まほりさ・大喜る女子たち
以下本編だけど、大昔ノベルだから読まなくていいかも
https://novel18.syosetu.com/n6353dh/
そのための簡単キャラ紹介
鹿波真帆 かなみ まほ
クラスのはみ出し者三人衆のおとぼけで友情に厚い。
クラスのマドンナみたいな敷島理沙と、幼馴染で微妙に距離が開いていたが、ひと悶着あってお付き合いすることになって関係が修復された。
敷島理沙 しきしま りさ
クラスで人気の陸上部女子。人間ができている性格美少女だが、真帆がかなり好き。告白したのはこっちから
西木望美 にしき のぞみ
はみ出し者三人衆のヤンキー。口が悪くて友情に厚い。
鈴宮美守 すずみや みもり
はみ出し者三人衆の眼鏡女子。とても頭が良くて友情に厚い。
佐倉詩乃 さくら しの
理沙の陸上部の後輩であるラーテル系女子。暴走しがち。
美濃部次郎 みのべ じろう
百合に挟まる嫌な男。色々あってボコボコにされて真帆に頭が上がらなくなってる。
「諸君らは『大喜利』を知っているかね」
陸上部の敷島理沙、文芸部の鈴宮美守、帰宅部の西木望美。
三人に集まってもらったのは他でもない私が気兼ねなく喋れる友達だからだ。
「なんだっけ、それ」
「知らね。なんか聞いたことはある……気がするけど」
理沙と望美は、やっぱりそういうくらいの知識しかなかった。意外と知らないものなんだ。
本を読んでいた美守は、それをパタンと閉じて、メガネをスチャと整えて。
「笑点でやってるやつ……よね」
「そう、ご名答。流石は美守」
「それでなに、わざわざ大袈裟な」
「大喜利を、した~い」
大喜利をしたい。
……それ以上、本当に言うことはない。
三人とも私の次の反応を待っているみたいだから、カモンカモンと手振りで反応を返してもらおうとすると、望美が立ちあがる。
「帰っていい?」
「いや、大喜利しよう、大喜利。今日珍しくみんな予定がないんでしょ。だからわざわざ呼び止めたんだから」
「大喜利って、そもそもよくわかってねーんだけど……」
「美守、たとえて教えてあげて」
「それは……まあいいけど。司会の人がお題を出して、それに面白い回答を出すだけのゲームかな。IPPONグランプリとか知らない? テレビでやってるけど」
「あ~……あんま集中して見たことないやつだ」
「だよねぇ。最近は若者の大喜利離れが深刻化しているって話だし」
ごちゃごちゃとした話を、私が適当に聞いたことのない風聞で落ちつけてから、改めて。
「だからこそ大喜利をね、今からみんなでしたいと」
「……うっぜ」
「ひどい!」
「わ、私やるよ! 大喜利やる!」
「……まあ、暇って言った手前、私も参加はしようかな」
「え~……じゃあウチも……」
「やった! じゃお題の方をよろしくね~次郎」
「あ~、はいはい……」
実は控えさせていた次郎は、その場で即興でお題を考えていただく。こうして公平に大喜利を進めていくことができる知恵の采配だ。
他三人が次郎と仲が悪いから、空気が凄い微妙に嫌な感じになったけど私は気にしない。
何故かって? それはもう、笑いの渦がこの教室を包み込むことになるからさ……。
「ちょぉっと待った!!」
笑いの渦の前に、激しい台風のようなガールが教室に殴りこんできた。
「その大喜利対決、私も参加させていただきます!」
「佐倉ちゃん……、その意気やよし!」
「これ、収集つくの? ギャラリーが多いのも嫌なんだけど」
美守が呟く。放課後すぐに三人を呼び止めたからクラスメイトがまだ結構残っているのはご愛敬。
むしろ、観客が多い方が盛り上がるというもの。
「時間が許す限りお笑い力を鍛える……ふっふっふ、燃えてきたね」
「……真帆、理沙と付き合ってから変な方向にパワーアップしたよね」
「そんなこと、あるかなぁ」
「あるよ」
―――――――――――――――――――――
「えーっと、じゃあまずはシンプルに」
お題:こんな女子高生は嫌だ。どんな女子高生?
