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第一章【出会い】

第一章 【出会い】


1.森の少年

2.戦場の姫

3.死地からの脱出

4.信仰深き青年


プロローグ


この世界を創った者・・・


火と光の女神 【リン】 戦いと正義によって秩序をもたらした者。

水と暗闇の女神 【ダラ】 安らぎと戒めによって規律をもたらした者。

風と大地の精霊王 【ジャン】 自由と責任によって安定をもたらした者。


この世界には3つの名があった。

人々はそれぞれの神を信じ、やがて信仰は国家となり、国家は争いを生んだ。

その争いに巻き込まれ翻弄されながら生きる三人の物語・・・



1.森の少年


その少年は森と共に生きてきた。

少年の名は【フィン】

歳の頃は十七・・・

決まった住まいを持たず、狩りをしながら各地を転々と旅をする生活。

狩りで得た獲物を街で売り生計を立て生きてきた。

【森の民】そう呼ばれる人々の一人・・・


森の民。

精霊王ジャンを信仰する人々。

ジャン信仰は自然信仰 土に触れ、季節を感じ、作物や獲物に感謝する。

【奪うな】

【とり過ぎるな】

【自分の足で立て】

これが教えだった。


フィンはこの教えを守りながら、父を亡くした5年前から一人で生きてきた。


いつものように狩りをしていた。

近頃では頻繁に戦の噂を耳にしていたが、決まった住まいを持たない自分には無縁な事だとフィンは思っていた。

狩りをしていて違和感に気が付く・・・今日は動物の気配を感じない・・・

空腹で勘が鈍っているのか・・・心なしか鼻も利かない・・・


『弱ったな・・・腹も減ったし売る獲物も獲てない・・・まだ路銀はあるからいいけど・・・』


独り言をブツブツと呟きながら森を彷徨いながら獲物を探す。


ひとしきり歩いたところで、小高い丘にたどり着いた。

下を見渡すと小さな村が見える。

よし!これで食料が手に入る。

そう思って村に向かって走り出した時・・・異変に気付いた。


・・・燃えてる⁉


『しまった・・・戦だ!』


丘が視界を遮っていた事、風向きが逆だった事、不運の重なりで戦に気が付くのが遅くなった。

慌てて振り返ろうとしたフィンの視界に、逃げ遅れた村人・・・それに気付き追いかける兵士の姿が映った。


『おいおい・・・ヤバイだろ・・・』


考えるより先に体が勝手に動いていた。

弓を構えながら夢中で丘の斜面を滑り降り、走りながら兵士の死角から矢を放つ。


一射目。

ヒュオッ!


弓から放たれた矢は兵士の顔をかすめ後ろにあった木に突き刺さる。

何処からともなく放たれた矢に意表をつかれ、慌てて足を止める兵士。


二射目。

ビシッ!


