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蒼い背中  作者: kagedo
EP.3 中央区画 防衛戦編
45/168

-意趣返し-




* * *




 《竜のとぐろ》にいる隊員の先導により、紅葉たちは極力戦闘を避けて移動していた。だが、土地勘のある彼らの知恵を絞っても、何度か敵の小隊と衝突を繰り返している。


 それでも進軍時の見極めに優れ、戦の力量を持つ牙雲を凌ぐ部隊は現れなかった。隊員の消耗もかすり傷程度で済んでいる。しかし、問題はこの先だ。


「敵の包囲網が狭まってきているな。中佐の砲撃回数も減っている。南面が限界に近いのかもしれない」


 進路を確かめていた牙雲が苦い顔で呟いた。たとえケーブルを持ち帰っても、ウェスカーが膝を着けば終わりだ。一刻の猶予も残されていない。ただ、最短経路となる目の前の荒野には、身を隠せる遮蔽物がほとんどなかった。使えるのは点在する塹壕ぐらいだ。


 そして、運の悪いことに自分たちが出発した当初よりも敵の数が増えていた。上空には敵の竜人たちが飛び交い、迂回路を探して地上でもたつけば、獣人たちに居場所を嗅ぎ付けられるだろう。飛び道具を握る精霊族や人間は、空陸のどちらも狙撃できる体制を整えているはずだ。


「良策とは言えないが、二手に別れるべきか。片方が飛んで敵の注意を惹きつけ、その間に地上にいる者が塹壕を移動する。何度か人員を変えながら、徐々に前進するしかない」


 牙雲は奇をてらうより、正攻法で切り抜けるつもりでいた。ただ、その方法では時間がかかり過ぎる。そんな時、脳裏にふとウェスカーの言葉が蘇った――頭数だけが強さではない、と。


「少佐! オレ、イイこと思いつきました」


 紅葉は閃いた策を牙雲に耳打ちした。


「……話は理解したが、本当に上手くいくのか?」

「事前準備は必要ですけど、全員で拠点まで無事に辿り着くにはこの方法が一番だと思います。もしダメだったら少佐の策で行きましょう」

「お前の悪知恵には敵わない」

「へへ、褒め言葉としてもらっときます」


 牙雲から実行の許可が出た。最初は渋々だったが、自分の伝えた策以上のものは思いつかなかったのだろう。そして、この作戦には輸送班の彼女が必要不可欠だ。


「君も協力してくれる?」

「何をなさるんですか」

「まあ、ちょっとした意趣返しってヤツさ」




* * *




 立ち込めた土埃が視界を覆う。荒廃した大地を疾走する二つの蒼い軍服を追っていたのは、黒ずくめの小隊だ。


「きゃっ……!」


 翼を広げた竜人の兵が上空から気弾を射出した。耳元を掠める攻撃に、輸送班の隊員が足を止めかける。だが、彼女の隣を走る牙雲がその手を強く引いた。


「前だけ見て走れ。必ず俺が守る!」


 背後から複数の気配が近づいてきた。伸ばされた兵の腕をハルバードの柄が押し戻す。拘束を振り払うと、二人は拠点に向かって荒野を駆け抜けた。


 それを見ていた黒衣の一人が、地表を走りながら苦々しげに吐き捨てる。


「トカゲのくせにすばしっこいな。増援が必要か」

「いや、相手は二人だし? これだけ人数がいればどうにでもなるっしょ。このまま追いかけるから、そっちは持ち場に戻っていいよ」

「なら、こちらは下がろう。奴らを捕まえたら物資だけ奪い、あとは殺せという命令だ」

「ハイハイ、了解」

「……お前、今日はやたらノリが軽くないか?」

「えー、そうかな? 気のせいだって」


 黒衣の相手は首を傾げながらも、深くまで追及はしなかった。しばらくして並走していた黒ずくめの集団の半分がどこかに消えていく。牙雲たちから複数の追跡が外れたのを見て、白磁の面をつけた紅葉は溜息をついた。


「ちぇっ。少佐ってば、オレがやりたかったポジション取っちゃうんだから」


 二人を形ばかり追いかけている黒衣の小隊は、全てドラーグドの隊員だ。敵の目や嗅覚から逃れるため、紅葉は相手の衣服と面を奪うように牙雲へ提案した。そして、それを身に着けた自軍の兵に、輸送班の隊員を追いかけさせたのだ。


 ――ただ、本来なら自分が彼女の横につくはずだったのだが。残念なことに位持ちだった牙雲が警戒されていたせいで、やむなくこの布陣になってしまった。


 包囲網の中を堂々と移動しつつ、紅葉は溜息交じりに二人の横へ追いつく。


「しょーさ、ひとまず敵は撒きましたよ。後は拠点に直行する感じでイイっスか」

「いや、南面の状況が心配だ。まずは伝令を走らせて確認を、」


 それまで止んでいた号砲が上がった。だが、空に雷光が走った様子は見受けられない。


「今の音は西側だな」

「まさか中佐たちが……負けた?」


 この空砲は拠点への奇襲を知らせるものだ。戦況に何かしらの動きがあったのだろう。牙雲の表情は冴えなかった。しかし、意を決した青の双眸が自分を捉える。


「計画を変更する。お前は彼女の護衛として共に南面へ回り、ウェスカー中佐の安否を確認しろ。もし中佐が無事なら、ケーブルを渡して砲撃準備の支援に回れ」

「もしこっちがダメだったら、どうするんスか」


 絶体絶命の状況が浮かび、柄にもなく不安が口をつく。ただ、牙雲は冷静に想定し得る対応を告げた。


「俺は今から脱出経路を確保しに東面へ向かう。万が一の時はお前たちもそこに来い。他の輸送班も拠点を目指しているはずだから、同時に彼らの捜索も続けよう。もし中佐がご無事なら、精鋭たちに東の空砲を3度鳴らすように伝えてくれ。それを合図に我々も地上から退避する」

「けど、そっちも人数足りないんじゃ」

「お前は不敬ゆえに忘れているかもしれないが、俺はドラーグドの少佐だぞ。拠点の一面すら庇えなければ役が廃る!」


 語気を強めたのは怒っていたからではない。牙雲はこの場で最も信頼できる者に、頼みの綱であるケーブルを運ばせようと考えたのだ。拠点の命運を懸けた大仕事を自分に引き受けさせようと、彼も困難な状況下で自らを奮い立たせている。


「……了解っス。じゃ、行ってきます」

「彼女を頼んだぞ」


 それだけ残し、牙雲は小隊を連れて東面へ舵を切る。小さくなる蒼い群れを見送ると、紅葉は輸送班の隊員と共に南面を目指した。

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