29話
王太后がかかった精神支配は、俗に言う禁術だ。
禁術はお伽話めいたものとしてこの大陸では語られている。
街一帯が石化したり、突然人が暴れ出したり。
そういった話を多くの人は、ただのフィクションだと思っていることだろう。
それの大体が事実であることを知っている人物は、一部の権力者のみだ。
だが実際、お伽話に出てくる恐ろしい魔法は、すべて実在している。
人を石化したり凶暴にしたりすることを禁術は可能にするのだ。
そんな近述の中で最も国民たちの間で語られるお伽話は、心を支配された国王の物語だろう。
彼はある日、美しき女性を見つけた。
その女は名前も名乗らず、声も出さない女だったらしいが、国王は気にせず彼女を妃に迎え入れた。
彼女との結婚は反対も多かったが、徐々に彼女のことを応援する者が増えていったらしい。
彼女は相変わらず声を出さないままだったが、国王の愛は増す一方で、徐々に政務を疎かにするようになった。
彼女と共に過ごす時間がだんだんと増え、国王は彼女のために国を蔑ろにした。
やがてその王は、自分が信頼していた家臣に討ち取られ、彼の遠縁が王位を継ぐ事になったといった話だ。
なお、この話に出てくる女性は物語上は化け物だが、実際は他国の工作員だったのではないかと言われている。
なんにしてもそれ以降、精神支配は禁術となった。
さて、この話に出てくる魔法にアデリーナはかかってしまっている。
アデリーナにかけられた魔法は、古代魔法の中でも滅多に見られないもので複数の魔法を緻密に正確に組み合わせたものだ。
魔法を部分的に解除しようとすればするほど魔法が崩壊し、さらにアデリーナに負担をかけてしまうといういやらしい仕組みをしている。
そして、もう一つ困った事が起きている。
この魔法は、明確な自由意志を持って魔法に変化を促している事だ。
つまり進化する。
現に、アデリーナの肉体には少しずつ影響がある。
このままではまずいと思っていたところに、ファーストから報告が来た。
ファーストの報告は、
「聖ヨガ王国の接近に対する対策を行うため、あかりが独断で動きました。現在聖ヨガ王国と正面衝突し、犠牲者が100人ほど出ております」
という、衝撃的なものだった。
報告の内容は、私の理性を消し飛ばすには、十分すぎるものだった。
放心状態を超えて怒りが、そして悔しさと悲しさが私をおそった。
いっそのこと私が軍勢を皆殺しにしてやろう、そう思った時突然、声が聞こえて来た。
間違いなくアデリーナのものだった。
間違えようもない。
だが彼女の声は、普段と違って穏やかでとてもすがすがしくさっぱりしたものだった。
そんな彼女に、
「あなたには、感情に任せて行動するほど暇があるのですか?」
と皮肉気に言われてしまった。
さらに、
「あなたに必要なものを与えましょう。私の思いと信念を受け取ってください」
とも。
目を開けた時、そこにアデリーナはおらず、気絶したアレクサンダーがいるのみだった。
代わりに、私のもとに莫大なアデリーナの意思を受け継いだ魔力。
そして、ランディーネ侯爵家の記憶とアメリアの記憶のみが、私の体に流れ込むのだった。
ランディーネ侯爵家の歴史と信念。
そして、アデリーナの意思。
この二つが、然るべき人間に戻ったとも言えるだろう。
アメリアの知らない誰かの記憶がアメリアと交わり、新しく記録されていく。
ちょうど区切りがついたかなと思いますが、私は連載し続けます。
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