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10.

 ふぅ、なんであんなに緊張したんでしょう。いつもと同じイゼリアさんなのに。

 チェキを撮り終えて席までのごくわずかな距離を、つい悶々としながら歩く。

 あんなに良い声してましたっけ? 次回はプリクラを撮る約束まで……いえ、イゼリアさんのやりたいことに付き合うのはこれまでと変わらない流れで、緊張する要素なんてどこにもありません。

 席につくと2人は相変わらずニヤニヤしながら迎えてくれました。


「なんですか」

「楽しかったみたいで良かったです。それにしても先輩、再三言ってますけど、良い加減スマホ買ったらどうです? 親に反対されてるってわけでもないんでしょう?」

「突然ですね。そうですけど。お金がかかるので持ちたくないんです」


 むしろ両親には持っていた方がいいと何度か説得されました。離れて暮らしていると言ってもすぐに帰れる距離ですし、本当に必要な時は学校が貸してくれるでしょう。無くても問題ありません。


「中学生よぉ? まさか、ご両親も自分で支払えなんて言わないでしょう?」


 お金のことは気にしないでとよく言われるのでそれは無いでしょう。しかし私が必要性を感じませんので。


「それに! 自分で持ったら、いちいち私に言わなくたってすぐにイゼリアの写真が見れるんですよ!!」

「べ、別にそんなこと……!」


 突然イゼリアさんの名前が出て、思わず考えるより先に言葉が飛び出す。自分が少しでも写っているかもしれないから気になるだけです。他意はありません。イゼリアさんを見たいからだなんて…...でも。一緒にいるのが私だと知らないのだから、彼女の考えは自然なもの、なのでしょうか。


「いいえ! 先輩最近ハマり始めてますよね? イゼリアの凄さに気付いたんでしょう? だってさっき明らかに顔逸らしてたし。推しが目の前にいて戸惑ってるって感じでしょ??」

「なんでそんなに食い気味なんですか。こういう所は初めて来たので、どんな顔をしたらいいか分からないだけですよ」


 熱くなる後輩を見て反対に落ち着いてくる。届いたドリンクで喉を潤しひと息つくと、いつも通りの私に戻れた気がする。


「そうよ〜野々ちゃんが誰を好きになったっていいじゃない」

「すっ、好きとか、絶対無いですから!」


 ……やっぱり今日の私、変ですね。どうしたんでしょう。


「およ? 先輩が珍しい反応してる!」

「野々ちゃん、さっきもらったスタンプカードも溜めると特典盛りだくさんよ。お気に入りのメイドさんともっと近付けますよ〜?」


 お金を出せば、お近づきになれる。そのシステムを知らないわけではありませんでした。が、お金さえ出せば誰でもさっきみたいにイゼリアさんとツーショットを撮れるんですね。なんだか、モヤモヤします。


「今日はこれ以上お金を使うつもりありませんし、通うことも無いのでご心配なく」

「なぁんだ〜」

「全く。私に何を期待しているんです?」

「「それは……」」

「浮いた話とか?」

「お金以外にすごぉく好きなこと、野々ちゃんから聞きたいわ」

「好きなことですか……」


 この頃は、芹菜さんとイゼリアさんのおかげでお洒落やメイクが楽しくなってきてはいますが、好きと言える程ではありません。そんな私を見られるのも恥ずかしいですし。浮いた話、とは、恋愛のお話だという解釈で合っているのでしょうか。これも無いですね。


「恋愛ってそんなに楽しいものですか? お金が貯まらなくなりそうです」

「あ、漫画貸しますよ。先輩のことだから今まで全く触れてこなかったんでしょ。読めばきっと羨ましくなりますよ」


 どうでしょう。でも、新しい物に触れるのは良いことですよね。あのお2人に出会って学べたことです。


「お金に関してはその人次第ね。尽くしたい人はいろんな物をあげたいからたくさん使うかも。将来ずっと一緒にいる為に貯めなきゃって、アルバイトを頑張る人もいるでしょうし。星花の寮生だと外に出なくても一緒にいられるから、お金を使うことがないって子も多いわね」


 なるほど。節約のしようはあるのですね。まあ、私にそんな相手は現れないでしょうけど。


「イゼリアは違いました?」

「違いますよ。残念ですが、そういう話を2人にすることはないでしょうね」

「それは分からないわ」

「期待しすぎですよ。ほら、そろそろ時間では?」


 この日は強引に話を切ることに成功した私ですが、後日、2人以外にも面白がった他の部員にいろいろな恋愛漫画についてプレゼンされ押し付けられ、数日は重い荷物を持って寮へと戻る羽目になりました。はぁ。

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