第3話 旅立ち
ファーデルサイト城下町は、中世ヨーロッパをイメージさせる灰色の城壁と朱色の屋根で統一された街並みであり、非常に人通りも多く、果物や肉、野菜などを販売している市場は賑やかな雰囲気を醸し出していた。
「ファーデルサイトにようこそ」
と、耳にかかった金髪色の髪の毛を触りながら少女は言った。
「女の子とデートするにはその服装は似合わないわね」
夢人は自分の汚れきった服装を見ながら、自分がシルバーリングの指輪以外に何も持っていない事に気が付く。
「確かに、、、というか、お金なんて持ってないんだけど」
「お金持ってない?あなた、どうやって生きてきたの?」
「いやぁ〜、さっきの遺跡で財布落としちゃったのかな、、、ははは」
「旅人にしては軽装だし、鞄も持っていないし、、、まぁいいわ。この街は色んな所から色んな種族の人々が集まる街なの。困った時はお互い助け合う事になっているから。簡単な服の見繕いならそんなにお金もかからないしね」
不幸中の幸いなのかもう一人のアユリに旅人の服装一式を揃えて貰える事となった。
この世界のお金は「ウンディ」という名前らしく、銀貨、銅貨、金貨といった概念は元の世界での西洋の貨幣ともあまり変わらないようだった。
この世界の貨幣を作った人物なのかわからない人物像が描かれている。
「その指輪売ったら、10万ウンディぐらいになるんじゃないの?」
と夢人の服装を選びながら言うアユリと、
(いや、売るのはやめて!)
と言うもう一人のアユリ。
「この指輪、、、外せないんだ」
と、夢人は苦笑いをしながら断った。
「しかし、何もかも御世話になって大丈夫なのか?見ず知らずの俺に」
「いいのよ。あなたも冒険者になろうと思っている人なんでしょ?最近、魔物が活発化してきてて、この街の冒険者ギルドの依頼がとても増えているの。冒険者不足で困っているから、一人でも多くいてくれると助かるしね、この国としては」
冒険者・・・
と言う言葉を聞いて頭の中で、夢人はふと考えた。
「だから、さっきの遺跡に?」
アユリは答える。
「そう。あの遺跡、最近魔物が増えてて、こっそり調査してたの。ファーデルサイトの所持している土地だし、奥底にはこの国の儀式をする祭壇もあるしね」
「君もその冒険者って事なのか?」
「う〜ん、なんて言えばいいのか、、、そういえば、夢人、武器持ってなかった?いつの間にか見当たらないんだけど、、、」
「えーっと、、、どう説明していいやら」
青色の布生地で出来たダブレットと、紺色のマント、紺色のズボンを合わせた服装は冒険者のスタンダードな服装だと言う。
(もっと地味な物かと思ったけど、、、)
街中でこの国の人々の服装を見て、色鮮やかな服装が多く見かけた。こういった格好をしてて、目立たない方なのであろうと夢人は思った。
夢人とアユリは、店を出ると、
「そういえば、夢人って剣士なの?剣を持っていたようにも見えたけど」
夢人が首を傾げると、
「姫様!探しましたよ!!勝手に一人で行動されては困りますよ!」
銀色の鎧に身を纏った茶髪の若い男性が、眉間に皺を寄せながら走ってくる。
「げ!やっば!魔法の練習しに行くって言って、黙って出てきたけどバレてた!」
夢人は、先程の言葉を思い出す。
「え?!今、お姫さんって言いませんで下?」
「え?だって、ファーデルサイトだからね、ここは。あ、バレちゃった?」
「自分でバラしてる!?」
シルバーリングが静かに煌めく。
(あたしは元々、ここの国のお姫様、、、?でも、あたしはこんな状態になっている、、、この世界で何があったというの)
「姫様、誰ですか、その男は?」
男の騎士は、夢人を見ながら言った。
夢人は慌てふためく。
「いや、さっきの遺跡で迷い込んでしまって、魔物に襲われていたところを、姫様に助けていただいて、、、財布も無くして、路頭に迷っていたところで、、、」
言っている言葉はおおまかに間違っていないだろうと夢人は思う。
「そうなのよ。何かここら辺の地域が疎いみたいし、服も破けてたし。アレンも旅人とかを盗賊から助ける時とかよくやるじゃない」
