クラン・パーティ・シェアハウス
追放もの書いてみようと思ったらこうなりました。
どうしてこうなった。
「吟遊詩人! お前をこのパーティから追放する!」
そう、高らかに宣言される。
宣言したのはパーティリーダーの戦士。
「追放理由は『お前が居ても居なくても、パーティの運営になんら影響が無いから』だ!」
へぇ。丁寧にご説明ありがとうございます。
思いつつも戸惑いが隠せない。
いや。彼がそう言うのなら、そうなのだろう。
周囲を見ればニヤニヤ笑いのパーティ仲間……いや、もう仲間じゃないな。とにかく人を貶めて嗤う奴らしか居なかった。
「あとお前、女吟遊詩人の癖に脱がないし踊りもしねぇし」
知るか! 変態!
それやるのは踊り子だしダンサーもテメェのためには踊らねぇよ! 多分!
なんでこの人達とパーティ組んでたんだっけ、わたし。
「わかった。わたしがこのパーティから抜ければいいんだね」
とにかくなんだかんだでスッと冷めてしまったし、わたしは戦士の宣言を承諾する。
「物分かりがいいな」
自分で言ったくせに驚かないでよ。わたしは元から物分かりの良い子ちゃんでしたとも。
「お前の持ち物だけは持ち出しの許可してやるよ。丸腰生身での旅は辛いだろうからな!」
と、超上から目線で言われたけれどまあいいか。
「了解」
×
そして。
パーティの持ち金のほとんどを持って、わたしはパーティを後にした。
だーって、全部わたしが稼いだお金だもんねーっ!
文句なんて言わせないよ。
わたしのお金で買ったものもついでに持っていくので、マジックバッグにはたくさんの荷物が詰まっている。
わたししか持っていなかった召喚獣の背に乗って、さあ出発!
自由を謳歌だ!
「……さて。これからどうしようかな」
うるさい背景はそのまま放置で、わたしはパーティを後にする。
×
到着したのは冒険者ギルド。
ひとまず、ギルドの上にある宿にでも泊まろうとわたしは考えたからだ。
しかし、相変わらずたくさんの人で賑わっている。
「すみませーん」
と、わたしは冒険者ギルドの受付に声をかけた。
「はい。冒険者ギルド受付です」
そう、朗らかな返事とともに笑顔の素敵な受付嬢さんがわたしを見る。
「本日は何のご用事でしょうか?」
「上の宿屋に宿泊したいのですが、空いている部屋はありますか? できれば一人部屋か安い部屋が良いのですが」
「少々お待ち下さい」
そう言い、受付嬢さんは機械を操作し始めた。
それから
「はい。丁度、条件に該当する部屋がございましたので、鍵を発行いたしますね」
と、部屋を借りられることに。
良かったー。運が良いみたいだ。
受付嬢さんが鍵を発行している合間、手持ち無沙汰になるので何となくで受付の場所からギルドの建物や周囲へと視線を巡らせていた。
「って、あれ?」
何か、小さいのがいる。
あれは……鎧だな。耐久盾役かな?
もたもたと歩いているのが何だか可愛い。
しばらく見ているうちに、段々とわたしの方へ向かって来た。
「うんしょー」
そして掛け声と共にわたしの後ろに並んだ。
あ、そうか。この受付嬢さんに用事があったのか。
そう感心している合間に
「発行の手続きが終了いたしました」
と、受付嬢さんが声をかける。
「ありがとうございます」
差し出された鍵を受け取り、後ろの子に場所を譲った。
高さ的に届くのかな? と思っていると小さな子はカウンターのすぐ近くの、程よい大きさの台を引っ張って引き出していた。
大丈夫そうだな。と言うか、わざわざ用意されてるって事は常連さんかな?
