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本当の世界?  作者: N
4/7

第四話

日曜日の午後。外はやけに静かだった。


風もなく、車の音も聞こえない。


ふと、世界が止まったような気がして、息を吸い込む。


この静けさの中に、何かがひそんでいる。

水希には、そう思えてならなかった。



「あんまり鏡ばかり見ない方がいいよ」


月曜日の昼休み。陽向がそう言った。


「昨日、スマホのカメラで自分を見てたとき……変だったんだ」


「変?」


「うん。鏡越しに見た自分が、ちょっと遅れて動いた気がして」


陽向は笑いながら言ったけど、水希の背中には冷たい汗が伝っていた。


「……それ、よくあるやつ。たぶん、錯覚だよ」


震える声でそう答えると、陽向は少し心配そうに水希を見た。


「水希、最近ちょっと変だよ。……大丈夫?」


その一言で、すべてを吐き出したくなった。

でも、それをしてしまえば、「完全に変な子」になる気がして、

口をつぐんだ。



放課後、水希は一人で図書室に残った。


誰もいない窓際の席で、本を開くふりをして、

ノートを広げる。


私が知っている“私”と、鏡の中の“私”が別人だったら?

いつから違っていた?

それとも、最初から私は……偽物の方だった?


答えのない問いばかり、どんどん出てくる。


図書室のガラスに、うっすら自分の姿が映っていた。


……あれ?

反射の中の自分の顔が、少しだけ違って見える。


鼻の高さ? 目の大きさ?

いや、もっと曖昧な……“印象”が違う。


じっと見ていると、反射の中の「私」が、

にやり、と口角を上げた気がした。


水希は、音もなく立ち上がって、ノートを閉じ、図書室を出た。


廊下に出ると、ふらついて壁に手をつく。


呼吸が浅い。手が冷たい。


(私、壊れ始めてる……?)



家に帰っても、落ち着かずに部屋のカーテンを閉めた。


机の上のスタンドライトだけをつける。


そのわずかな光で、本を読む。


でも、文字が波打って見える。


……視界の端に、動いたものがあった。


顔を上げると、部屋の隅に置いてある姿見が映る。


本を読む“私”が、静かにそこにいた。


それは、私の動きにぴったり合わせてページをめくっている。

顔の角度も、手の位置も、完璧に一致していた。


――なのに、水希は確信した。


あれは、自分じゃない。


何かが違う。


「……ねぇ」


自分の声が、鏡の向こうまで届いたかのように、

映った“私”が、ほんのわずかに顔を傾けた。


その瞬間、水希は立ち上がって鏡に背を向けた。


(これは夢。妄想。思い込み)


何度も心の中で繰り返して、

ベッドにもぐりこむ。


でも、背中に、視線を感じた。


冷たく、じっと、絶え間なく。

まるで、鏡の“中”から。


続きは明日の夜投稿します

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