表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本当の世界?  作者: N
3/7

第三話

鏡の中の私は、完璧すぎる。


眉の動きも、口元も、まばたきのタイミングすら、

まるで計ったみたいに“ぴったり”で、ズレがない。


それが、逆におかしい。

生きているはずの私より、生き物っぽくない。


――あれって、ほんとに私?



土曜日、家の中に家族の気配がない時間。

部屋に一人きりで、本を読もうとしたのに集中できない。


書きかけの日記帳を、そっと開いた。


鏡の私は、今日も静かにこっちを見ていた。

笑っていなかった。でも、どこか満足そうだった。

私のこと、ずっと見てる。私より、私を知ってる気がする。


ページのすみに、“目”の絵をいくつも描いていた。


じわじわと、不安が染みてくる。

「見られている」という感覚は、誰にも言えない。

言ったところで、また笑われるだけだ。


「私、変なのかな」


小さくつぶやいた声が、自分の耳に届いてびくりとする。

なんだか、家の中がすごく静かだった。冷蔵庫の音さえ気になる。


水を飲もうと洗面所へ行った。


鏡の中の自分が、じっとこっちを見ている。


いつも通り。何も動いていない。

でも、その“何も起きていないこと”が、逆に怖かった。


怖くて目をそらしたくても、なぜか離れられなかった。


手を伸ばして、鏡の表面を指先でなぞってみる。

自分の指が、映る指とぴったり重なる。

そこに冷たいガラスの感触がある。

当たり前。それはただの鏡。


「……なんで、ずっと見てるの?」


そう言った自分の口元と、鏡の中の口元が、

少しだけ、ズレた気がした。


本当に、一瞬だけ。でも、確かに。


ぞわり、と背筋を何かが這った。


次の瞬間には、いつも通りの私。まったく同じ、私。


心臓が、ずっと早くなっている。

なのに身体は動かない。目が鏡から離れない。


――逃げなきゃ、と思った。


でも、動けなかった。

鏡の中の私が、じっと、じっと私を見ている。


まるで、次の動きを待っているみたいに。



夜になっても、その瞬間のことが忘れられなかった。


ベッドに入って、枕の下に日記を隠す。


明かりを消すと、世界が闇に沈む。

でも、目を閉じても、まだあの目がこっちを見ている気がする。


どうして、私を見てるの?

ほんとうに私?

もしかして、私より先に“気づいてる”?

こっちは、偽物なのかな。


次の話は明日の夜に投稿します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