2.
それから数日。
(くさい……)
土曜日である今日はバイトを午前中で終えて、そのままイゼリアの格好で近所の無料動物公園に来ている。黒地のワンピースにレースやリボンがふんだんに使われ、スカート部分はパニエでふわりと膨らんだいわゆるゴスロリ。足元はそれに合わせたヒールの高い靴で、間違っても動物園に来るような格好ではないよな、うん。
正直に言うと、動物園のこの独特なにおいは苦手で、学校行事くらいでしか来る機会は無かった。それでも今回足を運ぶことにしたのは、SNSにあげる写真がマンネリ化して、この頃あまり反応が良くないから。動物と一緒なら少しは変化も付いて映えるかなって思ったんだけど……。
服ににおいが移らないか気になって仕方ない。サッサと撮って帰ろう。
入り口に1番近いサルのコーナーで、ちょうど近くに小さなサルがいたので一緒に写真を撮る。
「うーん……写真映え、あんまりしないかも」
可愛いとは思うけど、微妙? ずっと前に来たから覚えてないし、看板も見てないけど、他にどんな動物がいるんだろう。
「失礼ですね」
やば、誰かに聞かれてたみたい。
モルモットとかハリネズミとか、小さな動物はいないのかな、なんて考えてて隣に人がいることに気付かなかった。
「この子たちが生まれてきたのは本来、撮られる為でも観察される為でもないんです。癒してくれるんですから、そこにいてくれるだけでもありがたいことです」
げ、しかも星花の生徒だ! ボクのイメージが悪くなっちゃう。動物相手にこんなこと言ってたって拡散されたらどうしよう……!
「そうだね。不快にさせてごめんなさい。ふらっと立ち寄ってみたんだけど、また別の日に出直すことにするよ」
芹菜として来る分には、もっと素直に楽しめるはずだから。
「ここは良いですよ。可愛い動物がたくさんいて時間があっという間に過ぎていく。何よりもタダですから」
星花生は制服に学年カラーのピンを付けている。色を見たところこの子は中等部の子みたい。バイトもまだできないからお金がかからないに越したことはないよね。
それでも、一人でこんなとこにいないでウィンドウショッピングとか、友達の家に遊びに行くとか、休日の過ごし方はもっとありそうなものだけど。もしかして友達、いないとか? ……ま、人それぞれだしね。
「野々先輩! やっぱりここにいた。ん? えっ、まさかイゼリア!?」
なんだ、ちゃんと友達いるんじゃん。待ち合わせだったんだ。そういえばこの子、ボクの名前呼ばなかったな。知られてないんだ。ちょっとホッとした、けどまだまだなんだな、ボク。
同じく中等部の制服に身を包んだ少女に軽く会釈して、動物園を後にした。