた。

―頂上だ・・・【ヤツ】は?―

振り返ると、崖の岩の上に大山羊が立っていた。

それ以上は追ってはこない・・・ただ静かにこちらを見上げている。


『助かった・・・のか?』

安堵する三人、先に上りきっていた森の民の面々も、一緒に生きている事を喜び合う。

【試練の崖】は三人がいなければ超えられなかっただろう。

フィンの機転。

エリシアの勇気。

ノクスの魔術。

どれが欠けても・・・。


『さぁ・・・出発しよう!早いとこ狼の出るエリアを抜けておきたい。』


フィンの言葉にエリシア、ノクスが答える。


『はい!行きましょう。』

『ああ!行こう!』





やっと帝国領に入れました。

帝国領ではもっと色々起こる予感・・・

次回は

第二章 2. 意思無き帰還

に入ります。

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