第1話 遭遇
夢人は青色一色の長剣を構えながら、ゴブリンと向き合うが、一歩も足を出す事が出来ない状態であった。
(剣なんて振った事がないのに、どうすれば)
「私の力であなたをサポートするわ。ただ、私自身も剣をそこまで扱えるわけじゃないけど、ゴブリン相手ならば」
「それはどういうこと?」
「私自身の過去の記憶は何かしらの形で欠如しているなのはわかっているけど、どちらかというと魔術を扱う方だとはなんとなくわかるの。ただ、あういう敵とならば戦えるはず。剣に力を加えるわ」
=魔法剣アイス=
青色一色の長剣は白くぼやけると、白色に輝いた。
「肌に触れるだけで凍るから、ゴブリン目掛けて剣をぶん殴れば行動を止めれるはず」
「まぢか。信じるぞ、おい」
ゴブリンが先に仕掛けた。
夢人は焦って後ろずさったが、前屈み構えて剣を右上から覆うように振りかぶった。
白く輝く長剣は、ゴブリンの左肩に見事に命中し、そのまま左脇腹まで斜めに切り込む。
「ぎゃあぁぁぁぁ」
振りかぶった剣の勢いでゴブリンは後ろへと吹っ飛んだ。
ゴブリンの刻まれた体の傷跡は白く凍っていた。
「お、やった!」
アユリは軽めの口調で言った。
「倒したのか?」
ゴブリンはピクリとも動かない。
「今のうちにトドメ刺してた方が良いかも。また起きたら厄介」
そろりと夢人はゴブリンに近く。
「こんな怪物、RPGゲームでしか見たことがない、、、」
「ろーるぷれ?早くにトドメ刺さないと、倒れてる子らの記憶が戻らないよ、、、多分」
「多分って、、、でもこういうのトドメを刺すって初めてだから」
「あたしも記憶が曖昧なの、、、でも」
「あ、あー、、、わかった」
ゴブリンに近づくと、目を瞑りながら心臓めがけて長剣を突きつける。
肉の感覚が長剣に伝わるが、その瞬間ゴブリンはスッと砂のように溶けて消えて無くなった。
その代わりに、白いクリスタルの結晶のようなものがころりと、三つ程転げ落ちた。
「これは、、、」
「何かしらこれ」
「いや、それは俺が知りたいんだが、、、これはどうすればいいんだ」
白いモノを手に取ると、手の中に鉱石らしき感触があった。
「わからない、、、とりあえず本人らに近づけてみるのは?」
立ち上がると、さくらの近くに寄り添う。
すると、手の中にあった白い結晶が光り出し、すっと消えた。
「う、、、」
仰向けになっていたさくらが、うめきだす。
「さくら!生きてるか?!」
さくらは呼びかけに応えるように、瞼を開く。
「・・・ゆめと?」
翌日、夢人は地元の警察署に呼び出されていた。
とてつもない勘違いなのか、3人の同級生が神社の中で倒れていて、救出に向かったはずが、その原因が何故か夢人になっていた。
皆がゴブリンに記憶を取られてて、それを倒した、、、などと、そんなファンタジーじみたな話など、警察が信じてくれない。
説明するには、なんと言えば良いのかよくわからなかった。
ただ、夢人の同級生の山下から連絡があり、身の潔白が証明された。
山下自身も記憶を取り戻した事により、夢人が助けに来た事を証言してくれた。
その事を追うように、神社に倒れていたさくらとさくらの友達でありながら、女子同級生の花崎瑠花の救出をしたところで、自分が救急車の電話をしたというところだった。
警察署から解放されたのはお昼過ぎで、夢人の母親から電話があった程度で、学校に寄って先生に報告後に、帰宅する事となった。
右手の人差し指をはまっている指輪を見る。
「おい」
「・・・大人しくしてたじゃない」
指輪はそう応えると、
「さっきから周りを見てるんだけど、見たことない風景ね」
