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蒼い背中  作者: kagedo
EP.3 中央区画 防衛戦編
43/167

-特別作戦–

「牙雲少佐、急報です! 本部からケーブルを持った輸送班が付近へ到着したとの報告が入りました」


 拠点から伝令兵が息を切らせて走ってくる。その朗報に一筋の光が差した。


「彼らはいつ到着するんだ」

「予定では一時間です。ただ、」


 伝令兵は先を言い淀んだ。だが、涼やかな視線に促されて口を開く。


「この周囲の区画は既に敵が包囲しており、輸送班が足止めされているものと思われます。敵の総数は、確認できただけで1000名規模かと」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 中佐と対峙してる連中だって1000もいるのに、」

「落ち着け、紅葉。中央区画の戦闘ならあり得る話だ。それでも人間たちが攻めてこないのは、彼らが不利になる可能性を危惧しているからだろう」

「これだけ戦力差があるのに? 何が理由でそんなに慎重になってるんスか」

「敵は砲台が復活することを最も恐れている。本格的な侵攻が始まるのは、ウェスカー中佐の討伐か、ケーブルを持つ輸送班の始末を終えた後だ」


 人間たちはウェスカーを南面に留め、他の兵でケーブルの運搬を妨害する策を練っていたのだろう。本部もそれを理解しており、輸送班には徹底的な隠密行動を指示しているはずだ。


「だったらオレたちの方でも輸送班の人を探して、ケーブルを取りに行きませんか。何もしないで待つぐらいなら、できること全部やりましょうよ!」


 幸運なことにまだ彼らは敵に見つかっていない。敵の包囲網の隙をついて接触できれば可能性はある。すると、牙雲が将の背に向かって口を開いた。


「自分も紅葉隊員の意見に同意します。今から別動隊を動かせば、早期に砲台を起動できます。仮に敵の分隊がいたとしても、全方位の攻撃が可能になれば十分に勝ち筋があるでしょう」


 ウェスカーは何も語らなかった。だが、紅葉の手にしていた魔導砲をおもむろに引き寄せる。乾いた風が吹きつけた。荒野に漂う焼けた匂いと、硝煙の香りが舞う。


「本来ならば敵前で退くことは許されない。だが、俺は寛大だ。逃げたいヤツは好きに逃げていい」


 軍帽の将から発された言葉に、隊員たちは互いに目配せをするだけだ。


「……酔狂な者ばかりだな。どいつもこいつも正気じゃない。俺は忠告したぞ。この場に居座るなら、後は貴様らの自己責任だ」

「そんなの今更っスよ、中佐。ここにいるのは最初からオレたちの"勝手"ですし」


 その答えにウェスカーは小さく笑った。そして、再び魔導砲を前方に向ける。


「いいだろう。ここに残る奴らは、今から全員"銃"と見なす。貴様らの引き金はこの俺が預かった。たとえ誰が最後の一人になろうとも、徹底抗戦以外は認めない」


 あらゆる逆境に抗う反骨精神こそがウェスカーの原動力だ。絶望へ追い詰められるほどに、彼の闘志は勢いを増していく。


 消えかけていた指揮官の覇気が戻った。びり、と肌を焼く空気が皆の表情を冴えさせる。後列にいる隊員たちも全員、腹を決めたようだった。


「紅葉、我々も動くぞ。一刻も早く輸送班を見つけ出し、ケーブルをここへ持ち帰るんだ」

「了解っス!」


 集まった二十人程度の小隊には、第五部隊の者と近辺を知る拠点の者が配置されていた。


「これから特別作戦を開始する。目標はこの拠点まで中佐の扱うケーブルを安全に輸送することだ。本部の輸送班は既に陸路へ入ったとされる。東の方面に前進しつつ、彼らを捜索して保護しよう。


 我々がどれだけ早期にケーブルを運搬できるかで、この拠点の命運が決まる。道中では敵襲も予測されるため、常に警戒を怠るな……さあ、行くぞ!」


 振りかざされたハルバードの後ろに蒼い軍服が連なる。その時、紅葉たちの視界に煙幕が流れてきた。振り返るとウェスカーが複数の筒を焚いている。こちらを一瞥した将の姿は程なくして煙の中へ消えた。それと同時に号砲が上がる。


 ウェスカーは最後まで敵と撃ち合うつもりだ。彼は牙雲から万全の体制と、残った隊員たちを預かっている。部下に期待外れの将だと思われるのは、そのプライドが許さない。


 将の援護に送り出され、紅葉たちは立ち上る煙の中に隠れながら東へ向かった。




* * *




 《竜のとぐろ》から少し離れた焼け野の先。紅葉は低木の生い茂る獣道を進んでいた。


 輸送班は身を隠すためにこうした自然の経路を使っているらしい。偵察役を放ちながら進軍すれば、そこかしこで敵兵が張っているという報告が届いた。


「うーん、なかなか包囲網がキツいっスね。輸送班の人たち、よくこれまで見つからなかったな」

「彼らも警戒して少数で動いているのだろう。この規模の敵とまともに当たったら生きて帰れない」

「なら早く助けてあげないと――って、あの人ドラーグドの隊員じゃないっスか!」


 草木の合間に蒼い軍服を纏った人影が飛び込んでくる。鳶色の羽毛が生えた翼を畳み、枯草の上へ着陸したのは一人の女性隊員だった。その腕には金属製の箱が抱えられている。だが、彼女の頬には鱗が連なり、怯えの色が浮かんでいた。


「伏せろ!」


 理由を探っていると、危険を知らせる牙雲の声が響く。直後、枯れ草の間に向かって魔力の気弾が降り注いだ。上空では黒衣を身に着けた竜人の兵が旋回している。地面へ伏せていた紅葉は、攻撃が止んだ隙に牙雲の横へ向かった。


「少佐! 近くに輸送班の人がいました。さっきの敵に追いかけられてたみたいなんで、保護しないと」

「ああ。接触して、早期に拠点まで連れて行くぞ」


 紅葉たちは拠点側へ向かった彼女の後を追いかけた。だが、上手く気配を消しているせいで、こちらも消息を掴み切れない。


「――ダメっ! これだけは絶対に渡さないわ!」


 もどかしさを感じていた中で、切迫した声が空間に響いた。かなり近い距離だ。付近にはにじり寄る気配がそこかしこで感じられる。


 枯れ草を薙いだ先で捉えたのは、灰色のケースを庇うように抱えた隊員と、それを追い詰める黒ずくめの一団だった。

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