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蒼い背中  作者: kagedo
EP.6 覚醒訓練編
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-ドキドキ☆チーム編成-

 牙雲と時平がぽかんとした顔でお互いを見つめている。うっかり手を貸したが最後、巻き込まれてしまったようだ。


「い、いや、自分はお二人の手合わせを邪魔するつもりなど!」

「オレだって天音ちゃんの勇姿を見たいだけで!」

『そうやって遠慮しなーい。上官と一緒に戦えるなんて滅多にない機会だろ? あ、ちなみに今回の対戦で勝ったチームは、軍が許可する範囲で一つ好きなことをお願いできるってルールだから! 今回は本部も大盤振る舞いで、普段はできない相談も聞いてくれるって話だぜ』


 伸るか反るかのせめぎ合いで四つの視線が交錯する。紅葉は横にいた同僚たちにぼそりと呟いた。


「なあ、飛翼、澪。オレさ、あそこにいるみんなの腹の内、全部言えるわ」



『まさか、こんな形でウェスカー中佐に直接ご指導いただける機会が巡ってくるとは。これは滾るぞ!』


『くそ、どうせ巻き込まれたなら、意地でも天音ちゃんの直筆サインをもらいに行くぜッ!』


『うふふっ、ここで勝てば牙雲くんと一日デートできるじゃない♡』


『どうせ面倒をやらざるを得ないのであれば、いっそ督促を受けている書類一式をここの全員に投げつけてやろう』



「――って感じじゃない?」

「昔から思ってたけど、紅葉ってやっぱり人のことよく見てるよね」

「だいたい合っていると思う」


 飛翼と澪も大きく頷いている。そして、全員の口から返って来る答えはきっと――


「「「「……その勝負、乗った!」」」」


 全員の思惑、いや、皮算用の結果が合致したらしい。


『お、みんな案外ノリがイイじゃん? 負けた方は鍛え直しってことで超厳しい訓練計画が追加されるって話だけど――そのあたりは置いといて。まずはどっちの少佐と組みたいか、ウェスと天音で決めてくれよな』


 すると、騒ぎの渦中にいたウェスカーが聞こえよがしに大きな溜息をつく。


「俺は一人でやる。結果は見えているゆえ、あえて木偶共と組む必要もない」


 そんな答えが返ってくる予想はしていた。以前、敵襲で共闘する機会はあったものの、ウェスカーの戦闘は基本的に一対多数を想定している。ただ、その話を聞いた天音が横で煽り出した。