アレンと言われた男はため息をつく。
「姫様、私はファーデルサイトの騎士として、巡回業務は仕事なのですよ。旅人の助けに手を差し伸べるのは構いませんが、全ての民まで行き届くわけでもないのですよ。それに何処からやってきたかわからない男が、魔族が化けてきているかもしれませんし」
「夢人は、冒険者になろうと思ってこの街に来たのもあるのよ!ほら、魔物が増えているから、ギルドの依頼も多くなっているだろうし」
思い立った苦し紛れの理由に便乗して、
「そ、そうなんです。田舎から出てきたばかりで、、、」
「田舎?イサイドなのか?ラウインなのか?イディルシャ大陸には地方の村は多いから、魔物に全滅させられたところも増えているからな。武器は持っているのか?」
「そういえば、夢人は剣で魔物と戦っていたように見えたけど、、、」
アユリとアレンがまじまじと夢人を見つめる。
夢人は考える。
この世界は、指輪が剣に変化するのが普通なのかどうなのかさえもわからない。
指輪からもう一人のアユリが声をかける。
(夢人、剣を出してみて。何かこの世界を知るきっかけになるかもしれない)
夢人の頭の中に語りかけてくる。
(大丈夫なのか?でも、疑われるよりかは)
シルバーリングがきらりと光った。
=思い出をスキャンしました=
=ロングソード=
指輪は長剣へと変化していく。
その光景を見たアユリはふと声を漏らす。
「え、、、?嘘でしょ、、、?」
「姫様、、、これは、カイトと同じ、、、力」
「この力に見覚えが?」
夢人は、アユリとアレンに尋ねると、静かにこう答えた。
「世界を救った希望の力。クロノスブレイクの力とも言われていたもの。そして今は亡き勇者の力だったもの」
銀色の長剣は静かに光りながら、佇んでいた。
ファーデルサイト城。
西ヨーロッパの大聖堂のように、ステンドグラスに覆われた城の様子は圧倒されるばかりの佇まいであった。
夢人は、ファーデルサイトの第一皇女であるアユリと、近衛騎士団副団長であるアレンと共に、城の中へと案内される事となった。
「父上に遭って欲しいの」
そうアユリが言うと、さっきまで楽しそうに服を選んでいた時の顔ではなく、何処か寂しげな、何か不安な顔がそこにあった。
アレンは何も言おうとしない。
(俺、なんか牢獄入れられるとか?)
そう心でもう一人のアユリに尋ねると、
(そうじゃないと思うけど、、、私のお父さんと会えるって、、、)
シルバーリングに戻ったアユリも何処か儚げな声をしていた。
王の間へと案内されると、玉座に王冠を被った60代程度の男性がにこやかな顔で出迎えてくれた。
「よくぞ参った。アユリから聞いておる。我はファーデルサイト国の国王ライデンと申す。お主の名はなんという?」
「皇 夢人と言います」
「スメラギ?あまり聞いた事のない名前だな。東国に似た名前のようなものは聞いたことがあるが。まぁ、良い。お主がカイトと同じクロノスブレイクの力を持っていると聞いたが真か?」
夢人はアユリの方に振り向いて、
「カイトって誰で、クロノブレイクって、、、」
「夢人、さっきのやった剣を出すやつやってみて」
夢人の右手の人差し指にはめているシルバーリングが煌めくと、銀色の長剣があらわになった。
「その力、確かにクロノブレイクの力、、、他の武器の形になるのではなかったか?」
「はい、杖の形には変化できますけど」
「なるほど、カイトの時は古代兵器銃や槍とかに変化していたが、、、」
「他にも変化できるのですね」
「お父様、彼に説明をしてあげた方が良いかと」
「ふむ、そうだな」
約2年前に人間族と魔族との戦争が勃発。この世界イデアの人間族を滅ぼし、魔族の世界を創ろうと企む魔王カリヴァーを筆頭に立っていた。
約1000年前から魔族と人間族はこの世界イデアで、共存する時代と戦争をする時代が交互にあり、その度に争いが絶えなかった。
そして、今回初めて魔王自ら先頭に立ち、人間族を本格的に滅ぼす事になり、和平交渉も上手く行かず、人間族は追い込まれていった。
その時に人間族側でとある青年が一人現れ、人間族の勝利へと導く。
