↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

遺灰が芽吹く世界で

芽吹く場所を決めた日

作者: ヒトミ
掲載日:2026/09/04

この槍、いーな。


武器屋の店先に飾られた一本の槍を見て、イオールは内心で呟いた。


槍の穂先に不敵な笑みを浮かべた赤目の男が映り込んでいた。


「おーい、店主! これ、貰ってくわ」


店の入口から顔を突っ込み、武器の手入れをしている仏頂面の店主に声をかけると、店主がイオールの方を見て怪訝そうな表情になった。


「……そんな細身の体で、その槍扱えるのか?」


店内の姿見に映り込んだ自身の姿をちらりと見る。


癖の強い金髪が、肩下までうねりを持って垂れ、色白の顔を覆っている。


鋭い赤い目を囲む睫毛は長く、唇は薄く血を塗ったように朱(あか)かった。


しかも、服から覗く鎖骨や二の腕には、薄い筋肉がついているだけで、なるほど、疑われるわけだ。


「だーいじょうぶ、大丈夫! ちいせー頃から槍ぶん投げてたから」


店主の顔がますます渋くなる。


やべ。


懐から浮遊樹(ふゆうじゅ)の樹液を取り出し、袋ごと店主に投げ渡す。


「それ、代金! 武器を造るときにでも使ってくれ。じゃーな!」


店先の槍を担いで、店から背を向け翼を広げる。


黄金色の翼が一対、バサリと風を扇いで、イオールは一息に空へと舞い上がった。


「おい! これは多過ぎる……って、あの男、神木守(しんぼくもり)だったのか……。道理で」


店主は朝陽に目を細めて、槍を持って行った男の姿が、境界の外、腐敗の地へと消えて行くのを見送っていた。


◆◆◆


どっかにいい浮遊樹、浮いてねーかな。


胞子で濁った眼下の野を越え、森を越えながら空中を見渡す。


「あんじゃねーか」


枯葉を繁らせた空中に根を張る浮遊樹が、前方を漂っていた。


鳥の巣のように幹を覆っている枝葉の間に、空を泳ぐ腐怪(ふかい)が見え隠れしている。


「それは俺の止まり木だっ……ぜ!」


買ったばかりの槍に雷を纏わせ、力一杯ぶん投げた。


紫電が空中に尾を引きながら、浮遊樹に巣食っていた腐怪を清々しいほどに一掃して、遥か遠くの空へと消えて行く。


「……あ、俺の槍ぃぃ! どっか、行った……」


一回しか使ってねーのに。


腐怪を浄化した浮遊樹の太い枝に足を乗せ、翼をたたむ。


「浮遊樹さーん。向こうの方に飛んでくんね?」


槍が消えて行った方を指差して、樹の幹を軽く叩く。


けれど浮遊樹はイオールの気も知らず、のんびりと空を漂うだけだった。


◆◆◆


太い枝に腰を下ろし、神木の地で買った果物を口にしながら、ゆっくりと流れていく景色を見詰める。


好都合なことに、槍を無くした方角に浮遊樹は漂い続けてくれていた。


地上は、薄暗く濁っている。


灰色の世界だ。


……でも、神木が芽吹いた場所は浄化される。


今は腐っている森も、ドロドロとした川も。誰かがそこで根を張れば、いつか未来で色を取り戻すだろう。


「さて、俺はどこで芽吹こうかねー」


浮遊樹に寄り掛かり、頬を撫でていく風を感じる。


上空は地上よりも澄んでいる。


それでも、神木の地ほど綺麗な空気ではない。


目を閉じて、どのくらい経ったのか、雨の匂いでぱちりと目を開けた。


いつの間にか陽が傾き始めていた世界で、前方に切り立った鋭い岩山が点在する地を見つけた。


そして、間近の岩山のてっぺんに、折れた槍が突き刺さっているのが見えて、槍のそばに群がる腐怪まで見てしまい、額に青筋が浮かんだ。


「俺の槍に何しやがった!? 許さんッ」


翼を広げて浮遊樹から飛び立つ。


手の中で雷を槍の形に創り上げ、腐怪に狙いを定める。


イオールの髪がバチバチと紫電を纏って逆立っていた。


形を成した雷の槍を振りかぶり、全力で投げ飛ばす。


槍が放電しながら岩山の腐怪を貫き、ついでに折れた槍まで黒炭みたいに粉々にして、消し去っていった。


「……まじかよ……酷(ひで)ぇ」


片手で額を押さえて、ふらふらと岩山のてっぺんに降り立った。


槍の粉が風に吹かれて、岩山の下に落ちて行くのを、崖淵に腰掛けて眺める。


遥か下の方に、なかなか広い盆地があった。


暗く濁っているのは、他の場所と変わらない。


だが、こんな大地一面が草花で覆われたら、それはもう、見応えのあるものになるだろう。


「ここに、するか……。浄化されたら、綺麗じゃね?」


イオールはまだ若かった。


寿命がくるまでに、芽吹く場所を決めればいいと気ままに旅をしていた。


そしてこの日、イオールは未来の景色が綺麗だろうと想像しただけで、この地を自身が芽吹く場所に決めたのだった。


立ち上がったイオールは、雷を手に纏わせて、岩山のてっぺんを浄化し、戻ってくる目印にして、また気ままな旅へと翼をはためかせて、空に舞い上がった。


END


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。