今度は兵士の足元に矢が突き刺さる。

その矢を見て動けなくなる兵士達。


『伏兵だ!止まれ!』


高い位置からの号令だった。

フィンは身を隠しながら、痺れる手と異常に脈打つ胸の鼓動を抑えるように深呼吸をすると、その声のした辺りを見た。


『指揮官か・・・女⁉』


瞬間、馬上の女将校と目があった。

その眼には恐怖と覚悟の入り乱れた感情が浮かんでいた・・・



2.戦場の姫


その姫は戦場にいた・・・前線指揮官として

名は【エリシア】

歳の頃は十九・・・

【神聖帝国ルクス】第7王女・・・王位継承権を持たない姫・・・


神聖帝国。

女神リンを信仰する国家。

女神リンは正義と勝利で人々を導き、世界を照らす存在。

リン信仰は正義と秩序の信仰。

【正義の為に戦う】

【秩序によって人々を導く】

これが教えだった。

エリシアはこの教えを胸に戦場へ立った。


・・・その指令は突然だった。                                          

【西の国諸国攻略を命ずる】

ただその一言のみ・・・

帝国と西の国諸国は戦争状態で現在は戦線が膠着状態にあり、その膠着状態を動かす【刺激】としてエリシアが投入されたのは、誰が見ても明らかな事実だった。

しかも、一番の激戦区になるであろう地に・・・


エリシアには才能があった。

的確な状況判断、攻めるときは勇猛果敢、兵士たちを鼓舞し自ら前線に立つ、その姿は【正義と勝利の女神リン】を彷彿とさせるものがあった。

兵士の士気は上がり前線を何とか今日まで維持してきた。


だが・・・ここにきて補給が途絶える奇襲をかけられるなどのトラブルが続いていた・・・不自然なほど・・・

どの道を行っても敵が待ち構えている、兵は疲弊し統率も取れなくなっていた。


ある村を通過しようとした時、それは起こった。

村には敵の伏兵が潜んでおり奇襲をかけられ戦闘状態になった・・・

事前に斥候を放ち【異常なし】の報告を得ていたにも関わらず・・・

村人を巻き込んだ戦い、村は焼かれ逃げ惑う人々・・・疲弊した兵士は敵兵と村人の区別もつかなくなっていた。


『敵だ!敵がまだいるぞ!』


とある兵士が大声を上げた。

エリシアは、その悲鳴にも似た声に驚きながらも声の方向を見る。

エリシアの目に映ったのは怯え逃げ惑う村人の姿だった・・・


『違う!手を出してはならん!』


エリシアが声を上げたが、距離が遠く声は兵士には届かない。

急いで馬を走らせるエリシア。

村人に迫る兵士。

と、その時一本の矢が兵士の顔をかすめる。

その直後、兵士の足元に突き刺さる矢。

追いついたエリシアが叫ぶ


『伏兵だ!止まれ!』


エリシアは矢の飛んできた方向を睨む。

そこには森に半分溶け込んだような影・・・一瞬目があった・・・

そこにはまだあどけなさも残る少年の姿があった


『森の民・・・か?』


森に溶け込み消えてゆく少年を目で追いながら、同時に地面に突き立った矢を一瞥する。


『逃がすための矢か・・・』


敵の伏兵ではなかった事を確認すると思わず。


『よかった・・・』


エリシアは緊張と不安、疑念と恐怖で震える唇で安堵の言葉を呟いた・・・



3.死地からの脱出


フィンは迷っていた・・・

2日前に出会った、あの女将校の目が忘れられなかった。

恐怖だけではない・・・あの目には確かに【覚悟】があった。

その【覚悟】が何なのかフィンには解らない・・・がどうにも気になってしまう。


実際、フィンには疑問があった。

ここ数日、戦場を遠巻きに観察していて気が付いた事がある。

素人目からしても明らかな戦力差・・・


『こんな無謀な作戦ってあるのか?』


自分に問いかけるように言葉を発する。

フィンは軍人じゃないし軍に所属していた事もない。

そんなフィンでも気が付く程の戦力差・・・


『あいつ・・・誰かに嵌められてないか?』


どうしても気になり【らしくない行動】をとっててしまっていた。

自分でもどうしてなのか・・・解らないことに戸惑っていた。


・・・フィンは今まで一人で生きてきた。

【一人前】になるにはそれが一番の近道だと信じて・・・早く大人になり、もっと広い世界を旅するのが夢だった。

5年前に亡くなった父の様に・・・だから、人に必要以上に関わらない、助けてもらわない、人と関わる事は弱さを見せる事だと信じて生きてきた。

そんなフィンが迷うほどに状況は逼迫して見えた。

・・・とはいえ、自分が何かをできるわけでもなく、この2日間遠巻きにエリシアを観察していたのだった。



エリシアもまた迷っていた・・・

このままの状況が続けば全滅・・・恐怖の感情が全身を包む。

今までの状況を見れば誰だって気が付く・・・急造の部隊で連携は乱れ補給は届かず、敵に先回りをされ退路は断たれる寸前・・・