×
翌日。
冒険者ギルド施設に併設された宿を身支度してから出る。
部屋を借りてすぐにわたしは宿の部屋に入って寝た。だって疲れてたし。
おまけに、ここの温泉は一日中営業してるからお風呂はいつでも入れるので問題は無かった。
だけど。
「……冒険者ギルドに入っていても宿代取られるんだなー」
わたしは肩を落とす。毎日銅貨10枚だって。今まで野宿とか好意で泊めてもらってたから、わたしは知らなかった。
続けて部屋を使う場合は、午前中に一度チェックインして利用料金を前払い。
まあ、観光地やそこいらの宿屋よりは安いらしい。
わたし、冒険者ギルドに年会費(銀貨10枚)払ってるんだけどな。
あと、わたしはバードだから吟遊詩人関連のギルドにも年会費(銀貨50枚)払ってるんだよ。もうちょい安くならないかな。
とりあえず言おう。銅貨100枚で銀貨1枚。
つまり101日以上泊まったら年会費超えるわけだね。
……101日ってあっという間な気がするんだけど。あこぎな商売してんなぁ。
家を手に入れたら、払わないで済むらしいんだよね。お家欲しいかも。でも冒険者一人だったら買えないし、お金もちょっと足りないんだよな。
6人組の『クラン』ってものを組んだら少なくとも家は手に入るらしい。どこかのクランがわたしを入れてくれないかなぁ。
まあ、銅貨10枚ってクエスト2、3回受けたらすぐ取り返せるんだけどね。
一回大体銅貨5〜100枚で、手数料で1割持っていかれる。
まあ難易度によっては銀貨やそれより上の金貨が支払われるクエストもあるけど。
「クエスト発注お願いしまーす」
今回わたしが受けるのは薬草取りのクエストと、木の実回収、周辺モンスターの生体調査。それぞれが銅貨5枚の超簡易クエスト。
前パーティから回収したお金や食料があるから別にお金には困ってないんだけれど、身体慣らし。
「はい。承りました」
朗らかな笑顔の受付嬢さんは多分たくさんの冒険者の癒しだな。
×
「クエスト達成、お疲れ様でした」
「報酬ありがとうございます」
にこにこ笑顔の受付嬢さんから、報酬を受け取る。
これは宿代用の袋にでも入れておこう。必要最低限の生活費って事で。
さて。午前中でクエスト終わったから暇だなぁ。吟遊詩人らしく、酒場で弾き語りでもしようかな。
と。
宿の鍵の発注中に見かけた、小さな子が通り過ぎた。
「よいしょ、」
カウンター下から台を出して乗り、受付嬢さんと何か話している。
それから小さな子がぷるぷるしだして、焦った様子の受付嬢さんが宥めようとしているみたいだ。
「……何かあったんですか?」
思わず声をかけた。
×
要約すると「『小さいから』って誰もパーティを組んでくれない」だそうです。そうか。
「ぼく、これでも成人なんだよー」
そう訴えるなり、目に涙を溜め始める。めっちゃ可愛い。
ぱっちりした目にふわふわな髪、ふくふくした柔らかそうなほっぺ。これは庇護欲唆るよね。
「ここ数日間、募集をかけているのですが……パーティを組んでくれる方がいらっしゃらなくて」
と、受付嬢さんは申し訳なさそうに告げる。
「どういう人探してるの?」
「回復してくれるひとだよー」
タンクの子はそう答えた。
「マッチングはするんだけど、会ったらだめだって言うの」
つぶらな目がさらにうるうるしてきて、涙が溢れそう。
ふーん、そっか。回復職ねぇ。
「低級モンスター退治なので、実際、そこまで高度なクエストを受ける訳じゃないのですが……」
「じゃあ、わたしが一緒に行こうか?」
悩ましげな受付嬢さんとタンクの子に、わたしは提案をする。わたしはバードだから回復もできるのだ。聖職者と比べたら一度の回復量は少ないけど、持続効果付きだから任せて!
「良いの!?」
ぱぁっとタンクの子は目を輝かせた。勝手に周囲にキラキラしたエフェクトが見えるぞ。
「ありがと!」「わっ、」
ついでにハグをもらった。台には乗っているけれど、身長が低いから腰元が締め付けられる……って鎧が痛い痛い。
「あっ、ごめんね」
「いいよ、大丈夫。で、クエストの発注お願いできる?」
「はぁい」
そして、わたしはこの小さなタンクの子と一緒にパーティを組むことになった。
×
「よいしょー!」
ガァンッ!
可愛らしい掛け声と共に、凄まじい威力での盾の殴打がモンスターにヒットする。
いや、つっよ!
わたしが補助的に攻撃バフと持続回復とかかけてるけどそれでもやっば!
モンスターがわたしの方に来そうになった瞬間、
「カモン!」
と叫んで、ばっちりタンクちゃんが強制的にヘイトを稼いでくれるし。安心して回復とバフに集中できるよ!
それから、わたし達はあっさりとクエストをクリアして報酬をゲットした。
「クエスト終了、お疲れ様でした」
「すっごいんだよ、この子! なんか、じゃーんってやったらなんかぶわわーってなって、元気になるの!」
と、タンクちゃんは受付嬢さんに報告していた。必死に身振り手振りで伝えようとしていて可愛かった。
「良かったですね、報酬をどうぞ」
にこやかな笑顔で、受付嬢さんが報酬をわたし達に手渡してくれる。
「え、報酬は山分けでいいの? パーティリーダーに全部寄付とかしなくていいの?!」
「えっと、今までどんなとこに居たの……?」
眉を寄せてタンクちゃんが首を傾げた。あれ、受付嬢さんもちょっと引いてる?