見た目は人間のままでありながら、魔族が密かに兵器として開発していた機械混じりの義体を持つ青年、それがカイト・デインシャルトであった。
当時15歳程度の青年で、黒髪でありながら女性のように細身であったが、力が遥に人間を越え、魔族以上にあった。
また、変幻自在に武器を変化させる力「クロノブレイク」を所持し、あらゆる属性を操っていた。最終的に時間さえも操っていた事から、時さえ壊す力として「クロノブレイク」と名付けられた。魔族側で研究されていた謎の力で、結局カイト以外その力を扱えるものはいなかった。
「その戦争が始まった時に、カイトと我が娘アユリ、その当時冒険者であったアレンと共に世界を周りながら、魔族から人間を救う旅を出て1年、最終的に魔王カリヴァーを打ち倒した。世界は平和になったと思えた」
ついに魔王が倒れ、指導者がいなくなった魔族側とも再度和平を持ち、カイト、アユリ、アレンはファーデルサイトに戻ってから、アユリは皇女として、カイトはファーデルサイトの騎士団長に、アレンは副団長と着任した。
1年が経ち、平和は保っていた。
魔族族も魔王がいなくなったのか、人間族との共存する社会へと入っていった。
しかし、突然魔族とは違う魔物の存在が現れたのだった。
「その魔物達は魔族も人間も襲うのだが、何故か記憶を奪った後に殺戮を行っていたのだ」
「記憶を?」
夢人は自分の元にいた世界で、ゴブリンが同級生の記憶を奪っていた事を思い出した。
「その行為がなぜ行われていたのか、何故直ぐに殺さなかったのかが未だに謎で、現在でもその事件は多発している。そしてその一件でカイトも記憶を奪われ、死んでしまったのだ」
何処からやってきて、何故そんな力を持っていたのか。
見た目はこの世界にいる魔物達とはあまり変わらない存在などだが、知恵を持っていて、人語を喋れると言う点が大きいという。
「カイトはこのファーデルサイトを守る為に、人の言葉を喋る大型のグリフォンと最終的に戦う事になったのだけど、、、その時にそのグリフォンが言っていたのが」
お前に何度か殺されているから、そろそろお前を殺せるシミュレーションは出来ている
「相手はカイトの力も全部知っていて、、、私もアレンも援護をしたけど、最終的にカイトが盾になって。グリフォンには深手を負わせて退散したけど、カイトは力尽きてしまったの、これを残して」
アユリは首飾りにしていた小さな白い結晶のかけらを見せた。
「グリフォンとの戦いで、カイトの記憶を奪っていった時に白い結晶が出たのだけど、それ取り返そうとして戦った時に、少し砕けてしまって。でも、これ以外は持って逃げられてしまったの。きっと彼の記憶が入っている何かだと思うの」
(メモリーキューブの一部だわ)
シルバーリングは密かに輝く。
「それは人の記憶=メモリー=が入っているメモリーキューブですね。自分の世界でも、それを奪おうとした敵と戦った事があります」
「という事は、カイトの記憶が入ったメモリーキューブは奪われたまま、、、カイトだけはなく、他の被害者も最近増えているという。何をしようとしているのか全く意味がわからないのだ」
夢人は腕を組みながら考える。
(人の記憶のメモリーキューブ。学校にいたゴブリンが人間の歴史を無くす為に、記憶を集めているという事。でも、なぜ記憶なのだろう、、、謎すぎる)
(夢人)
アユリが夢人の頭の中に声をかける。
(もう一人のあたしが首にかけてるメモリーキューブのかけらに触れる事ができるかしら)
夢人は、疑問に思いながら、
「アユリさん、すいませんがその白い結晶のかけらを少し触らせて頂けますか」
アユリは首から白い結晶のアクセサリーを夢人へ預けた。
すると、白い結晶のかけらが白く淡い光を放つ。
=カイト・デインシャルトのメモリーを一部、ダウンロードします=
機械的な女性の声が聞こえる。
夢人は目を丸くして驚くが、シルバーリングであるアユリは、
(やっぱり、、、)
と、口ずさむ。
さっきまでいた王室の中から、森の中へ場面が入れ替わる。
森の中に小さな湖があり、そこには黒髪の細身の青年と、アユリらしき少女がお互い向き合いながら、立っていた。