明らかに裏から手を回されている。

思えばこの作戦の指令が来た時から違和感はあった。

この作戦には、今までエリシアと共に戦ってきた、部下の将校のほとんどが帯同を許されなかったのだった。

自分の元に残った将校はたった一人・・・その一人もこちらに迫る敵勢を足止めするために、今朝、部隊を引き連れて勝ち目のない戦いへ出発した。


『嵌められたな・・・』


自嘲にも似た感情が言葉となってこぼれた。

誰が?何のために?目的は?考えても答えの出ない疑問を常に己に投げかける毎日・・・


『でも・・・諦めるわけには・・・』


折れそうな自分を鼓舞するかの様に覚悟の言葉を呟く。



二人の迷いとは関係なく戦況は悪化していく一方だった。

防衛線は突破され、敵勢がエリシア本隊の喉元まで迫っていた。


『あの【オイデン】でも足止めは無理だったか・・・』


唯一帯同を許された部下の名だった。

自分を守るために自ら足止めという損な役を買って出た忠臣。

出発の前にオイデンと交わした約束を思いだす・・・


『このオイデンが命を懸けて敵勢を食い止め死中に活を見出します。エリシア様は何があっても生き延びてください。』

『わかった・・・必ず生き延びてみせる!だからお前も生きて戻れ!』


今となっては無謀な約束だった。

わかっていた・・・わかっていて行かせた・・・

後悔がエリシアを襲う。


『オイデンだけなら部隊を引き連れて戦線を突破し撤退もできたろうに・・・』


自分の未熟さに打ちひしがれている間にも敵の刃は迫ってくる。

その時、前線が大きく崩れるのが見えた。

敵兵がなだれ込んでくる。


『一時撤退!』


号令をかけ馬を反転させようとした瞬間。


バキッ!


唐突に頭部に走った衝撃により、目の前が一瞬暗くなり気が付いたら地面を水平に見ていた。


何が起こった⁉


霞む視界で周囲の状況を確認する。

地面の上・・・馬から落ちた?怪我は?体は動く・・・

状況を一つ一つ確認していくが、時間を掛けていられるほど状況は穏やかではなかった・・・ここは戦場だ。

何があったか正確に把握できていないが、落馬したのは確実だった。


『まずい!』


馬を探すエリシア。

周りを見渡しても馬は見当たらない。

慌てて立ち上がろうとした時、走りこんでくる人影が見えた。

味方?敵?一瞬の思考で判断が遅れる・・・

走りこんできた人影が大きく振りかぶるのが見え、慌てて剣の柄に手をかける・・・殺意をこめて振り下ろされる刃。


ギン!


何とか剣を抜いて敵の刃を防ぐ。


ギン!

ギイン!


2撃目、3撃目も何とか防ぐ。

しかし、いつまでもつ続かないことはエリシアが一番わかっていた。

4撃目を打ち込もうと敵兵が大きく振りかぶった時だった。


ドスッ!


何かが突き刺さる様な鈍い音・・・直後、敵兵が悲鳴を上げた。


『ギャアァァァァッ!』


剣を落とす敵兵。

何だ⁉何が起こった⁉

状況はよくわからない・・・が命を救われたようだった。

エリシアはこの一瞬を見逃さなかった。

即座に体制を立て直して剣を構え迎撃態勢をとる。

前方からは何人かの敵兵が走りこんでくるのが見える。

迎え撃とうとした時だった。


ドスッ!ドスッ!


今度は連続で二回。


『ギャ!』

『グッ!』


短い声で叫び次々に倒れていく敵兵。

その足を見ると太ももの辺りを矢が貫いていた・・・見覚えのある矢・・・


『おい!走れるか?死にたくなきゃ付いてこい!』


突然の呼びかけだった。

何処からともなく現れた影に体をグイっと引っ張られ、エリシアは無我夢中で引っ張られた方向へ走った。



・・・どれだけ走っただろう、辺りはいつの間にか暗闇に包まれていた。

身に着けていた鎧はとうに脱ぎ捨て戦場に置いてきた、そして森の中を無我夢中で走り続けた。

何処をどう走ってきたのか・・・今となってはどうでもいい事だった。

【まだ生きている】

それだけが確かな事実だった。


『ここまで来ればもう追手の心配はなさそうだ・・・』


疲れ果て膝に手をついてうなだれるエリシアに言葉が投げかけられた。


『誰か知らんが助かった・・・が、貴様何者だ?』


暗闇の森で声がした方向に問いかける。


『おいおい・・・命の恩人に向かって貴様とは何だよ・・・』


声の主は呆れたような口調で返す。


『確かに・・・すまない・・・助かった・・・』

『おッと⁉意外と素直だね』

『からかっているのか?侮辱は許さんぞ!』


『そんなつもりはねーよ・・・ただの感想だよ・・・』


気が張っているエリシアをなだめるように声の主は言った。


『ちょうど良い横穴がある。ここなら火を焚いても目立たない・・・今日は運よく新月だ、煙も大丈夫だろ。』


声の主は暗闇の中をまるで昼間の様に進んでいく。


カッ!カッ!カッ!