まあ、それはともかく。クエストが終わったのでお別れする。
「また組んでね!」
と、笑顔で手を振り、ぽてぽてと歩いて温泉の方に歩いて行った。
あ、わたしもお風呂入ろう。モンスター退治は汗かくし服が汚れるもんね。基本は一回銅貨10枚、宿を借りていたら銅貨1枚で男女別。ここでもお金取られる。
×
「あれ、また会ったね!」
その舌足らずな声に振り返り、やや下を向くとさっき別れたばかりのタンクちゃんが居た。ぼくっ娘だった!
「あ、ほんとだね」
ほっぺ同様に真っ白くてふくふくした玉のような肌だ。
ちっちゃーい可愛い。本当に成人してる?
全裸でしゃがむのはあれなのでそのままの姿勢で会話をしながら移動する。
「バードさんも、ここに泊まってるの?」
「『も』って事はタンクちゃんきみも?」
温泉に肩まで浸かり、わたしとタンクちゃんは話をする。って、沈んでるぞ。
「重いから沈んじゃうの」
段になっている場所に座らせると、もじもじしながら答えてくれた。そっか。耐久盾役だもんね。筋肉がしっかり詰まってるのか。
「あとね鎧が心配なの」
と、タンクちゃんは言っていた。すごく大事な鎧だから、盗られないか気になってあんまり休まらないらしい。一応、ここは冒険者ギルドの施設内だから盗難への対処はしてくれるらしいけど。
「クランってものを作ったら家がもらえるんだって。そうしたら、盗難とか気にしないで済むかもね」
と、なんとなしにわたしはいう。楽器も気兼ねなく弾けそうだし。
「そしたら、一緒のに入ろうね!」
そう、タンクちゃんは言ってくれた。
「そうだね、一緒の方がきっと楽しいよ」
でもあと4人くらい人が必要なんだよな。どうやったら集まるのかなぁ。変なやつとはもう組みたくないしな。
それから、わたしとタンクちゃんは何度かパーティを組んでクエストを消化していった。
で。
「アンタ達、魔術アタッカー欲しくないか?」
と、魔法使いに声を掛けられた。
×
「言い方が悪かった。盾と回復が欲しいんだ。ほら俺、貧弱筋力最底辺の魔法使いだから」
そう、黒い衣装の人は言った。魔法使い系の人はすごく性格が悪いか捻じ曲がっているとか聞くけれど、この人は結構素直そうだな。
「俺、攻撃力高いから、すぐヘイト向いてモンスター全滅させねーと薬草採取もまともにできなくてさ」
段々と、自信なさげに視線が下を向いていく。攻撃力高いって自分で言えるってすごいなと思うけど。
タンクちゃんを見ると、不思議そうに首を傾げていた。
「だから、手伝ってください。お願いします」
ぺこ、と頭を低く下げてその人は頼み込む。というか、嫌に何も、まだ返事してないけどね?
「わたしは良いよ。回復は範囲だし消費MPも人数で変わらないし」
きみは? とわたしはタンクちゃんを見下ろす。すると
「ぼくも良いよ! 遠くの子とか倒して欲しいし、いっぱい来たとき大変だから」
そう、嬉しそうに笑った。
ということで、うちのパーティにウィザードくんが追加されました。
……ていうか、数日前から仲間になりたそうに見てたの知ってたし。
×
「いくぜ、爆炎暴風ォッ!」
というウィザードくんの詠唱と共に爆風がモンスターを吹き飛ばしたり色々したりする。
爆破系かっ!
そりゃヘイト稼ぐよね!
だけれど。相当に魔力の操作が上手いのか、ウィザードくんはモンスターだけを的確に排除していく。
……しかしヘイト稼ぎ×2となると、体力の回復に限界が来るな。
あと、どちらかというとMP回復に注視したいかなー。片方はウィザードだし。
吟遊詩人はHPを犠牲にMP回復できるんです。
こりゃあ、本格的な回復職欲しくない?