「ほほう、こんな○○は嫌だ。オーソドックス故にオオギリストの実力が問われますな」
「真帆が三倍くらいウザい」
「ウゼェ……」
「あの、模範解答みたいなのってある?」
美守と望美が私にちくちく言葉を向けているうちに、理沙は前向きに考えてくれているらしい。やはり優しくていい子だなぁ。
次郎は、お題しか考えていなかったからしどろもどろしている。
「まあ、待ちなよ理沙。私がスパンと模範らしい回答をするから」
「本当? ありがとう!」
にこにこと笑う理沙に、私は頭を巡らせる。
巡らせて巡らせて。
「簡単には思いつかないねぇ」
「え、えぇ~?」
「はい! 答えていいですか!?」
私が手をこまねいている間に、勢いよく佐倉ちゃんが手を挙げた。
「お。じゃあお題読み上げるからその後に答えて。
こんな女子高生は嫌だ、どんな女子高生?」
「好きな女の子の立場を守るために厄介ごとを全部引き受ける人」
自己犠牲やれやれ系女子高生。なかなかエッジの利いた答えと言いますか。
「私のこと?」
佐倉ちゃんのじっとりした視線がじわじわ睨んでくる。それで、美守が苦笑いしてた。
「……大喜利できる人だね」
「いや、俺もしんどい」
加害者と被害者が楽しく大喜利をやっているんだから、そこまで気負わなくていいけど。
「あ、もう一個イイですか。朝休みにいきなり屋上から飛び降りるぞっていう人」
「オイそれ誰のこと言ってんだお前!!」
「わっ、暴力反対!!」
「あはは、佐倉ちゃんの笑いって結構鋭いねぇ」
「お前も笑ってんじゃねえ!」
ついに望美が立ち上がって向かってくるけど、間に次郎が立った。どうどう、といなしているけど、次郎の腹部に一発重いのが入って、望美は座った。次郎は倒れた。
「じゃ、私もセルフでやらせてもらおうかな。
こんな女子高生は嫌だ、どんなの!?
笑いのセンスが尖ってる!」
「……自虐?」
「いや佐倉ちゃんの話なんだけど」
「そろそろ人を弄るのやめない?」
「あ、はい……」
理沙に、美守にとツッコまれ、佐倉ちゃんの作ったムードもなんか私が崩してしまった形になっている。
これは……、大喜利、難しいかもしれない。
「こんな女子高生は嫌だ、ってそもそも実際にいる人だったら、あんまり良くないよね」
「理沙、それは考え過ぎだよ。お笑いは傷つく人がいてやっと成立するんだよ」
「お前の考え方ヤバくね?」
「真帆っぽいかも、犠牲があって成果を得るって。一回怒られるべきね」
フォローを入れたら凄く責められた。また三対一……いや佐倉ちゃんのヤバいくらい鋭い目つきが襲ってくる。これは……後で二人になったらめちゃくちゃ怒られるパターン。
「じゃ、じゃあお題が不評だから変えるか……」
ダウン状態からなんとか10カウント前に起き上がった次郎が、ごほんとせき込む。血とか混じってないといいけど。
「偏差値3のアホアホ王国、そこで起こった出来事とは!」
「ほう、アホアホシリーズですか。これまた非常にオーソドックスなシリーズ、勉強してきたな、次郎」
「お前が全部見とけって言ったんだろうが! 大喜利の動画!」
「あ、うーん……思いついた」
「じゃあ西木。偏差値3のアホアホ王国、そこで起こった出来事とは?」
「全員馬鹿には見えない服を着て、みんな裸でパレードした!」
「おお~」
ちょっと拍手が起こった。これは……模範解答に近いかもしれない。
王国っていう設定も良いし裸の王様っていうみんな知ってるネタだから理解もしやすい。
「結構いいな」
「う、うるせぇ!」
望美は照れ隠しで怒っているが、私はそんなのじゃ満足しない。笑いが起きてないからね。
いやでもしかし、何にも思いつかないな。
「じゃあ、私も」
「じゃあ鈴宮。偏差値3のアホアホ王国、そこで起こった出来事とは」
「みんなに差がないから、逆にとても平和に暮らしている」
「おお~」
歓声と共に、少し笑いも聞こえてきた。このクラス、ノリがいい。
会場がちょっとずつあったまっているんだ。この空気感に乗れないと、大喜利は……!
