表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

 遠ざかっていく蒼月の背を見えなくなるまでじっと見守り続けた。人の形を成して石の上に座る。これでもう住処に人間が来ることはなくなった。


 その事実が心にぽっかりと穴を開ける。蒼の一族を閉じ込めたのは、初めは腹いせのつもりだったが、年月を重ねていくうちに人間とともに在ることが楽しくなった。独りぼっちで長い間いた黒曜にとって、住処に己以外がいるということが新鮮で離れ難くなっていったのだ。


 しかし、こんな独り善がりの欲で人間を、蒼月を縛り付けてはいけない。愛し子を縛ってはいけない。だから、解放することにした。


「けど、そなたが死す時まで、我はそなたを守り続けるぞ」


 流石に此度のように命を救うまではできないが見守ることはできる。けれど、二度と会うことはない。そう思って黒曜は湖に沈んでいく。


 だが、黒曜の思惑はすぐに外れることとなる。数日後、蒼月が冬華を伴って湖にわざと落ちたのだ。溺死などさせられないと分かっているが故の大胆な行動に黒曜は青筋を立てる。


「今生の別れなんて認める気はないから。独りは寂しいだろう。だから、黒曜も村に来れば良い」

「村の皆さんも龍神様なら大歓迎だと仰っております」


 まるで夢物語のような提案に頭がついていかない。蒼月はやたらと物分かりよく身を引いたのは、村への手回しを先にする気だったからということか。ここで断っても良いが、断れば居座り続けるか、何度も湖に身投げするだろうというのは容易に想像がついた。


「逞しく育ちすぎであろう」


 黒曜は呆れた声を出しながらも内心は喜びを隠せない。龍神と人、同じ心を持つ生き物であるなら心は通じる。そう初めて黒曜に呼びかけたのは、龍神を頼りに来た蒼の一族であった。眉唾だと嘗ては吐き捨てたが、強ち間違いでもなかったかと微笑む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