×
募集をかけたら丁度修行を終えたばかりらしい修道司祭が来た。
「って、きみかぁ! 懐かしいね!」
やってきた修道司祭は、わたしが学校に通っていた頃の同級生だった。ずーっと成績優秀だったおかげで万年2位だったんだよね、わたし。
思い出すとちょっと腹立たしさが湧いちゃった。
「本当に修道司祭? 武闘司祭って言った方が良くない?」
見ないうちに結構良い体格になってるなぁ。……随分と背も高くなったみたいだし。
「よく言われますが、失礼じゃないですか」
「ごめんなさい」
さすがに失礼だったかな。
しかし、回復が増えるとなると、これは本格的な前衛職とか必要じゃないかな。
あー、でも戦士はやだなぁ。前のパーティ思い出しちゃうし。まあ魔女と修道女が居たけどね。性別違うし大丈夫。
というか戦士だとタンクちゃんとちょっと仕事被るし。
……って考えてたんだけど、今は大丈夫そうだったな。
この人殴りプリーストだった!
だけど、やっぱり火力が足らないんじゃないかな? 人数も増えて来たし、やっぱり要るよ。前衛攻撃の人。
タンクちゃんより圧倒的に素早く動ける人……隠密暗殺とか?
×
で。
隠密暗殺募集しようとしたら、「ちょうど良い人がいます」と受付嬢さんから紹介された。
「……よろしく」
紹介された人は、無口でいかにも隠密暗殺って感じの人だった。
「すっごーい! ほんものだぁ!」
と目をキラキラさせてタンクちゃんはアサシンくんの周りをうろちょろしていた。可愛い。
「まあ、アサシンなんて滅多に見られるものではないですからね」
感心した様子でプリーストくんも頷く。
「というか、受付嬢さんからの直接の紹介ってそれはそれで珍しいよな」
そう、ウィザードくんも感心しきりだ。
「まあともかく、よろしくね!」
×
強い。 これはすごい。
隠密暗殺だから、敵に見つからずにさっと先のところまで行って情報取ってきてくれる。
おまけになんか指示が的確!
「装置が向こうにあるからあのモンスターを仕留めるぞ」
とか
「この先にいるモンスターはこういう技を使うから先に対策するぞ」
とか。
お陰で以前よりも難しいクエストをクリアできるようになっていった。
そして、そのアサシンくんは言った。
「早急に中距離を探すぞ」
×
「オレは超近距離だ。分かるか、弓が居ない」
理由を聞いたところ、アサシンくんはそう答えた。
つまりは魔術の遠距離が効かない相手が出たらこのパーティはやばい、という事だ。
「弓ならわたし、一応撃てるけど」
そう提案してみる。だけれど、
「馬鹿を言うな。お前は攻撃バフと回復に注視してくれ」
そう、アサシンくんは首を振った。
「えっ、攻撃じゃあ役に立たないって事?」
「違います。恐らく、アサシンさんは貴女のバフを頼りにしているし、バフ、HP、MP管理で大変だろうからこれ以上仕事を増やしたくないんだと思いますよ」
そう、怪訝な顔をするわたしにプリーストくんは教えてくれた。
わかんないよそれ。
とにかく、弓というか物理中遠距離の人が必要、という事らしい。
×
「えっ! こんなアタシに居場所をくれるの!」
またまた受付嬢さんからの紹介で、仲間ができた。
職業は初級罠師。遠射罠師を目指しているそうだ。
元気いっぱいな子で、ついこの間若葉を脱したばかりの半新人ちゃん。
でも、受付嬢さんから直々に紹介されるって事は何かすごい子なのかもしれない。
あるいは、変なパーティに組み込まれる前になんとかしたかったとか?
×
いや、すっごい上手い子だった。
本当に初心者?
遠距離だというのに弓を的中させるし、気付いたらモンスター罠にかかってたり矢で倒れてたりするし。
それに、アサシンくんと一緒に隠密行動で先の事を見てくれる。アサシンくんが先に行く間に、後ろとか周囲の警戒とかしてくれるから、安心して採取やモンスター退治もできた。
「ありがとう、とっても探索やりやすかったよ!」
そう、レンジャーちゃんにお礼を言うと
「こちらこそありがとう! あたしも良い人達に恵まれたし」
そう、心底嬉しそうに笑った。
そしてわたしは6人パーティを組むことになった。
って、これならクラン組めるんじゃない?
×
……ということで。
アサシン、ウィザード、パラディン、プリースト、レンジャー、バードのわたし達6人はクランを立ち上げ、そこでシェアハウスをすることになった。
タンクちゃんは高位騎士だったんだね。
気が向いたら連載版を考えてみようかなと思う次第です。
その時は日常モノになるのだろうか。
ちなみに追放したのは勇者パーティだという。