第二章 【神聖帝国】1.帝国領へ・・・ 前編
旅は三人になり帝国領の入り口【関所の街】にたどり着いた。
簡単には通ることはできないようだが・・・三人はどうするのか?
第二章 【神聖帝国】
1.帝国領へ・・・
2.意思無き帰還
3.潜入
4.王都脱出
登場人物
フィン
エリシア
ノクス
1.帝国領へ・・・
王都までの旅は2人から1人増え3人になった。
街道は道が良く、荷物も1人増えた事で負担が減り、今までの行程が嘘だったように歩くペースが速くなった。
フィンの見立てで、1日かかると思われた道のりも予想より早く、夜が来る前に帝国領の入り口である関所の街までたどり着いた。
関所の街の入り口である重厚な門の前では、鎧に身を包んだ屈強な守衛と、入国審査待ちであぶれた行商人や旅人が門前の開けた場所にテントを張ったり、旅人に食料を売るために店を出している行商人もいたりと、一つのコミュニティを作り上げて夜の訪れに備えている・・・
その光景を見たエリシアがフィンに問いかける。
『フィン・・・今日中に帝国領に入るのは無理そうか?』
エリシアの問いにフィンが答える。
『見ての通り、【普通】に入るのは難しそうだな・・・というか帝国領に入るには、ちゃんと身分を証明するような物が必要だし、俺を含め【森の民】と呼ばれる奴はまず入れないってことだな。』
フィンの答えにエリシアは首を傾げながら問いかける。
『ん?・・・確かに王都では森の民を見ることも珍しくはあったが・・・やれ何処々で何ぞやが盗まれただの、捕まっただの・・・悪い噂ばかりだったが、入ってきてないなんて事はないと思うのだが?』
エリシアの問いかけに少し苦笑しながらフィンが答える。
『もちろん入ってるよ?さっき言っただろ?【普通】ならって。』
その答えにノクスが手の平をたたいて軽く頷きながら言う。
『なるほど・・・この門を通らなければ帝国領に入れない訳ではないと・・・そういうことですか?』
ノクスの問いにフィンは悪い顔をして笑いながら答える。
『まっ!簡単に言うと、そういう事だな!』
答えを聞いたエリシアが問いかける。
『関所を通らず帝国領に入るわけか・・・だがどうやって入る?関所の両側は崖になっているしとても超えられんぞ・・・』
その問いかけにフィンは得意げに口元をニヤリと緩め【待ってました!】と言わんばかりの表情だ。
『だからここに来たんだ。ここなら人が大勢集まる・・・俺ら森の民も例外じゃない。森の民は関所を【通ろう】なんて思ってないけど、関所を【超える】には人手がいるんだよ・・・例えば夜中の内にあの崖を超えるとかね。』
顎でクイッと崖のほうを指す。
その言葉に納得したように感嘆の声を上げるエリシアとノクス。
『おぉ!なるほど・・・一緒に関所を【超える】仲間を探しにこの関所に寄ったわけだな。』
『ここなら、目的が一緒の人たちと出会えるというわけですね。』
そんな二人を見ながらフィンが続ける。
『まぁ・・・仲間ってのとは少し違うけどな・・・目的が一緒ってだけだし。ただ、運が良けりゃ今日中に国境を越えられるかもな・・・いい面子が見つかればだけど。とりあえず森の民の集まりそうなところをあたってみるよ。二人は適当にここいらで休んでてくれ。交渉は俺がやるからさ。』
そう言うとフィンは颯爽と人ごみの中に消えていった。
『とりあえずここはフィンに任せて休もう。しかし・・・あの崖を超えるのか・・・しかも夜に・・・』
少し不安そうなエリシアにノクスが言う。
『フィンさんを信じましょう!私はこれから旅の成功を祈ります・・・』
◇
フィンが人ごみに消えてから小一時間位たっただろうか、依然関所の前に築き上げられたコミュニティではワイワイガヤガヤと旅人や商人が酒を飲みながら噂話に花を咲かせているようだ。
酒の席から、ときおり風に乗って聞こえてくる会話の中には・・・
【帝国がまた戦争を仕掛けたらしい・・・】