小気味良い火打石の音・・・瞬間、小さな火種ができる。

その火種を元に息を吹きかける音。


フー・・・フー・・・


火は瞬く間に大きくなり横穴は明かりに包まれた。


『手慣れてるな・・・』


エリシアは思わず感想を口にしていた


『このくらいできなきゃ一人前とは言えないし、森では生きていけないよ。』


声の主は独り言のように呟き、言葉を続ける。


『薪はここに来る途中に良さそうなのをいくつか拾っておいた。火が消える前にくべてくれ・・・それに腹も減っただろ?』                                      


そう言って声の主は薪と干し肉を渡す。

手渡される瞬間、明かりに照らし出された顔を見てエリシアは息を呑んだ。

その顔には見覚えがあった・・・森に溶け込みながらこちらを見ていたあの時の少年・・・


『⁉お前はあの時の・・・』


言いかけたエリシアの言葉にかぶせるように少年が言葉を発する。


『あのさー・・・貴様とかお前とか・・・俺にはフィンって名前があるんだけど・・・失礼な奴だな・・・』


干し肉をかじりながら、聞こえる声でボソリと言うフィン


『スマン、軍にいるとどうしても口調がこうなってしまうのだ・・・他意はない。』


少しの沈黙・・・エリシアが口を開く


『改めて礼を言うフィン、君に助けられたのは2度目だ』


2度目?フィンは少し疑問に思ったが何も言わなかった。


『申し遅れた、私はエリシア・・・神聖帝国の将校だ』


フィン、エリシア・・・二人の出会いによって物語の歯車は少しずつ動き出した・・・静かに・・・

それはまるで、じっと夜明けを待つ夜の森の静けさの様でもあった。



4.信仰深き青年


二人は歩いていた・・・

森から森を、時には丘を登り、谷を越え・・・

歩き始めたのは今から2日前だったろうか・・・歩きながらエリシアは横穴でのフィンとの会話を思い出していた。

名乗りあった後の会話を・・・



無言の時間は長かった。

焚火の火を眺めながらエリシアは考えていた、今まで自分に起った事、これからの事・・・

何本目かの薪を火にくべようとした時、無意識に思っていた事を口にしてしまった。


『私は・・・間違えてしまった・・・』


ボソリと呟いたエリシアにフィンが言う。


『確かにそうかもな、あんな無茶な戦・・・でも、あんたはよくやったんじゃない?普通だったらとっくに死んでるぜ?』


うなだれるエリシア。

それを横目に見ながらフィンが続ける。


『あれは明らかに仕組まれてただろ?誰が指揮をとっても結果は変わんなかったと思うぜ?』


その言葉にエリシアの肩がピクリと反応する

フィンは続ける


『まあ・・・よくわかんないけど、アンタはまだ生きてるし、生きたいんだろ?じゃなきゃ俺に付いてこなかったわけだし・・・』


少しの沈黙の後エリシアが口を開いた。


『・・・最後まで勇敢に戦うつもりだった・・・戦場で死ぬ覚悟も・・・』


その言葉を聞いてフィンは、あの時のエリシアの目を思い出していた。

あの恐怖と覚悟が入り混じった目を・・・


『死ぬ覚悟?どんな覚悟だよ・・・』


フィンは思わず口に出てしまった。

森で生きてきたフィンには理解のできない事、怒りを通り越して呆れの感情すらあった。


『確かにな・・・その結果がこのありさまだ・・・死んでいった兵には悪い事をした・・・』


悔んでも悔み切れない・・・状況がまだ悪化する前に撤退もできただろう・・・【女神リン】の再来と期待され引くに引けなくなっていた・・・後悔がエリシアを襲う。


『で、これからどーすんだ?帝国へ帰るのか?』


フィンの問いにエリシアが答える。


『帝国へは帰るつもりだ・・・ただ、帝国側にも【敵】がいるかもしれん・・・』


【敵】の言葉にピクリと反応するフィン。

エリシアは左手を顎に置き悩むそぶりを見せ・・・


『このまま、まっすぐ帝国へ帰るのは危険か・・・もし【敵】がいるとしたら、私の生死が判って無いうちは・・・』


ボソボソと自分に問いかけるように呟く。

その後、眉間にしわを寄せながら少し考え込み、何かを閃いたようにフィンに問いかける。


『君は森の民だな?旅をしながら生活している・・・君なら迂回して帝国に入る道を知ってるんじゃないか?迂回しながらの帝国までの道案内を頼めないだろうか?報酬は必ず払う!』


