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イリール・ウィスト②

「えっ……ここは」


 気づけばイリールは、ただ真っ白な空間に立っていた。

そこは文字通り何もなく、白い空間が途方もなく広がっているだけだった。


「やっぱりか。魂を消すのでも追い出すのでもなく、体の中に閉じ込めていたのね。わざとやったのだとしたら、相当性格が悪いわね」

「貴女は……!」


 突然の状況にあっけにとられたイリールは、いつの間にか目の前にいた少女の姿を見て名前を呼ぶ。


「サリー・テンポイント……」

「ありがとう、名前を憶えてくれて。男爵令嬢の名前なんて覚えていないかもしれないって思っていたけど」


 名前を呼ばれたサリーはニコッとして返事を返す。

対するイリールは戸惑いを隠せない。それは状況もそうだが、サリーの外見も見慣れないものだからだ。

サリーの服装は学園の制服でも知っているドレスでもなかった。イリールの知識にはないが、それは古代ギリシャのキトンに似た服を身にまとったものだ。

それになにより、一介の男爵令嬢とは思えない圧倒的なオーラが放たれているのだ。下手をすれば王家の人間すら跪けさせることもできそうな畏怖すら感じる。

 しかし仮にも公爵家の令嬢としてのプライドがまだ残っているのか、イリールは怯む様子を必死に見せまいとしてサリーと対峙する。


「ここは何。それに何なのその服は? 肌をそんなに見せてみっともない。まるで娼婦ね」

「まあこの世界の価値観だとそう見えちゃうか。世の中にはもっと過激なものもあるけどそれは置いておいて。

ここは私が作った特殊な空間。説明は省くけど、貴女とお話しがしたかったから用意したのよ

()()()()()()()()()()()()と」


 サリーのその言葉に、イリールは目を見開いた。だってそれは。


「貴女は……貴女は、わたくしがわかるの!?」

「そうでなきゃこうしてお話しできないわよ。まさか自分の中に閉じ込められているとは思ってもいなかったけど。

―――辛かったね?」


 サリーの言葉に、自分を認識してくれる人がいてくれることに、イリールの、ずっと耐えてきた心の防壁が、一気に崩壊した。

気づいたらサリーの胸元に飛び込んで子どものように泣き続ける。それをサリーは母親が幼子にするように抱きしめて、イリールの頭を撫でていた。


 ……イリールが泣き止むまでしばしの時間が経過し―――サリー曰く「ここでは時間の経過は無意味」らしい―――恥ずかしくなったのか泣きはらした顔を背けて、彼女は会話を再開することにした。


「それで、貴女は事情を知っているのね」

「ええ、それを今から教えてあげる」


 サリーは指先に光を灯すと、それをイリールの額に押し付けた。

すると彼女の脳内―――魂だけの状態で脳内という表現が正しいか疑問だが―――に、膨大な情報が流れ込んできた。

そのショックでたたらを踏み、頭を抱えたイリールはサリーを見つめる。


「……これは事実なのね」

「ええ、少なくとも貴女の体を使っている魂については間違いないわ」

「そう……」


 考え込むようにその場に佇むこと数分、頭を上げたイリールは決意を固めた表情で口を開いた。


「いいわ。貴女の計画に乗ってあげる。最後にあいつに復讐することさえできれば、もう後はどうだっていい」

「一応確認するけど、ご両親のことはもういいの?」

「ハッ!」


 サリーが問うと、イリールは鼻で笑った。


「わたくしが偽物と入れ替わっていることに欠片も気づいていないあれを親ですって。もうわたくしはあれに何の感情も持っていないわ。

……疲れちゃったのよ。期待して、信じて、裏切られて失望して。もう、何も思えないのよ」

「そう、ごめんなさい。じゃあ、卒業式の日にするけど。もう少しだけ我慢できるかしら」

「いいわ。10年以上もずっとあの状態だったんだもの。あれに比べれば、ゴールが明確に見えている今なら十分耐えてやるわ」


 イリールの決意を確認したサリーは、空間を閉じていく。完全に閉じれば、イリールは再び自分の中に閉じ込められることになるが、彼女に目に絶望の色はなかった。

あるのは憤怒と決意。たとえ何を犠牲にしても、絶対に目的を成し遂げると決意した目だった。

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