「いや、てか昨晩のあのゴブリンといい、お前といいなんなんだ、この状況は」
「お前じゃなくて、アユリよ。あたしもよくわからないわ」
「アユリ、自分の事を覚えていないって事は」
「あたしが何者で誰なのかはわからない。ただ、名前とやらないといけないことはなんとなくわかっているのだけど、なぜあたしがこんな状態になってるかも不明。少女の姿になれるのも一時的みたい。マナが足りないのよ」
「マナが足りない?」
「人間の体の中にエネルギーみたいなものかしら。それを使って人間は魔法を使うんだけど」
「いや、この世界じゃ魔法なんて存在しないぞ」
「でもあなた、使えたじゃない。あ、あたしがタグをつけたからか」
「意味わからない事言わないでくれ」
警察署から出て、学校行きのバスに乗ると、窓辺から外をみながら眺める。
昼間なのかバスの中には誰もいない。
「そういえば、やらないといけないことってなんだ」
「あー」
アユリはそう言うと、
「こっちの世界に来る前に、なんか神様みたいな白いもやっと人影に、「世界の時の均衡が崩れかかっています。メモリーズトリガーと共に人の思い出を守ってください。ではないと未来がなくなるのです」って言われて、気がついたら、あの神社に辿り着いたところで、別次元からゴブリンが出てきたの」
「話が壮大すぎてなんかよくわからないが、、、メモリーズトリガーってなんなんだ?」
「え?あなたのことじゃないの?」
「いや、知らん知らん知らん!」
「えー、、、、、、まぁ、いいんじゃない」
「そんな軽いもの!?」
すると、いきなりバスが大きく上下に揺らぐ。
地面から離れたバスは一度地面に叩きつかれると、バランスが良かったのかバスの停車と共にストップした。
窓のガラスも幸い割れる事もなく、バスの運転手が
「お客さん、大丈夫ですか!?」
と声をかけてもらうと、バスの椅子に抱き抱えていた自分が応える。
「いや、ちょっとお尻痛いですが、なんとか大丈夫です、、、」
窓から外を見る。
すると、学校側から生徒達が校門前から逃げ出すように出ていく姿が見えた。
「何が起きてるんだ、、、」
学校内で何が起こっているのかが見えない。
「すいません!ここで降ります!」
運転手にも止められたが、何か嫌な予感がしてならない。
「アユリ、まさか昨日と同じ事が起きてるとか」
「ありゆる」
「何が起こっているんだ、この世界は。何か嫌な夢でも見てるのか」
夢人は右頬をつねるが、何も起こらない。
「アユリが来てから何かおかしい事が起こっているってことか?」
「あたしのせいじゃないわよ!」
生徒達が逃げていく流れを逆行しながら走っていく。
「皇!!」
声をかけてくれたのは同級生だった。
「どうした?学校で何があったんだ?」
「ゲームで見るゴブリンのでかい奴が急に出てきて、校門の手前で暴れてる!体育館がぶち壊されて、何かこれ異世界生活?」
「あー、、、ちょっと見てくる」
嫌な予感が当たった。
「まぢで危ないから逃げよう!先生達が警察を呼んでるから早く!」
右手の人差し指の指輪を見る。
「わかった。ちょっと見てから逃げるわ」
学校の校門に辿り着く。
倒れている学生や先生、学校の関係者がいる。
そしてその目の前にいるのはゴブリン。
「でっか、、、」
15m程ある巨大なゴブリンが目の前にいた。
巨大なゴブリンは手の中にある人間を学校の壁に投げつけると、鈍い音を壁の破壊音と共に血飛沫を飛び散った。
人が目の前で死ぬ姿を直視する。
崩れ落ちた血だらけの人、いや、学生を見る。
硬直する。
(死んでる、、、?)
