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真実①

「作り物、だと……」


 完璧に事態から置いてけぼりのバサールが反応を示した。

彼に気づいた『イリール・ウィスト』は、楽しくて仕方がないと、まるで子供みたいに笑った。


「アハハ! そうよ。こいつの正体は神によって送り出された作り物、出来損ないの人形! 単なる消耗品なのよ」


 狂ったように笑うイリールを見てサリーたちを除く誰もがあっけにとられた。

まず意味が分からない。神が作ったとはどういうことだ、と。


「説明してあげましょうか。まずは悪役令嬢という架空の設定について、ね」


 またサリーが手を光らせると、その場にいた人間たちは体感時間で何時間もの間、ある書物を読まされた。

それは別の世界から乙女ゲームという絵物語の世界に悪役として生まれ変わった女性が、物語の結末を変えるために奮闘するというお話。

物語の主人公もまた生まれ変わっているが、中身がどうしようもないお花畑で、自分が世界の中心だと本気で思っているものばかり。さらに王子たちも骨抜きにされ、貴族としてありえない行動ばかりする。

そして悪役はみなに愛され、逆に主人公たちは嫌われ、最後には破滅する、という展開だった。

いくつかパターンがあり、最後に破滅を回避するお話もあれば、序盤に断罪された後に新たなる登場人物に救われるもの、追放された後に力を覚醒させて凱旋してくるもの、などがあった。


 そしてお話の中心人物とされるのが生まれ変わった悪役……悪役令嬢である。


「取り敢えず悪役令嬢ものについては理解できたかしら」


会場の隅々までよく響く声が、全員の耳に届いた。

何度目かの混乱が起きるが、最も混乱しているのはさきほどまで『イリール・ウィスト』と呼ばれた彼女だった。


「な…によこれ」

「悪役令嬢ものって呼ばれるジャンルの小説ね。架空の乙女ゲームに悪役として生まれ変わった主人公が未来の破滅を回避しようとするお話。コメディだったりシリアスだったりするけど、最後には主人公は逆転してみんなに溺愛されて、本来のヒロインは破滅するってのがパターンね。

ツッコミどころの多いストーリー展開に文句を言う人間も多いけど、大人気なのよね。

頭を空っぽにして暇つぶしに読むぐらいがちょうどいいわ」

「そうじゃない!」


 サリーの言葉に、彼女は絶叫した。


「今のお話の中には。この私が、いた……サリー、貴女はレオンとともに破滅して、私はバサール殿下と新たに婚約が結ばれて」

「ええ、一番ありふれた流れのお話。ネットの海で大量生産大量消費されているお話の一つ。それがこの世界のモデル。

ちなみに悪役令嬢なんて実際には乙女ゲームには出ないから。さっきも見たでしょ?

いたら話の展開が変になるし、第一婚約者のいる相手じゃ略奪ゲーじゃない。たまに混じっているぐらいならいいけど、相手に嫌がらせを受けることがデフォルトだと嫌になるわよ。

乙女ゲーム未経験の人間が「悪役令嬢にいじめられるの嫌」ってゲームをしない珍現象が起きちゃうし、影響力があるのも考え物ね」


 サリーの発言を、彼女はまるで理解できないと啞然とした顔になった。



 悪役令嬢が架空の設定。そんなバカな。まるで意味が分からない。

乙女ゲームは悪役令嬢が必要なのだ。悪役令嬢の妨害を乗り越え、望まない婚約を壊し、真実の愛で断罪することがゲームのメインなのだ。それがないなんて、ありえない。


ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない……。


「いくら言ってもダメか。もう壊れているんじゃないか?」

()()()()()()()()()()()()から、摩耗が激しいみたい。

この辺で解放してあげたいんだけど……」

『もう終わりなの。あっけない……もっと苦しめてやりたかったのに……。あ~あ、なんだか馬鹿馬鹿しくなってしまったわ』


 すぐそばで会話が聞こえるが、もう意味が理解できない。


「教えてほしい……サリー嬢、結局君は、何者なんだ。

いいや、それだけじゃない。兄上、あなたは一体……」


 バサール殿下の声も聞こえるが、理解できるほど頭が回らない。


「その前にこの世界について説明しましょうか。

さっき見せたこの状況に似たお話あったでしょ。あれを再現するために作られたのが、この世界なの」

「何を言って……」

「百聞は一見に如かず、だ。見せた方が早い」

「は~い」


 レオンの言葉と同時に、再び光が会場を包む。


 そして映し出された光景は、私たちの度肝を抜くものであった。



 映し出された光景は、どこかの城下町のようだ。

たくさんの人たちでにぎわっており、活気にあふれている。

 そこに前触れもなく、上空から光が降りそそぐ。人々はいきなりの現象に驚き、中には天に指をさすものもいた。


 そして、すべてが終わっていく。


 光が強くなっていくのに合わせて、人々に、そして町に異変が起こる。

光を浴びた人が、建物が、どんどん消えていく。

老若男女問わず、小屋も城も問わず、あらゆるものが消えていく。

それは土地も例外ではなく、消えていきそこには初めから何もなかったように、森だけが残された。

道や井戸など、人が作った痕跡が根こそぎ消されたのだ。 


光はあっという間にその城下町を飲み込み、さらには国を、そして大陸すら飲み込んでいく。山も海もすべて。

 そして残ったのは、文明の気配などかけらもない自然そのままの姿であった。



 そうして消された場所に、誰かが降り立つ。

その姿はまるで職人が魂を込めて作りだした石像と思えるほど、完璧な黄金比の体をしていた。

そしてその顔もまた、人形のように整っており、銀色の長髪をなびかせるその姿にはあらゆる芸術品も劣って見えてしまうだろう。

 完璧としか表現できない肉体を薄い布で覆っただけの人物は、体型から女性と判断できる。

彼女が両手を上にかかげると、手の先に光球が生まれ、一気に膨れ上がった。

 大きな建物ぐらいに巨大化した光球を、彼女は無表情のまま破裂させた。

するとあろうことか、森に戻った場所のあちこちに、建物がいきなり発生した。

そう、生えたのでも建設されたのでもなく、突然そこに建物が出来たのだ。

それは建物だけではなく、人も同じであった。

 誰一人いなかったはずの森は、一瞬にして先ほどと同様の、人溢れる城下町になったのだ。

城や街並みなど、消える前のものとは異なる。だが、歴史に詳しくない人間から見れば、中世ヨーロッパの街並みそっくりにしか見えなかった。


 そんな町のど真ん中に彼女は突っ立ってるのだが、誰も彼女に気づいていない。

彼女は視線を変えると、一瞬で別の場所に移動していた。


 そこは大きな屋敷であった。彼女はその広い敷地の上空に浮かんでいた。

周囲の天気は荒れていて、雷まで鳴っている。しかし体には水滴一つついていない。

そのまま降りると、屋根や壁を無視して通り抜けていき、誰にも認識されることなく大きな階段の前までやってきた。

 顔を上に向けると、その目線の先には一人の女の子がいた。ぬいぐるみをもって不機嫌そうだ。

女の子が階段を下りている途中、彼女は指先を伸ばして、下に曲げた。

するとひときわ大きな雷が鳴り響き、同時に女の子の足が不自然に階段を踏み外した。

 転げ落ちる女の子に使用人たちが悲鳴をあげるが、そんな中でも彼女は表情を変えないまま。足元に落ちてきた女の子の額に指をあてると、ひときわ大きな光が発生した。

 これで終わりだと言わんばかりに彼女は立ち去る。背後で意識を失っている女の子―――イリールを放置して。

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