突然の申し込みに戸惑うフィン・・・

もうすでに厄介ごとに首を突っ込んでいる、これ以上の厄介ごとは・・・と思う反面【乗りかかった船】でもあり、何よりエリシアの目が気になった・・・真っ直ぐな目・・・

頭を抱えて悩むフィン。

フィンは迷った時や悩んだ時、選択を迫られる時はいつもこう考える。

【こんな時、父さんならどうする?】

少し悩んだ後・・・


『わかった、道案内を請け負うよ・・・報酬は大丈夫なんだろうな?』


フィンの問いかけに、力強く答えるエリシア。


『感謝する!報酬は心配するな【宛】はある!』


【宛】ねぇ・・・真っ直ぐな目で力強く言うエリシアの言葉に、一抹の不安を覚えながらフィンは無言で焚火を見つめていた。

こうしてフィンが道案内をする形で、二人は帝国を目指す事になったのだった。



さらに2日、森を歩き山をいくつか超えたあたりだっただろうか・・・歩くペースが極端に落ちてきたのをフィンは感じていた。

後ろを歩いているエリシアに目を向けると、明らかに疲労の色が見えるのを感じる・・・足取りは重く、呼吸は浅い。

それでも弱音は吐かず遅いペースながら黙々と付いてくる。

ここまでろくに睡眠もとらず、食料は干し肉程度の粗末なものしか口にしていない。


『・・・少し街に寄ろう、ここまで来れば戦の影響はないだろうし食料も調達したい。』


フィンが提案するとエリシアは、大きく頷き答える。


『私もそれを考えていた・・・このまま歩き続ける事もできるが、食料がなくては旅は続けられんからな。』


強がりなのか、本心なのか・・・相変わらず真っ直ぐな目で答える。


『じゃあ決まりだ。とりあえずアンタはこのマントをかぶって顔を隠してくれ、特に髪は出ないように。』


フィンの提案に、首をかしげるエリシア。


『顔を隠せと・・・確かに刺客を警戒するのは解るが・・・』


素朴な疑問を抱く。

戦場からはかなり離れたし、ここは帝国領ではない・・・自分の顔を知る者もいないだろう・・・【顔を隠す】は解るが、髪まで出さないように・・・そこまで警戒する必要はなのでは?


『言われた通りにはするが・・・何故だ?そこまでしなくても・・・』


言いかけたエリシアにフィンが答える。


『目立つんだよ・・・ここはダラ信仰圏の国だから、アンタみたいな帝国人丸出しの外観だと注目されちまう・・・特にアンタの髪色と目の色は・・・ここは帝国との交流もあるところだから帝国人も珍しくはないんだけど・・・度が過ぎるというか何というか・・・』