「あたしは本当のあたしを見てくれていない。お姫様であるあたししか皆は見ていない。誰も愛してくれない。そう思っていた。だけど、あたしはあなたと旅をして、あなたが人間でもなく、魔族でもないのに、この世界を守ろうとして、でも人間や魔族に傷つけられながら、裏切られても、あなたは世界を救った。
そういうあなたの事をあたしは愛している。あたしはあなたのそばにいたい。
あたしはあなたが人間じゃなくても、あなたのことを愛します」
アユリらしき少女は、カイトと言った青年の目を見つめたまま、そう静かに強く言い放った。
青年は微笑む。
「アユリ、僕も君の事を愛してる。いつも一緒に居てくれてありがとう。僕がどんな姿になってそばに居続ける」
この場面はまだカイトが生きていた時、そして戦争が終わってからの刻だろう。
人間でもなく、魔族でもなく、それでもお互い想い合う。
「夢人、あたし少しだけ思い出した。あたしはあの人が好きだった。愛してた、、、
なぜこんな大切な事を忘れていたんだろう。なぜこんなに心が苦しいんだろう、、、」
「アユリ、、、」
夢人の右手に持っていた長剣が白く輝き、形が変形していく。
=ブレイブキャノン=
古代文明で見られるような不思議な模様で青色に彩られいて、先は細くレイピアのように見えるが、しっかりとした銃口が見える小火器が現れた。
「色は違うけど、カイトが持っていた古代銃に近いわ。これはまさかカイトの記憶で、、、」
「きっと、アユリが無くしていたカイトの一部の記憶が、この武器に変化させたのかもしれない」
夢人の目に前にいる幸せな青年と少女を見ながら、
「アユリ。カイトの残りのメモリーキューブと、その奪った敵の目的を調べに行こう。多分、元の世界に戻るきっかけがあるかどうかわからないけど」
「夢人、、、」
すると、湖の風景から王室へと場面が変わる。
横には今のアユリとアレン、目の前には王様がいる。
「夢人殿、一瞬白く輝いたと思ったら、その武器は、、、カイトが持っていたものをそっくりではないか」
夢人の右手には古代銃が握られていた。
あの森の中であった事はきっと夢人しか見る事が出来なかったという事なのだろうか。
「あれ、なんかおかしいな、、、どうしたんだろう、あたし」
横を見ると、アユリが目から涙が流れていた。
夢人は王の前で屈みながら、こう言った。
「王様、お伝えしたい事があります」
道具屋で野営出来る道具や、次の町まで行ける分の食糧を詰め込んでいる大きな鞄を背負っている夢人は城下町の入口の前で城の方へ振り向いた。
「アユリさん、自分一人でも良かったのに」
そう言うと、
「カイトのメモリーキューブを取り戻しに行くなら、あたしも行く。当たり前でしょ」
アユリは鞄の中をチェックしながら呟いた。
「お姫様は私が守りますのでご安心を」
アレンもまた鎧姿ではなく、動きやすい旅人の格好と、背中に大剣、腰には投げナイフの類などで身を纏っていた。
「カイトと旅に出た時を思い出すわね、ファーデルサイトから出た時の」
アユリは鞄のチェックを終えると、地図を取り出して、
「一旦、デールという町で情報収集しましょう。カイトを倒した敵達が最近そこら辺で動きがあるみたいって話を冒険者から聞いているしね。夢人も冒険者ギルドの登録が終わっているから、お金がなくなったら仕事も請け負えるし」
「姫様、最近魔物も非常に多く増えているので、魔力を温存しつつ、昼間の内に動きましょう」
夢人は空を見上げた。
(こんな異世界で旅をする事になるなんてな、、、でも、とりあえずアユリの記憶を取り戻しながら、元の世界に戻る方法も探さないと)
(夢人、ありがとう)
シルバーリングが輝く。
(あたしの記憶を取り戻すの手伝ってくれて。多分、夢人の世界で起こっている事も何か分かるきっかけがあるかもしれないけど、、、)
夢人はシルバーリングを撫でながら、
(大丈夫。きっとどうにかなるさ)
「夢人!ほら行くわよ」
もう一人のアユリとアレンは既に前へと歩いていた。
「さてと行きますか」