【確か帝国の姫が率いる部隊が連戦連勝の快進撃だったらしいな・・・】
【俺が聞いたのは敵に押し込まれて完全に包囲されたが、一点突破で奇跡の生還を果たしたとか・・・】
【いや・・・俺は逆に全滅したって聞いたがな・・・】
こんな会話が聞こえてくるたびに、心を締め上げられるようでエリシアは唇をかんだ・・・
その様子を見ていたノクスはエリシアに問いかける。
『失礼ですが・・・エリシアさん、あなたは帝国の王族の方ではありませんか?その髪、目の色、どれも以前お見受けしたことのある人物とそっくりなもので・・・』
ノクスは以前、ダラの神殿に来た帝国の王族を見たことがあった。遠巻きにしか見る事が出来なかったが、その人物の印象は強烈に脳裏に焼き付いていた・・・まるで神話から出てきたような人物・・・【美しく】そして【怖い】・・・
その人物にエリシアはよく似ている・・・印象はだいぶ違うが・・・
『そうか・・・私によく似た人物を見たことがあるのか・・・おそらく一番上の兄【ルシアス】兄さまだろう・・・私の身分は王都に付くまで隠しておこうと思っていたんだが・・・知れば余計に巻き込んでしまうと思ってな・・・』
それを聞いたノクスは、【やはり】といった顔で少し考えこんでからエリシアに問いかける。
『では、あの方が帝国の次期国王と言われているルシアス殿下でしたか・・・そしてあなた様は第七王女のエリシア姫ですね?』
エリシアは少し驚いた顔でノクスに返す。
『そこまで知っているのか・・・偽名でも使うんだったな・・・』
苦笑しながらエリシアは続ける。
『しかし、ノクスも何か【隠しているもの】がありそうだな・・・帝国の王族に詳しいし、何よりダラの神殿はダラ信仰の聖域だろう?あまり知識のない私でも知っている事だ・・・あそこに入れる人間は、限られているはずだ。』
エリシアは無意識に鋭くなった眼差しでノクスを見る。
ノクスは、その眼差しを感じても動じることなくニコリと微笑みながら返す。
『いやいや、帝国の王族は結構有名ですよ。ただ・・・私もあなた様程ではないですが【訳あり】ではあります・・・私の方はバレてしまうと旅が続けられなくなってしまうので秘密ですけど。でも、これだけはハッキリ言えます。少なくとも・・・私はあなたの敵ではありません。』
その言葉を聞いたエリシアが、少しホッっとした表情になったようにノクスは感じた。
『ところで、フィンさんこの事は知っているのですか?』
その問いに少し笑いながらエリシアは答える。
『フィンは知らんよ・・・勘が良さそうだから何かに気付いているのかもしれんが・・・
何も聞いてこないし、あいつは【そういう事】に興味がなさそうだしな。知ったら驚くとは思うがな・・・』
そんな会話をしていると突然、背後から気配もなく声がした。
『俺がなんだって?』
驚いて振り返るとフィンが知らない男二人と立っていた。
その男たちの風体はフィンによく似ている・・・【森の民】というに違いなかった。
『見つけてきたぜ。これで今夜中に関所を超える事ができるぞ。まあ・・・いくつか条件はあるけどな。』
フィンがそう言い終えると、隣に立っていた男の一人が口を開けた。
『まずは・・・
・今夜通る道を何があっても誰にも漏らさない事
・金銭のやり取りは無し
・俺たちはお前たちの道案内と関所越えのサポートをする。
・その代わりお前たちは俺たちの護衛をする。
これが条件だ。』
男が言い終えると、もう一人の男がエリシアとノクスをジロリと見ながら。
『そこのフードは腕の立つ剣士と聞いた・・・その背の高いのは魔術とやらが使えるとか・・・こいつはさっき投げナイフでその腕前は見させてもらった・・・今回は子供もいるからな・・・少し不安はあるが、条件が飲めるなら一緒に行けるがどうする?』
【関所越え】とは・・・?
崖を登って超えるだけのはずでは・・・?
護衛・・・?
腕の立つ者が必要・・・?
この男たちも、そこそこ腕が立ちそうだが・・・?