フィンは知らないが、エリシアは正当な帝国王家の姫で、外観は帝国人特有そのものだった。

特に髪の色は、白に近い金色・・・瞳は燃えるような緋色だった・・・見る人が見れば王家の人間とすぐわかる程に・・・

フィンも、こんなはっきりした帝国人の特徴を持つ人物を見たのは初めてだったので説明に苦しむ・・・

エリシアはさらに首を傾げながら。


『そぉいうものなのか・・・色々な戦場へ行ったが気にした事はなかったな・・・』


ボソリと呟く。

その姿を見ながら、フィンがボソリと呟く・・・


『・・・アンタ鏡とか見ないの?』



二人は森から街道に出て街を目指して歩いた。

街道では幾人かの旅人や行商とすれ違ったが、戦の影響はなさそうだった。

街らしきものが見えてきたところだった・・・大きな木の下に立っている僧がいるのが横目に見えた。

その僧はボロボロの着物を着て一心不乱に念仏を唱えている・・・足元には風呂敷が広げられていて数枚のコインが入っているのが見えた。

托鉢?・・・修行僧か・・・二人がそう思った瞬間、念仏を唱えていた僧が突然、膝から崩れ落ち地面に倒れた。

思わず駆け寄る二人。


『おい!大丈夫か?』


フィンが声をかけたが返事がない・・・容体を確認する。

脈はある・・・呼吸もしている・・・どうやら気絶しているようだった。

気絶した修行僧を見ながら、エリシアは困り顔で呟く。


『弱ったな・・・このままにしておくこともできんしな・・・』


水も食料もほとんど底をついているし、今は夕暮れ・・・夜の足音が目前まで迫ってきている状況だった。


『とりあえず・・・街も近いし一旦宿をとってそこに運び込もう。』


エリシアの提案にフィンは少し焦った様子で答える。


『宿をとるは良いけど、金はどーすんだ?路銀もあんまないぞ?』


エリシアは自分の指から指輪を取り外しフィンにみせる。


『それなりにする物のはずだ、これを宿に渡せば一晩ぐらいは・・・確かめてくれ。』


フィンはその指輪を受け取ると指輪を観察する。

金の指輪・・・外回りは炎を模した装飾が施されていて、細工はかなり細かく手間がかかっているのが素人のフィンにもわかるほどの一品・・・

一目で高値なのが分かった。


『おいおい・・・こんな物・・・宿代どころか宿ごと買い取れるんじゃないか?大切なものじゃないのか?換金できるような所はここいらには無いし宿代だけで渡しちまうのは・・・』


戸惑いながら問いかけてくるフィンに対しエリシアは意外にもなんの感情も見せずに答える。


『国の姉上から頂いた指輪だが背に腹は代えられんし、私にはもう必要ないものだ。』


感情のない答えにフィンは引っ掛かりを覚えたがそれ以上は聞かないことにした。

これはエリシア自身の問題で、自分が踏み込んでよい事ではない・・・と直感したのだった。


二人は意識をなくし倒れた修行僧を担ぎ街へ到着した。

修行僧は背も高く一見重そうに見えたが、担いでみると案外軽く助かった。

この街に一つだけある宿にたどり着き、事情を説明して指輪を見せると、店主は指輪と引き換えに食事つきで3人を一晩泊まらせてくれることをニコニコしながら快諾してくれた。

修行僧を部屋に運び込み、ベットに寝かせ小一時間様子を見ていると、ようやく修行僧が目を覚ました。


『ここは・・・私は・・・』


朦朧としながら、上半身だけをベットから起こし、蝋燭の明かりでかろうじて見える薄暗い部屋の様子を見渡す。


『アンタ街道の木の下でぶっ倒れたんだぜ・・・ほら、水。』


フィンが手渡した水をグイグイ飲む修行僧・・・ひとしきり飲み終わって落ち着くと・・・


『ありがとうございました。助かりました。祈りを捧げる事に夢中になり過ぎてしまいました。』


フィンはその言葉を聞き、暖かい粥を渡しながら問いかける。


『夢中になって倒れたって・・・どんくらい祈ってたんだ?』


単純に疑問に思った・・・フィンは森の民で自然に感謝する事はあっても祈りを捧げる習慣はなかった・・・だから不思議な感覚を覚えた。

そんなフィンの戸惑いをよそに修行僧は答える。


『あまり覚えてないのですが・・・早朝から始めたので半日ほどでしょうか?その間飲まず食わずでしたので・・・倒れたのはこれが原因でしょうか・・・』


少し恥ずかしそうに答えたが、その表情には少し誇らしげな感情が見え隠れしていた。

そんな修行僧を見てなぜか深く頷くエリシア・・・


『なかなかできる事じゃない・・・信仰するものは違うがその信仰心は本物だ。』


『おいおい・・・半日飲まず食わずで念仏唱えててぶっ倒れたんだぞ・・・』


フィンには到底理解できない会話だった。

1人戸惑うフィンを横目に・・・


『申し遅れました、私の名は【ノクス】・・・巡礼の旅をしていて、各地を巡り祈りを捧げている僧でございます。』



その青年は巡礼の旅をしていた。

名は【ノクス】僧名だった・・・本名ではない・・・

歳は二十・・・

女神ダラを信仰する国に生まれ、今までの人生のほとんどを信仰に捧げて生きてきた。


【ダラ信仰圏】

ダラ信仰には決まった国はなく、色々な国をまたいで信仰されている。

その為、ダラを信仰している信者が多い国や地域を人々は【信仰圏】と呼んでいた。

【安らぎ】

【静寂】

【死後の休息】

祈りによって苦しみから人々を遠ざけ、心を鎮める・・・

これが教えだった。

ノクスはこの教えを愚直に守り日々祈りを捧げる事に邁進してきた。


・・・ダラの教えでは二十歳になった年に巡礼の旅に出るという慣例があり、昔は当たり前のことだったが今となっては、そんな慣例は骨董品の様に扱われ若い世代では行う者などほとんどいなかった。

