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蒼い背中  作者: kagedo
EP.6 覚醒訓練編
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-前哨戦-

 牙を剥く植物たちに天音が拡声器を向けた。その途端、ぎゃ、と鳴いた緑の群れが粉々に砕け散る。音波を放ち、対物を高速で振動させることで攻撃しているのだろう。


 一方、ウェスカーもしなる蔓を雷火の迎撃で駆逐していった。当然、周囲にいた第四部隊の親衛隊たちも一緒になって応戦しているのかと思いきや――


「「「天音ちゃん、この演出カッコいい! がんばってーー!!」」」

「違うの! これ演出じゃないの! だから退治するの手伝ってよ!!」


 呑気な声援のせいか、凍りついていた会場の空気が変わっていく。どうやら隊員たちは目の前の出来事をイベントの一部だと認識したらしい。だが、以前に例の緑を見ていた自分は事の重大さを知っている。


「時平さん! アレ、マジでヤバいっヤツっスよ」

「ウェスカーの旦那は何しやがったんだ」

「多分、開けちゃいけないとこ開けたんじゃないっスか? 下で脱走したとか色々言ってたし」

「つーことは、テメェもやった覚えがあるんだな?」


 苦笑いを浮かべていると、再び爆発音が響いた。壁を埋め尽くした緑の化け物がさらに増え、下層にいた二人を鳥籠のように包んでいく。


「ウェスカー、何やってるのよ! 完全に囲まれてるじゃない」

「――弾が切れた。装填されている分で終わりだ」


 淡々と返された台詞に天音が大きな瞳をさらに見張る。


「え、ウソでしょ? アンタ、戦場でも棒立ちしてるだけなの?」

「拠点に戻ってきたら装備を外すのが普通だろ。銃を持っていただけマシだ」

「そもそもアンタが逃げ出さなかったら、こんな地雷踏まなかったんじゃないの? 砲台以外はホントに使えないヤツね! だったら顔だけ男は引っ込んでて……って、あれ?」


 迫りくる植物たちを前に、天音は拡声器のスイッチをカチカチと押している。だが、切り替えがうまくいっていない。


「やだ、ちょっと待って、壊れちゃったんだけど」

「は? 貴様こそ使えないな」

「うるさいわね、アンタだって弾切れしてるじゃないの!」

「キシャアァアア――ッ!!」

「もー! だからこっち来ないでってば!!」

「このままだと単なる面倒では済まないぞ」


 ぐぱ、と大口を開く緑の群れにウェスカーが数回発砲する。牽制の効果はあったが、次々と再生する数の暴力にはなす術がない。


「死ぬのか、こんな場所で? 冗談じゃない」

「アタシだってイヤよ! しかも横にいるのがアンタとか最悪過ぎ……!」


 二人が蒼白な顔で編まれた蔦の檻を見据える。粘液をまき散らし、奇声を上げる化け物たちが四方から食らいつこうとした時――


「天音ちゃんに傷なんかつけさせるかよッ!」


 蠢く緑の群れがピタリと動きを止めた。時平が留めた時空の向こうで、白波で築かれた竜巻が植物たちを手折っていく。


「ウェスカー中佐ッ! ご無事ですか!」


 向かいの席で渦潮を従えていたのは、耳に馴染んだ凛とした声音だ。


「へ? なんで牙雲少佐がココに?」

「今日は別の予定があると聞いていたけれど」


 顔を見合わせると、澪も驚いた様子で銀髪の上官を遠くに望んでいた。


 少佐たちが同時に二階席から飛び降りる。竜の鱗を顕現させた時平が蔦を引きちぎり、踏みしだいていく。その裏では牙雲が水壁で押し寄せる緑を留めていた。


 追い払われた緑の化け物たちは、ずるずると音を立てながら通路の方へ戻っていく。天音はその場にへたり込み、ウェスカーは天を仰いでいた。


『さっきはどうなるかと思ったけど――とっきー! がうがう! ありがとな! これでイベント継続できるわ』


 血炉が安堵の溜息を漏らしながら二人に礼を告げた。が、当の本人たちは呆れ顔だ。


「いや、今の完全にアクシデントだろ……継続とか悠長なこと言ってねぇで止めてくださいよ」

「軍の方針に異を唱えたいわけではありませんが、これは少々やり過ぎです」

『あー、その、落ち着いて。今日はここまでが筋書通りって設定だから』


 空々しい言い訳、否、予定調和に思わず目を丸くする。


「血炉さん、今のトラブルを目の前で揉み消したぞ?」

「このイベントには血炉中将のさらに裏がいる。継続しろという命令が下っているはずだ」


 どこかで笑っている黒幕の顔が脳裏にちらつく。横で自分にしがみついていた飛翼を宥めながら、紅葉は上官たちの会話を見下ろした。


「さっきはびっくりしたぁ。二人が助けにきてくれなかったら、天音、ウェスカーに殺されてたかも」

「天音ちゃんのためなら! オレはどこでも行きますッ!」

「時平少佐って頼もしい~♡」

「まったく、よく言えた口だな? 廊下を歩いていただけで拉致されて、小部屋に押し込まれた俺の身になってみろ。自分の部屋に戻ろうとしただけで命を狙われるなど、どう見ても俺の方が被害者だ」

「ああ、お労しい……こんなことになるとは思いませんでしたが、ゲストとしてウェスカー中佐がいらっしゃると噂になっていたので、最前列の席を確保しておいて良かったです」


 ――またとんでもない話を耳にした気がする。


 向かいの席はここと同じ造りになっている。ただ、女性の比率が妙に高かった。飛翼よりも先に整理券を取りに行っていた隊員は、真偽の定かではない噂を聞きつけたウェスカーのファンクラブ会員たちだったらしい。


 その事実を知った今、紅葉の目にはこの会場で渦巻くあらゆる欲望がありありと見えていた。


「ってか、どうしてよりにもよってコイツを対戦相手にしたのよ。共演NG枠で入れたでしょ!?」

『亜久斗のヤツが置き土産で台本書き変えてったんだよなぁ。こういう場じゃないと、ウェスがまともにデータ収集へ協力しないって言ってたから』

「……ヤツは一体どこにいるんだ。あの澄ました面を今すぐ蜂の巣にしてやる」

『残念だけど、今は長期の外部任務だってさ』

「ちっ。内勤のくせに、逃げ足ばかり早くて腹が立つ」

「ねえ、それより対戦相手の変更はできないの? ウェスカー以外なら大歓迎なんだけど」

『このイベントの試合放棄は部隊の連帯責任って言われてんだよなー』

「知ったことか、俺は帰るぞ」

『ちなみにウェスの部隊は隊員いないから、未提出書類一枚につき一年の減俸らしいぜ』

「そんな道理が通るわけ、」

『文句はオレじゃなくて上に、って言いたいとこだけど。この雰囲気が悪い中でやってもなぁ――えっ、急遽プログラム変更だって? 中身は……了解、案内するわ』


 血炉がごにょごにょと誰かと話している。そして。


『あー、本来のイベントは天音とウェスの模擬戦闘を予定してたんだけど、タッグマッチに変更になったぜ。組む相手はそこにいる少佐の二人だ!』

「「は……?」」

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