「次郎、次は私いいですか?」
「年上を呼び捨てにすんな、じゃあ佐倉」
「佐倉『さん』」
「お前ふざけんなよ!」
軽妙な佐倉ちゃんと次郎のやり取りが、また笑いを誘っている。美守もニコニコしているくらいだ。
これは、もしかして。
「じゃあ佐倉さん! 偏差値3のアホアホ王国、何が起こった!」
「とにかく明るい安村、人間国宝指定」
――いつも、お題を一番盛り上げているのは佐倉ちゃんだった。
身内ネタから芸能ネタ、トーク、そして大喜利に自ら特別参加した気合。
間違いない、佐倉ちゃん、この子は――
「……佐倉ちゃん、やってた? 大喜利」
「え? いややってるわけないじゃないですか」
「NSC入った方がいいよ」
「なんですかそれ」
「お笑い芸人養成学校」
「絶対入りません」
もったいないなぁ。佐倉ちゃんがやるんだったら私は見に行くけど。
「鹿波と敷島はどう? まだ思いつかない」
「すみません、本当に思いつきません」
「うーん……難しいね」
理沙が笑いかけてくれるけど、私はそれにこたえる余裕もない。言い出しっぺが何も出ないのは流石に。
「ちょっと、三人でもうちょっと粘って。ここまで出てる。解答がここまで出てるから!」
胸元をとんとんと叩いてあと50%くらいですよって示す。
「せめて喉元くらいまで出せって」
「それ、もう胃腸に吸収されてくんじゃないですか?」
「ハートで答えなさい」
この三人、大喜利をしてツッコミのセンスが磨かれてない?
でも胸を叩いたのはボケだから、きちんとツッコんでくれるようになったのは嬉しいな。何も答えられていないという責められている気持ちがなければ、じーんと感動していたのに。
「じゃ、お三人はなんか思いつくか?」
「お前は次のお題もストックしとけよ」
「俺はあと5つくらいメモってんだわ。鹿波のやつ大喜利したいって10回くらい俺に相談してるからな」
「え、それで何も答えてねえの?」
「彼女いるのにそんなに相談してたんだ」
「真帆さん、怒りますよ」
「真帆、それ本当……?」
「すみません。全部今は勘弁してくれませんか」
大喜利の答えと四人からの責めがキツイ。キツイというか何も考えられない。
「わ、私は……本気でやってるんです」
「大喜利の回答いいですか?」
「お、鈴宮。偏差値3のアホアホ王国、何が起こった!」
「アホすぎて何も起こらなかった~☆」
キャッ、と笑いと歓声が起こる。
私の謝罪すらネタにしている、美守が、文芸部で賢くて真面目な美守が、大喜利の回答でチョケた(大阪の言葉でふざけたの意味)。
わかる。感じる。クラスの笑いを得つつ、鈴宮さんって成績良いのに、あんなユーモアも持ってて、鹿波さんとも親友だなんて良いところしかない……って、飲みこまれてる。
親しい望美まで笑みがこぼれている、戦慄しているのは私だけなのか。
「ね、何が起こったかってお題でなにも起こらなかったっていいの?」
「え? うん。まあ基本はお題が大事だけど、結局は面白かったもの勝ちだから」
「へぇ~」
理沙が真面目腐った顔でふむふむと考える。美守よりも理沙の方が真面目で、結構型にハマっちゃうタイプなんだ。まあ美守は器用だからなぁ。
私も考えているは考えているよ。でもなんか、車がなくて事故が起きない! とか差別も偏見もない世界、とかなんか美守が最初に言った『逆に平和』の回答とかぶってるから出せない。
「ね、真帆」
「なに?」
「思いついたんだけど、これで大丈夫かどうか聞いてくれる?」
「えー、うん、いいよ」
理沙まで思いついたんだ。私は、うー……。
耳元。
理沙の吐息と熱が耳朶を濯ぐ。
「アホアホ王国の文学が、世界の児童書として大人気」
ずくんずくんと、心臓が痛くなる。
「どうかな?」
「…………私は好きかな~」
「じゃ、敷島。偏差値3のアホアホ王国、何が起こった!」
「アホアホ王国の文学書が、世界中では児童書として大人気」
流石は理沙、といった感じでクラスも理沙の回答には大満足。
しかし、私はもう罪悪感とか答えを考えるとかもなくて。
ヨコシマなことしか考えてない。
「ありがとう、真帆」
「あはは……うん。あー……」
「あ、美濃部、次いい?」
「じゃ鈴宮。偏差値3のアホアホ王国、何が起こった」
「全員エッチなことしか考えてないから世界中でアホアホ王国のエロ本が大人気」
今笑った男子はちょっと白い目で見られている。なんなら美守自身が女子からちょっとあれな目で見られている。
しかし、その美守は私をあれな目で見ている。やめてくれよぅ。私だってそういう気分になりたくてなっているわけじゃないんだから。
深呼吸深呼吸。
「次郎くん、次のお題なんかは」
「その前に、お題読みしてもらおうかな。俺の回答を聞いてもらいたい」