腑に落ちない事が多すぎた。
『おいっフィン!【護衛】とはなんだ?危険は承知の上だが情報が足りな過ぎだ。』
率直な思いを問いかけるエリシアに対し、一瞬何かを思い出したような表情になり答える。
『あー・・・【護衛】ね?説明してなかったな・・・ここいらは【試練の崖】って森の民の間では【昔から】言われててさ、昼間は絶対超えられない崖なんだよ。なんでかってーと・・・関所があるから昼だと単純に目立つのと、ここいらの崖は【ヤツラ】の縄張りになってて、出くわすと突き落とされるんだよ・・・崖から。』
【ヤツラ】?余計に?が増える・・・どうやらフィンは説明を省く癖があるようだ・・・
頭の中の?と格闘するエリシアを横目に、ノクスがフィンに問いかける。
『その【ヤツラ】から皆さんを護衛するのが私たちの役割で、その代わり崖のぼりの経験が浅い私たちをサポートしてくれるって事で合ってますか?で・・・【ヤツラ】とは?』
ノクスの問いかけに、またもや何かを思い出した表情になり答える。
『そうそうそれそれ!【ヤツラ】ってのは、崖に住んでる山羊の群れの事で昼間に崖をうろついてるんだ・・・で、縄張りに入ってきた動物に突進して突き落とす・・・崖でヤツラとやりあっても勝ち目はないしな。でも、ヤツラは昼行性だから夜に出くわすことはない。だから夜の間に超えてしまおうって事だな。』
昼行性の山羊群れ・・・ならば何故ここまで森の民が恐れるのか?ノクスが問う。
『夜に出会うことはない・・・ではなぜに護衛を必要とするのですか?』
少し困った顔で答えるフィン。
『崖を超えた辺りで【狼が出るから】もあるけど・・・それよりも・・・森の民に伝わる迷信みたいなものを信じてるのさ・・・俺には理解できないけど。森の民には、おとぎ話みたいな古い言い伝えみたいなものがあって、その言い伝えに出てくるんだよ・・・ここの山羊がさ。』
フィンが話したのはこんなおとぎ話・・・
◇
昔・・・神話の時代・・・精霊王ジャンは旅をしていた。
世界創成の後、自らが生み出した世界を巡り、自然の秩序が守られているかを確かめる旅の途中だった。
そんな折の出来事だった。サンデ山脈を通ろうと崖を登っていた時、大勢の人間が崖を登っていることに気付き、その訳を登っている一人に聞いた。
『なぜここを大勢の人が登っているのですか?』
答える人間。
『ここを越えれば獲物は取り放題、果物も取り放題だ。早い者勝ちさ。』
それを聞いたジャンが質問する。
『こちら側でも獲物は獲れるし、果物もとれるのでは?』
それを聞いた人間が答える。
『こちら側は獲り尽した。もう用はない。』
それを聞いたジャンは嘆き考えた。
何と欲深いことか・・・このままでは、自然の秩序が人の手によって破られてしまう・・・
そこで、この崖に【守護者】を置き、人は簡単に超えられぬようにした。
そして人々はこの崖を【試練の崖】と名付け恐れるようになった。
◇
森の民に古くから伝わる伝承・・・
それを聞いたエリシアが口を開く。
『その守護者が山羊って訳か・・・森の民にも【サンデ山脈】の伝承があるのだな・・・』
それを聞いていたノクスが顎に手を置いて少し考え込んだ顔でエリシアに話しかける。
『今、【にも】とおっしゃいましたね?リン信仰に【サンデ山脈】に関わる伝承や神話があるのですか?実はダラ教にも似たような話がありまして・・・ダラ教では【守護者】は出てきませんが、【サンデ山脈】はダラ神が人々を戒めるために創られたとか・・・』
その問いにエリシアも少し考えて答える。
『リン神話では、【サンデ山脈】が創られた後、人々が行き来しやすいよう、なだらかな地形も用意された。そのおかげで人は繁栄したが、同時に争いも増えた。だからそこに要衝を作らせて人間に管理させた・・・という内容だったな。』
考え込む二人に対して森の民の男が問いかける。
『どーする?行けるなら今すぐ出発だが?』
その問いに迷う必要はなかった。
三人は顔を見合わせ――ほぼ同時に答えた。
『行こう!』
『行く!』
『行きます!』
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回の「帝国領へ」はここまでになります。
ここから三人は試練の崖を越え、物語が大きく動き始めます。
まだ始まったばかりの旅ですが、これから三人がどんな出来事に出会い、神話とどのように関わっていくのか楽しんでいただけたら嬉しいです。
もしよろしければ感想などもいただけると励みになります。
続き順次アップしますので、よろしくお願いします。