巨大なゴブリンに目を向けると、先方もこちらを振り向いた。
「なんだ、お前は。この世界は軟弱な人間しかいないのか。わしの子分がやられたと聞いてこっちの世界に来たのだが、アルデシアにいた時の方が強い奴が多かった。王から命でこちらの世界のメモリークリスタルコアの破壊に来たついでに腕慣らしをしてみたのだが、つまらんな」
巨大なゴブリンを直視しながら見上げる。
(俺の日常が変わっていく。確かにつまらない日常を嫌になった事もあったが、、、これはないだろう)
「夢人、あれは、、、」
夢人は指輪を見る。
「何か知ってるのか?」
「いや、わからない、、、けどあれは倒さないと結構ヤバい」
「あー、、、そもそもあれは倒せるものなのかどうか、てかなぜ俺なんだ」
15m程あるゴブリンは、ハーネスを身に纏い、片手には棍棒らしき物を持っていた。
「しかし、あれはどうやって倒せばいいのか、、、」
「確かに、、、今のあなたじゃ倒せる相手じゃないわね、、、」
周りを見渡すと、まだ逃げ切っていない学生達がいる。
「警察が来るとか言ってたな。皆が逃げるまで耐え凌ぐか、、、遠距離攻撃とかで?」
「あなた弓使えるの?」
「いや、、、そんなの使った事がない、、、そういえば魔法が使えるとか言ってなかったか?」
アユリが押し黙る。
「あなたにタグ付けした事で、あたしの魔力も使えるけど、元々夢人自身の魔力が低いからそこまで持たないと思うわ」
「俺ってまぢでレベル1なんだな、、、どこまで出来るかわからないけど、、、やってみるか」
「魔力を上げる杖をイメージして」
夢人は青い宝石の杖をイメージする。
どうやらアユリのイメージが伝わってきたのか属性がやはり水色だった。
=あなたの思い出をスキャンしました=
青い指輪が光り出す。
=アイスロッド=
瞬く間に夢人の両手に1.5m程度の大きな樫の杖があらわになった。
先端には青い宝石が埋め込まれている。
「夢人!足止めするなら、足元を狙って氷の魔法を打つ!」
「アユリ、ちょっと待った!魔法ってどう使うんだ!」
「頭の中で氷をイメージして、その間に頭の呪文を送りつけるよ!」
巨大なゴブリンは、右手に持っている大きな棍棒は夢人を狙って殴りつけてくる。
夢人はアイスロッドを持ちながら、右側の校舎へのに走り出す。
棍棒は大きな音を出して、地面を叩きつける。
学生達も四散して逃げ惑う。
「貴様、アルデシアにいた勇者と同じ技を持っているのか。逃がさんぞ!!」
ゴブリンは怒り狂うように叫び出した。
夢人は目を閉じる。
頭の中に氷のイメージが、そしてアユリからは日本語での呪文が送られてきた。
こういうのは何かの変換機でもあるのか少し思った。
夢人は口で呟くと、目を見開く。
目標はゴブリンの右足の付け根。
=アイストルネード=
杖の先端の宝石が光り出し、ゴブリンの右足目掛けて白い嵐が巻き起こる。
「いけーーーー!!!」
白い嵐はゴブリンの右足をまとわりつくと、徐々に凍り始めた。
「ナニ!?」
巨大なゴブリンはバランスを崩すと、左膝を地面につけた。
見事にゴブリンの足止めに成功した。
「左足も!」
「わかってる!」
夢人はもう一度同じ呪文を唱えると、左膝に目掛けて白い嵐を巻き起こす。
=アイストルネード=
ゴブリンの左膝も見事に凍り漬けにし、両足を封じる事に成功する。
「チッ!余計なこと!」
夢人は次の行動へと移そうした瞬間、目眩とふらつきに右足を崩した。
「くっ!何が起こったんだ、、、!」
「魔力をいきなり使ったから、反動がきたのかもしれない!」
「なんていう後遺症、、、!」
夢人は次に何か大きな巨大な剣かで、生身になっている足に直接攻撃が出来ればと考えていた。
しかし、あまりにも力不足のせいなのか夢人はしばらくそのまま動けなかった。
校内を見渡す。
倒れている人以外は見当たらない。校内にいた学校の人らはほぼ逃げ切ったという事だろう。
血塗れになった学生の死体はそのままだった。
(これは本当に現実なのか、、、)
その時だった。
「警察だ!!!」
大きなシールドと拳銃を持った警察の群れがやってきた。
40人程度なのかかなり数だった。
「なんだ、あれは、、、化物」
20代の警察官が巨大なゴブリンを見上げると思わずつぶやいた。
「ニンゲンども!貴様らなぞ相手にはならん!しかし、こちらの世界にも勇者がいるとなれば、話は別だ!アルデシアでも手こずって殺したが、今度こそ徹底的に殺してやる!今日はあくまでもこっちの世界の様子見だ!今度こそ覚えておけ!」
青い空に裂け目が出現し、巨大なゴブリンはその裂け目に吸収されるかのように消えていく。
「必ず時を止め、人間の歴史から闇に葬ってやる、王の為に!」
そう言って、巨大なゴブリンは姿を消した。
(追い払ったのか、、、くそ、運がよかったとしか)
夢人は緊張の糸と魔力の枯渇も重なり、前屈みに倒れた。
「夢人!夢人!」