巡礼の旅が終わると出家して残りの一生を神殿で祈りを捧げて過ごす・・・ノクスもそのつもりだった。

だから、最後に世界を見て回り、感じておきたかった・・・より良い祈りを捧げるには世界を知らなければならないと感じていたのだった。


そんな事をフィンとエリシアに力説するノクス。

あんなに長かった蝋燭がもう親指の先ぐらいまでになっていた。

この話が始まってどれくらいたっただろう・・・このまま朝までしゃべり続けられてはたまらない・・・

そうフィンが思っているとエリシアが口を開いた。


『私にも信仰するものがある・・・あったというべきか・・・祈っているばかりでは何もできない事を私は戦場で学んだ。』

誰にいうでもなく呟いたようにフィンには見えた。

エリシアの様子をうかがいながらノクスが問いかける。


『あなたの信仰していたものとは?』


少し考えてエリシアは答えた・・・


『私の信じていたもの・・・国家・・・といえば大げさか・・・』


答えたエリシアの顔は少し寂しそうにフィンには見えた。

国に裏切られる・・・国を持たず、一人で生きてきたフィンには想像もできない事だったが、エリシアの寂しそうな顔を見て出かけた言葉を呑んだ・・・

エリシアは今からその【信じていたもの】と対峙するために自分の国に帰るのだ・・・今思えばあの横穴でその覚悟をなんとなく感じていたから案内役という面倒事を引き受けたのかもしれない・・・そんな事を蠟燭の火を見つめながら考えていた。


『そうですか、何やら訳がありそうですね・・・私はあなたのために祈る事しかできない・・・祈らせてくださいませんか?』


ノクスはそう言うと深く目を閉じてエリシアの為に祈った。

エリシアも目を閉じ祈った・・・まるで不安な気持ちを隠すように・・・

それを見ながらフィンは瞼を閉じ眠りについた。



翌朝、疲れもあってか泥の様に寝ていた3人は朝食を運んできた宿屋の店主に起こされた。

朝食のいい匂いが部屋中に立ち込めて3人とも腹の虫が鳴った。


『さぁ、朝食をとったら出発だ、フィン!あとどのくらいで帝国領に入る?』


エリシアの問いに答えるフィン。


『そうだな・・・あと山を二つほど超えれば帝国領に入るはずだけど、この街の感じからして、街道を利用しても問題なさそうだ・・・道の良い街道を歩けば遅くても明日には帝国領に入れるってとこかな?』


