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目を覚ます。そこには、途方もない青空が広がっており、その光景はどこか見覚えがあった。
芝生の上に寝転がっていた体を起こし、青年はぱちくりと目を瞬かせる。
そこに広がっていたのは、かつての故郷であり―――魔王となる前の彼に滅ぼされたはずの光景だった。
走馬灯でも見ているのかと、呆然と目の前の光景を見つめる彼のもとに、一人の青年と少女が近づいてきた。その足音に気がついた青年が視線を向けると―――先ほどの比じゃないほどの大きな衝撃が彼を襲った。
茶髪を肩まで伸ばした少女――ーリーシャの隣を歩く青年。黒に青の混じったダークデニムの髪をうなじで結び、一見女性と見間違うほどに端正な顔立ちの彼――ーミリヤの姿に、青年は再度言葉を失った。
「あー!やっと見つけた!もう、こんなところで昼寝してるだなんて!」
「まあまあ、無事見つかったんだしいいじゃないか」
「ミリヤはすーぐそうやって甘やかす・・・」
そんなことない、と答える彼から目が離せない。
なぜ、彼がここに。
なぜ、リーシャはとともに語り合っているのか。
なぜ―――。
「?・・・ユーリ?」
応答がなく、呆けた表情を浮かべるユーリに対して、彼は首をかしげながらしゃがみ込んで、彼の表情をうかがった。
その一挙手一投足は紛れもなくミリヤ本人のもであり、その事実が余計に彼の混乱と困惑を深めていく。
「もう、何呆けた顔してんのよ。せっかくのお祭りなのよ?」
「祭り・・・?」
「ええ!?まさか忘れてたの!?ユーリってばあんなに騒いでたのに!」
いまだ混乱のさなかにいる彼をおいて、リーシャは話を続ける。
その内容は全く頭に入ってこず、その様子を見守っていたミリヤはリーシャの言葉に割って入り、少し笑みを浮かべてユーリを見つめた。
「体調でも悪いの?随分、顔色が悪いけど」
彼の一言でようやく気が付いたのか、リーシャも慌ててユーリのそばへと駆け寄る。
「ほ、ほんとじゃない!大丈夫なの?」
「あ、ああ」
心配してくれている二人に対して、間の抜けた返事を返すも、ようやく少しだけ冷静さを取り戻せてきた。それでもまだ、すべてを飲み込むにはまだ時間を有するようで、ユーリは目元を抑えながら呟いた。
「ごめん・・・少し休んでから行くから。二人は先に行ってて」
少しばかり突き放すような言い方をしてしまったことに申し訳なく思いながら、ユーリの言葉通りに、正門の前で待っているから、と残して去っていく二人の後姿を見送ったユーリは深く深く、息をついた。
状況を整理しよう。
まず、ユーリは目を覚ます前までは、魔王であるミリヤと対峙し―――敗北した。
それは紛れもなく事実であり、他でもない彼自身がそれを自覚している。
そして、目の前に広がる故郷の姿。仲睦まじく会話をしていたリーシャとミリヤの姿。
これが死に際に見ている走馬灯なのではないかという疑念はいまだに胸中を渦巻いている。
それでも、考えずにはいられなかった。
あの時求めた、かつての日常。
もう二度と見ることがかなわないと思っていた彼の笑顔が、その願いが。
現実のものとして、現れたということを。
「巻き戻ったのか・・・?」
言葉にすることで強く確信する。
これは紛れもなく現実である、と
目じりから流れる涙が、視界を濡らす。
もう一度見たかった光景が、すぐそこに広がっている。
「こんな・・・こんな、ことが・・・!」
なぜ時間が巻き戻ったのかは、わからない。
それでも今は、今この瞬間だけは、得難い幸せを、感じていたかった。
▼
鬱蒼と緑の茂る森の中で、二人の青年が相対していた。
太陽にさらされ、白に見える金髪を持つ青年。
陰に隠れ、青みがかった黒髪がより一層黒く見える青年。
二人の表情は対照的で、前者は悲しみに表情をゆがませ、後者は何も感じさせない無を浮かべていた。静寂を切り裂いたのは、金髪の青年であり、その声は表情以上に、彼の心情を表していた。
「なんで、なんで、街を襲ったんだ!!―――ミリヤ!!!」
ミリヤと呼ばれた青年は、静かに言葉を紡ぐ。それは、罪を悔いる罪人のようであり、また自身の悪事を何とも思っていない、狂人のようでもあった。
「君に言う必要はないよ、ユーリ。これは僕の問題だ」
「っ・・・!そんなので、納得できるわけがないだろう!!!」
静かに告げたミリヤの言葉に、ユーリは激情をあらわにする。
幼いころからともに育った街。あそこの住民は物心がつく頃には全員顔見知りであり、住民もみな、彼らを家族のように接してくれていた。
そんな彼らを、ミリヤは踏みにじった。それがどうしようもなく許せなかった。
「・・・君に賛同を得るつもりはないよ。僕はこれから、僕の道を歩む」
「なにを―――」
「だから、さよならだ」
瞬間、たたきつけるような暴風がユーリを襲う。
木々を揺らし、地面をえぐるような暴風のなかで、不思議とミリヤの声だけは鮮明に聞こえた。
「また会おうユーリ―――その時は敵同士だ」
「ミリ―――!」
言葉は続かず、この日一人の勇者は、友を一人失った。




