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本当の世界?  作者: N
2/7

第二話

翌朝、目を覚ましたとき、まず鏡を見ないようにしていた。


洗面所のドアを開ける前に、心の中で「普通の朝」と三回唱える。

そうすると、昨日のことはちょっとだけ夢みたいに遠くなる。


でも、鏡の前に立ってしまえば、全部戻ってくる。

映っているのは確かに私のはずなのに、何かが少し、ズレている。

髪の毛の流れ。目の開き方。姿勢。…そんな、些細な違い。


きっと、自分が思っている「自分」と、実際に見える姿が違うだけ。

昔、本で読んだ。鏡の中の自分は、他人から見た姿とはまた違うって。

わかってる、理屈は。


でも、怖いものは怖い。


教室に入ると、陽向が声をかけてきた。


「水希、昨日より元気なさそう。大丈夫?」


「うん、大丈夫」


ほんとは、全然大丈夫じゃなかった。

でも、“変なこと”は言わないって、決めていた。


休み時間。窓側の席で、本を開く。

でも、活字が頭に入ってこない。


気づけばまた、鏡を見てしまっていた。

スマートフォンの画面。画面オフにすれば、ほのかに自分の顔が映る。


……無表情。でも、どこか笑っているようにも見える。


「水希、スマホ見すぎ! 目、悪くなるよ」


後ろの席の男子に軽く注意されて、ハッとする。


「もう悪いから……これ以上悪くならないよ」


笑ってごまかす。

でも心は、ぐらぐら揺れていた。


帰り道、電車の窓に映る自分を見て、また違和感を覚える。


メガネの奥で、自分の目が、自分をじっと見返している気がする。

他人みたいな、誰か知らない人の目。


「どうして、見てるの?」


小さくつぶやいて、電車の窓から視線をそらした。


帰宅してすぐ、ノートを開く。


今日も、鏡の私は笑ってない。

でも、なぜだか“嘘ついてるように見える”。

本当は、向こうの私は何か知ってる。

私だけが、知らないまま過ごしてる。


ノートの端に、小さな自分の顔を落書きする。

そこには、うすく、うすく笑みが描かれていた。


…………


翌週の金曜日。保健室へ行くことにした。


「なんか、ちょっと頭が痛くて」


「最近疲れてる? 眠れてる?」


保健の先生は、優しい声でそう聞いた。

水希は、数秒だけ迷って、こう言った。


「鏡に映る自分が……ちょっと、違って見えるんです」


先生は、ほんの少しだけ眉をひそめて、それから笑った。


「あー、あるある。成長期の自己認識ズレっていうの。

自分が思ってる顔と、実際の顔が違って見えて気持ち悪くなるやつ」


「……そういうの、なんですか」


「そうそう。あんまり深く考えない方がいいよ。

変な動画とか、ホラーとか、見てない?」


「……見てません」


わかってた。

誰も、本当に信じてくれないって。

でも、ちょっとだけ期待して、言ってしまった。


その帰り道、水希は鏡を見なかった。


続きは明日の夜投稿します

読んでくださってありがとうございます


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