5.
イゼリアが野々ちゃんと遊ぶ約束をして数日。初めて校内で野々ちゃんを見かけた。
ボランティア部だったんだ。今まで素通りだったけど、もしかして何回も見てたのかも。
今の私は芹菜だから、知ってる顔で話しかけるわけにもいかない。けど、野々ちゃんは今度イゼリアと遊ぶんだよね。制服姿以外見たことが無いからセンスがどうなのか分かんないけど、服は最低限着回せればいいって言ってたくらいだからあまり期待はできない。あの言い方だと、多分スキンケアもしてないよね。でも時間は2週間ある。今からいろいろ仕込んでおけば……要らない物だって言えば、喜んでもらってくれるんじゃないかしら。よし。
「こんにちは。不要な物はありますか?」
「ええ。でも少し多くって。寮まで引き取りに来てもらえますか?」
「もちろんです。ご協力ありがとうございます」
見た目も話し方も違うので、当然気付かれることも疑われることもなく隣を歩いてくれる。
軽く自己紹介をしながら寮に着き、自室へ戻ってきた。
「高等部の桜花寮、初めて入ります」
「作りは中等部と同じですよ。野々ちゃんは寮生ですか?」
「はい。私も桜花寮生です」
「そっか。じゃあ来年が楽しみですね。部屋、お隣になったりして。あ、ここです。どうぞ」
部活動に入っているルームメイトはまだ帰ってきていない。寮にはスキンケア用品と、普段使い用の化粧品が置いてある。イゼリア用の物はほとんどが実家だ。
鏡台の椅子に座るよう勧めて、収納ボックスを漁り、水色の瓶を手に取る。
化粧水はこれで良いかな。まあまあの値段だし、割と誰でも使えるはず。個人的に使用感が気に入らなかったけど。
「肌質、どんなです? 乾燥肌とかオイリー肌とか」
「えっと? よく分からないですが」
まあ、そりゃあそうか。
「化粧水、使ってますか?」
「いいえ。お金が勿体ないので」
「スキンケアは早くするに越したこと無いですよ。メイクだって、慣れるまでは結構難しいものですから早く始めるに越したことは無いと思います。幸い、星花ではメイクして登校することが許されていますし。しっかりケアしていれば荒れることもないですから」
鏡台に置いたアクリルケースの中には、これでもかとコットンが入っている。一つを手に取って化粧水を浸し、肌に叩き込んでいく。
「一応敏感肌用の物なんですけど、ヒリヒリしたりします?」
「いえ、ない、ですけど。これは何を?」
「肌の上で伸ばすのは良くないんです。化粧水はコットンに染み込ませるか、もしくは手のひらで少し温めて使います。手で押さえて肌に浸透したら、余分なものはティッシュオフしてくださいね」
さて、化粧水はこれで良いとして、後は乳液。クレンジングと洗顔料も渡しておこう。
いろんな物を試したくて、いろいろと調べた上で気になった物はお金が許す限り出来るだけ買うようにしている。ただ、こういうものは高ければ良いわけじゃなく、肌質に合わない物もあれば使用感が好きじゃない物もある。ちゃんと気にしながら選んではいるけど失敗はつきもの。使わずにいるより使ってくれる人の元に届く方が良いですからね。
「この乳液も私の好みじゃなくて。これは安くてコスパも良いから、少し多めに使っても大丈夫。スキンケアはちゃんと習慣づけないとですよ。後はこの2つもあげるので、使い方を覚えてくださいね」
ひと通り説明して紙袋に入れ、それとは別に、数本のプラスチック容器を入れた袋を一緒に渡す。
「こっちが野々ちゃんの分。時間をもらっちゃったし、こっちはこんな物で良かったら部員さんでもボランティアで他の誰かでも、使ってあげて」
「ご協力、ありがとうございます。あの、全部ご自分で買ったんですか?」
「もちろんです。アルバイトしてますから」
「お小遣いは?」
「貰ってないですよ。両親にバイトするなら遊ぶお金は自分で稼いでこいって言われてるので。まあ、高校生にしては結構貰ってると思います」
「はあ、そうですか。じゃあ、これで失礼します」
「あ、待って。明日も来てくれません?」
「明日の部活はお休みですが」
「遊びに来てって意味」
「分かり、ました」
たった1日でもイゼリアの隣を歩くんだから、絶対もっと可愛くなってもらうからね。
どうしようかな。明日はベースメイク? それとももっとスキンケア用品をあげちゃおうかな。パックとかクリームとか。
ふふ、ちょっと楽しくなってきちゃった。