「あーあ、そうやってカッコつけたフリしちゃって! アタシに負けるの見越して、人数差があったって言い訳をつけたいのねぇ〜?」

「……そこまで言うのならば、文句がないように頭数を平等にしてやろう。俺の配慮を無下にするとは、後で後悔しても遅いぞ」

「ふふん、望むところよ。というか、アンタの頭に“配慮”なんて言葉があったのね。そっちにびっくりしたわ」


 ウェスカーの顔へ露骨に影が差した。既に始まった場外戦に会場がまたざわめき出す。意図していたかは知らないが、天音はやはりエンターテイナーだ。


「じゃあ、まずは組みたい方を同時に選びましょ? それじゃいくわよ……せーの!」


 指先で示された相手を見て、天音がニヤリと笑った。


「あら、始まる前からケンカにならなくて良かったわ。言葉通り配慮してくれたのかしら?」

「まさか。いらぬと言われた手前、くれてやる義理もない」


 天音の指は牙雲を、ウェスカーの指先は時平を向いていた。不敵な笑みを交わす上官たちの前で、部下の二人は互いに絶望した表情だ。


「な、なぜウェスカー中佐は俺を選んでくださらなかったのか......! 一体どんな策を弄したんだ、このウドの大木め!」

「テメェこそ裏でなんかやったんだろ! でなきゃ天音ちゃんがお前みたいなちんちくりんを選ぶかよ!」

『ハイハイ、落ち着いてー。上官の命令は絶対だぜ』

「決定には従いますが、せめて選定の理由ぐらいはお聞かせください」

「オレも聞きたいです」

『って、二人が言ってるけど。なんで選んだの?』

「そんなの決まってるでしょ。時平少佐は頑丈そうだけど、牙雲くんがウェスカーにいじめられてるのなんて見てられないし! なによりアタシが守ってあげたいからよ♡」

「俺より貧弱な見た目の前衛など存在意義がない。だが、コイツの図体なら多少の流れ弾はどうにかなるだろ」

「た、確かに時平と比べたら貧弱かもしれませんが! それに女性から守りたいと言われるほど、か弱いと思われているなんて!」

「分かっちゃいたけど、やっぱり肉壁としか見られてねぇ……! 天音ちゃんの壁にならいくらでもなったのに!! チクショウ!!」


 追撃を食らった二人の嘆きが、最前列にいた自分たちの耳にも入ってくる。


「うわ、対戦前から少佐たちの心がボッキボキにへし折られてる」

「気の毒だけど、ぼくたちができることもないし、見守るしかなさそうだね」

「経緯はともかく、おれは純粋に上官たちの戦いに興味がある」


 それだけでも来たかいがあったという澪の台詞には同感だ。紆余曲折あったが、敗者以外にとっては実りのある時間になるだろう。


『よしよし。色々決まったことだし――さっそくイベント開始だぜ!』




* * *




 度重なる騒ぎから一転、修練場は張り詰めた空気に包まれていた。


 広い空間の左には牙雲と天音が、右には時平とウェスカーがそれぞれ控えている。各人が身に付けているのは実戦とまったく同じ装備だ。が、軍帽の将はブツブツと文句を垂れていた。


「ちっ、砲台の一つでもあれば奴ら共々焦土にしてやったのに。そもそも、なぜ俺が無粋な近接戦などしなければならないんだ? まったく実戦に即していないが――」

「ウェスカーの旦那、愚痴ってないでどう動くかぐらい事前に決めてくださいよ」

「俺は勝手にやる」

「生憎、オレも後ろにまで目はついてねぇんで。弾避けんのムリです」

「貴様が余程下手な動きをしなければ、俺は外さない。仮に当たったらせめてもの情けで骨ぐらいは拾ってやる」

「そりゃあ頼もしいことで。骨になる要素あんの、中佐の攻撃ぐらいですけど」

「嫌ならちゃんと働くことだ。それにこんな場所で敗北を喫するわけにはいかない。さっさと片付けるぞ」

「じゃあ一つ提案が。オレは前のヒョロガリをブッ叩くんで、旦那は天音ちゃんの方を頼みます」

「悪くない指図だ。今回は呑んでやろう」

『この人単純で良かった……! 模擬戦闘とはいえ、天音ちゃんはさすがにオレも殴れねぇ。後が怖過ぎる』


 げんなりした顔の時平が大鎚を掲げながら深い溜息をついた。悲壮感さえ漂うその背に、思わず同情の視線を送る。


 一方、左ではハルバードを握った牙雲が泣きそうになっていた。


「よりにもよってウェスカー中佐と対峙するなんて……俺はファンクラブの者としてどう示しをつければ、」

「どうしたの牙雲くん? 元気ないわね」

「い、いえ、そんなことは」

「大丈夫よ、一緒に戦えば怖いものナシだから! さっさと終わらせて天音とデートしよ♡」


 牙雲の場合は勝っても負けても針の筵だろう。ただ、ここは部下として檄を入れて、彼に勝ってもらわなければ。


「――少佐、チャンスですよ! 勝ったらウェスカー中佐に付きっきりで指導してほしいって言うつもりだったんでしょ!? 負けたって天音ちゃんのアプローチは続くし、むしろ勝たなきゃ損じゃないっスか!」


 牙雲の耳がぴくりと動いた。しかし、彼の返事よりも先に不機嫌な声音が返ってくる。


「誰かと思えばまた貴様か! 余計なことを吹き込むんじゃ、」

「……ウェスカー中佐。誠に申し訳ありませんが、ここは本気でいきます。ご容赦を」


 華麗な掌返しを見せた牙雲が真顔で武器を構えた。案外現金なものだ。


「なぁんか釈然としないけど、あの顔だけ男にぎゃふんと言わせられるなら何でもいいわ。牙雲くんはアタシがちゃんと守ってあげるから、一緒にがんばりましょ♡」

「はい! 援護よろしくお願いします!」


 迷いを断った清々しい顔の上官を見て、横にいた澪がぼそりと呟く。


「紅葉、焚き付けるの上手いね」

「だってこの方がイベント的にも面白そうじゃん?」


 互いにニヤリと口元を横に引いて前に向き直る。会場と上官たちの準備が整ったようだ。


『よーし。じゃ、これから模擬戦について説明するんで、みんなもちゃんと聞いておいてくれよな!』

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