「……じゃあ、偏差値3のアホアホ王国、そこで何が起こった?」
「選挙の結果の投票集計、数え直しが何回も起こってしまう!」
あー、という納得の声がちょっと漏れたくらいだった。
こほんと次郎は咳払いして恥ずかしそうにメモを見る。次のお題に行くのだろう。
……けれど、エールを送りたい。むしろこの次郎の微妙な空気感は、私に勇気をくれるものなんだ。
ありがとう次郎、私も、その体当たりの精神を持つよ。
「な、俺も答えてみていいか?」
「おっと、観客からの挑戦だ。じゃあ白浜。偏差値3のアホアホ王国、何が起こった」
「子供にも選挙権がある」
笑いはほぼないけど歓声がかなりデカい。次郎の、正直スベってた投票の要素を、みんな馬鹿だから子供もって理論で乗り切るコンボ技。
いや、私じゃなくて白浜を勇気づける回答になってる。
「じゃ、私も! このお題これで最後な!」
「あー、じゃあ西木。偏差値3のアホアホ王国何が起こった」
「迷子センターと、迷大人センターがある」
結構ウケてる! 迷子って言葉の後に造語の迷大人が発生するのがわかりやすくていいなぁ。
大人と子供にほとんど差がない、アホアホ王国の利点を理解しての回答だ。そこにいち早く気付き答えるとは……望美、恐ろしい子。
「じゃ、他ないか。別に見てる奴らもなんかあったらどんどん言っちゃおうぜ。岸沼とかどう?」
「えっ私!? あ、じゃあ……」
「おっと! お題いうから。偏差値3のアホアホ王国、何が起こった!?」
「くふっw。誰もペットを飼えない」
歓声と笑いが多い。
観客の立場でありながら、今までの回答に縛られないシンプルかつ強烈な答えだ。ペットを飼うの、大変そうだもん。
岸沼さんが、イエスオオギリスト様だったのか……。
「他ないか? ないか?」
「お、オレいい!?」
「っし、乙田。偏差値3のアホアホ王国、何が起こった!」
「読書デーを真似しようとして、晩飯に本を食べさせられる!」
笑いがデカい!
これか! これが人気の答えなのか!? シュール系だけど、今までの答えに引っ張られないパワーがある。
小学校なんかであった読書デーをアホアホアレンジした答え。その懐かしさと今の空気感が程よく混ざり合っている。
「他ない? 他ない?」
「トモ言っちゃいなよ」
「え、えぇ、じゃあ、いい?」
「皆方さん! 偏差値3のアホアホ王国、何が起こった!」
「みんなで公園に行って遊ぶ」
ここに来てシンプル答え。
ドカンと、ウケた。
意外性、この子がそんなこと言うんだという意外さと、今までの答えとの対比が示す意外さのマッチング。
小賢しい理論ではなく導き出される答えが、素人っぽさがウケたのか!
クラスメイトのノリがいいだけかもしれない。これはもう、はみ出し者三人組の私には厳しい世界かもしれない。
「深いなぁ、お笑いは」
「真帆は答えないの?」
「も、全然思いつかないや」
あとは、次郎が適当にお題を変えたりして、変に帰る人がいないうちに素早く幕を引いた。
ちょっと評判にならない程度の、小気味よいレクリエーションだったと思う。
――――――――――――――――――
「結局、何も答えなかったね」
「なかなか思いつかなかったよ」
次郎は教室でクラスメイトと祝勝会みたいなことをしていた。ちなみに今回のMVPは佐倉ちゃん。コンスタントに答えていてよかったのと、『最強のボクサー、ミスタービッグ唯一の弱点は?』のお題で『器が小さい』が一番大きな笑いを取っていた。唯一クラスメイトじゃない後輩っていうのも、加点要素だと思う。
そして帰り道。理沙と一緒に並んでいる中、後ろに美守たちがいる。
「げふんげふん。ところで理沙、今日、家行っていい?」
「え、っと、いいよ。うん」
「こんな女子高生は嫌だ、どんな女子高生。はい佐倉ちゃん」
「耳打ちされて欲情してる」
「いや別にそんなことないけど」
嘘。本当はそんなことある。
ただ、耳まで真っ赤に染まっていく理沙を見ていると、朱に交われば赤くなるというもので。
「じゃ、あとは若いお二人に」
「明日は遅刻してもいいですよ、先輩」
「イヤー、ソンナコトナインダケドナー」
照れり照れりと頭を掻いてそんな受け答えをして、みんなが分かれ道に避けていくのを見届けて。
理沙と手を繋いだ。
「……じゃあ、泊まりの連絡、していいかな」
「うん」
熱くなる理沙の手を、痛いくらい握った。
『大喜る人たち』の動画なんかが好きでねぇ。
https://www.youtube.com/@oogiruhitotachi
IPPONグランプリ、笑点、千原ジュニアの座王などのコンテンツで見ています。年始にはフットンダ王とかあるね。楽しもう、大喜利。
私はそれをだしにして最近書けていない女女を少しやりたくて、このような作品を作りました。
以上。