朝食をとりながらしゃべる二人の会話を聞いていたノクスは、少し聞きづらそうにしながら二人に問いかける。


『あのー・・・助けてもらった人の名前を知らないのは罰当たりと言うか・・・よかったら、お二人ともお名前を教えてもらってよろしいでしょうか?』


その言葉にハッとする二人・・・

昨夜、ノクスが名乗ったのに自分たちはまだ名乗っていない事をここで気づいたのだった。


『すまん!名乗り遅れた・・・私はエリシア、帝国の軍人だ。』

『俺はフィン、森の民って呼ばれてる奴らのひとりだ。』


少し慌てた様子で二人は名乗った。


『エリシアさん、フィンさん、昨日はありがとうございました。改めてお礼を申し上げます。』


ノクスの【さん】付けにフィンが吹き出しそうになりながら答える。


『フィンでいいよ!【さん】とか言われ慣れてないからくすぐったいし・・・それにアンタのほうがどー見ても年上だしな。』

『私も同じだ。』


二人は笑いながら答えた。

ノクスは微笑みながら、そんな二人に問いかける。


『色々【訳あり】の様ですが、話を聞いている感じ、これからお二人は帝国領に向かわれるのですか?』


エリシアが答える。


『そうだ、帝国領・・・いや、王都ルクスへ向かう予定だ。』


それを聞いたフィンは少し驚いた様子でエリシアに言う。


『王都まで行くつもりだったのかよ・・・俺、王都なんて都会は行ったことないぞ⁉』


そんなフィンにエリシアは少し申し訳なさそうにして答えた。


『大丈夫だ・・・私の知っている街まで案内してくれれば、あとは一人で何とかする・・・面倒ごとに巻き込んでしまってすまない・・・』


神妙な面持ちで答えるエリシアに、フィンは少し呆れた顔で・・・


『報酬はどーすんの?【宛】とやらはその街にいるのか?ただ働きは御免だぜ?アンタ・・・もしかして約束忘れてないか?』


それを聞いたエリシアは焦った様子でアタフタしながら腕をバタバタさせながら答える。


『忘れてなどいない!王都に付けば報酬を必ず渡す・・・知っている街まで行ったら、今度は私がフィンを王都へ道案内しようと思ってたんだ。』


さっき、一人でどーの・・・とか言ってなかったか?絶対忘れてたよな・・・。

フィンはエリシアにどこか抜けている・・・いや、【浮世離れした】何かがあると感じていた。

一見しっかりしているようで、たまに可笑しな事を言う・・・外見も・・・。

そんなフィンの違和感を知ってか知らずか、二人のやり取りをニコニコ見ていたノクスが言う。


『お二人は帝国王都まで行かれるのですか・・・ならば、私もご一緒してもよいですか?一度、純粋なリン信仰の国に行ってみたかったんです・・・私達の信仰とは相容れない部分がありますが、そこで人々はどんな暮らしをしているか興味があるのです・・・それに、お二人を見ていると帝国人も悪い人ばかりではないようなので余計興味がわきました。』


ノクスの問いかけにフィンは思わずツッコむ・・・


『俺・・・帝国人じゃないぞ⁉』


思わず笑うエリシアとノクス。


『違いない!』

『これは失礼しました。』


フィンは笑っているノクスに問いかける。


『付いてくるのは勝手だけど、危険はあるぜ?なんせ、この人【訳あり】だしな・・・』


そう言ってエリシアのほうを見るフィン。


『確かに・・・あまり巻き込みたくないんだが・・・』


少し困った顔でノクスを見るエリシア・・・

そんな二人に笑顔だった表情を真顔に変えて答えるノクス。


『それは承知の上です・・・どうしても行きたいのです!私には時間が・・・それに私は【奇跡】が使えます!・・・え~と・・・帝国で言うところの【魔術】と呼ばれているものです。』


ノクスの真剣な眼差しに、この人も【訳あり】かぁ・・・と感じるフィン。

エリシアは【魔術】という言葉に驚きを隠せないでいた。


『【魔術】・・・手を触れるだけで傷を癒すだの、幻覚を見せて人を操るだの・・・怪しげな噂を聞くやつのことか?』


一気に顔が曇るエリシア・・・

そんなエリシアに、焦ったノクスがいつもの柔らかい表情に戻って言う。


『怪しくはありません、よかったら目の前で【奇跡】を見せましょう・・・そうだな・・・フィンさんの、この手の傷を目の前で癒しましょう!フィンさん手を貸していただけませんか?』


ノクスはフィンの手の平に付いた小さな傷を指さす。

ここまでの旅の途中にできた切り傷だった・・・狩りの時などに痛みが邪魔で矢を正確に放つ事が出来ず困っていた傷だった。

ノクスは、手の平に付いた小さな傷に自らの手をかざすと、目を閉じて祈り始めた。

ノクスの手がほんのりと輝き、フィンが手の平に少し温もりを感じた瞬間、傷から痛みが引いていくのを感じ手の平を確認する。


『すげーな⁉ホントに治ってるぜ⁉傷も消えてらぁ。』


目を丸くして驚くフィン。


『実在するのだな・・・まやかしか何かだと思っていた・・・』


エリシアも驚きを隠せないでいた。

そんなエリシアにフィンが興奮気味に言う。


『よし!ノクスを連れて行こう!怪我した時とか絶対役に立つだろ。』


エリシアは少し悩んで・・・


『確かに【魔術】もだが、食料などの荷物も分散して持てるからな・・・よし!一緒に行こう。』

『ありがとうございます!よろしくお願いします!』

『怪我したらよろしく頼むぜ!』


こうして三人は神聖帝国王都ルクスに向かうことになった・・・

フィン、エリシア、ノクス・・・

これから、この三人の若者を待ち受ける運命とは・・・

ただ、空高く昇った太陽の光が三人の進む道を照らしていたのであった。



第一章 【出会い】 完。






読んでいただきありがとうございました。

お話の中心となる3人が出会いました。

これからどんな旅が待ち受けているのか・・・

第二章に続く

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