光の雨は、しとしとと11
翌朝、ヘレンは舞踏場の前をうろうろしていた。中ではミグとサマンサ教頭が朝練をしているのだが、そこに入っていく勇気を持てずにいた。
ずっと仲良しだったミグと口論になってしまい、ぎこちない空気のまま日々が過ぎていた。同じ部屋なのだから謝る機会はいくらでもあったはずなのに、お互いに意固地になってしまい、むしろ謝らないミグに怒りも覚え始めていて、自分から謝れなくなっている。しかし、だからと言って友達を心配していないわけではない。その葛藤をなんとかしたいから早朝から練習場所に出向いてみたものの、顔を合わせる勇気を持てないでいる。
そうこうしていると、扉の向こうから話し声が聞こえてきた。慌てて近くの木陰に隠れる。
しばらくして舞踏場からミグとサマンサ教頭が出てきた。こちらに背中を向けて歩いていく二人は、練習を振り返っているのか身振り手振りを交えながら意見交換をしているように見えた。ミグの練習着が汗で肌にはりついており、夜明け前からぶっ続けで踊り続けていたのがうかがえた。
『ありがとうございました』
ミグの元気な声。サマンサ教頭が優しくうなずき、何かを言ったようだが距離があって聞き取れない。ミグの背中が大浴場へと消えていくのを待ってからヘレンは木陰から出て小走りで教頭を追いかけた。
「おはようございます。サマンサ教頭」
声をかけると、欠伸をかみ殺していた教頭が目を見開いて振り向いた。眠たいのか、瞳には涙が浮かんでいる。
無理もない。舞姫学校『ノノル』全生徒の舞踊をたった一人で指導していて多忙な彼女が、夜遅くまでミグの練習に付き合っているだけでなく、こうして朝練にも付き合っているのだから。それにしても驚いて言葉が出ないのか、あいさつが返ってこない。
「ミグのためにありがとうございます。朝から晩まで大変ではないでしょうか?」
身体を壊しはしないかと心配になった。その気遣いに教頭は肩の力が抜けたように苦笑した。
「そうね。確かにしんどいと思う事もあるわ。だけど、楽しいの」
「楽しい?」
予期せぬ言葉に聞き返すと、サマンサは笑顔で「充実しているの」と答えた。
「それに、ミグにとっても良かったのかもしれない」
「何がですか?」
「補欠にされた事よ。――誤解しないで。悪い意味で言ったわけではないわ。ミグは今までそれほど努力しなくても舞踏大会に出場できたわ。でも、今年は違う。三姉妹が加わり、ユイナが現れた。十名の枠に安全な場所なんてないのよ。そして、貴女の言葉に触発された。ミグが言っていたわよ。『信じてもらっていたのに裏切っていた。だから期待に応えないといけない』って」
「そ、そうなんですか?」
嬉しいと思う反面、期待に応えようとする彼女に対して怒りさえ抱いていた自分を恥じた。
「それにしてもミグには驚かされたわ。あまり激しい感情を表に出さない娘だと思っていたのに情熱を秘めていた。踊りに対してもすごい集中力を発揮しているの。いったい今までどこに隠していたのかしら」
どうして教頭が不思議がるのかわからずにきょとんとした。そして、思わず笑みがこぼれた。教頭は知らないのだ。
「読書をしている時のミグの情熱と集中力は凄まじいですよ。それこそ朝が来ても、授業が始まっても気付かないくらいですから」
授業が始まっても読書を辞めないから何度も本を取り上げられている。だが、次から次へと新しい本が出てくるものだから、とある先生の本棚がミグの蔵書で埋め尽くされたとか。
教頭は笑った。
「私が気付いていなかっただけなのね」
「それは私も同じです。ミグには情熱があると知っていたのに、彼女の底力を疑っていました。ずっと近くにいたはずなのに……」
教頭の手がやさしく肩に触れた。気遣ってくれているのだろう。だが、いま大切なのはミグの事だ。
「教頭先生。ミグがこれだけ頑張っているのです。舞踏大会に出場するようにできないでしょうか」
教頭の顔が陰った。見るからに渋っている。決定を覆すのが難しいと分かっている顔だ。
「ユイナという娘は何者ですか。あれだけの実力がありながら今まで噂になっていないのが不思議なくらいです。どうして今になって現れたのですか?」
「それは……私には答えられないわ」
誰にも言えないような秘密でもあるのだろうか。だが、ユイナが何者であっても関係ない。
「教頭はあの娘の実力を知っているのですね?」
「ええ、まぁ」
「それでは、彼女が『舞踏大会に出たくない』と言っている事も知っていますか?」
「…………」
沈黙するという事は、知っているのだろう。
「出たくない人をどうして出させるのですか。手を抜く人が踊って勝てるほど舞踏大会は甘くないと思います」
「そうね……」
「今のミグなら勝てると思いますか?」
真剣な問いだった。
サマンサ教頭から見て勝ち目があるのであれば、希望はある。
「やってみないと分からないわね」
「可能性はある、という事ですね? 私、校長に直談判してきます」
「今から?」
ヘレンはうなずく。
「わかりました。私も行きます。このままではいけないと思っていたのは私も同じよ」
「だから何度言わせるのだ! ユイナは出場させる! ミグは補欠だ!」
「校長こそ何度言ったら分かるのですか! 踊りは技術だけではありません! 精神面も大事なのです! 一度でいいですから、ミグをあの黒髪と競わせてください!」
「その必要はない! すでに決まった事だ! 今さら変える事はできない」
「今さらですって!? 勝手にメンバー変更したのはどこの誰ですか! このわからずや!」
「なんだと!」
「お待ちください! 校長も、ヘレンも、一度落ち着いてください」
今にも殴りかかりそうなドルドラン校長を押しとめるようにサマンサ教頭が間に入る。
心を奮い立たせて向かった校長室だったが、怒号の応酬という不毛な結果となっていた。両者ともにらみ合い、怒りのあまりに拳を震わせている。
頑固な父親だと分かっていたつもりだが、本当の意味で分かっていなかったのだと思い知らされる。
ドルドランは、「はー、はー」と、これ見よがしなため息をつき、首を横に振った。
「今までミグには何度も機会をやった。だが、期待を裏切ってきたではないか。舞踏大会は各学校の名誉をかけた戦いだ。信用のない者を出すわけにはいかない」
似つかわしくない正論を吐かれ、言葉に詰まった。だが、ヘレンにも言い分はある。
「たしかにミグは今までの大会で期待に応えられなかったかもしれません。ですが、今のミグならきっと期待に応えてくれます。それに、合同練習に参加もしない少女に大会を任せるつもりですか? それこそ信用できないのではないですか?」
積年の怒りからか、ついつい小馬鹿にした口調になった。それがドルドランの感情を逆撫でした。
「何も知らない小娘がっ!」
激高し、両手を机に叩き付け、
「情に流されて勝負に勝てると思うな!」
「私が情で推薦すると思いますか!? 今のミグは本気です! 彼女を外したら後悔しますよ!」
「校長に向かって意見する気か! 出ていけ!」
「後悔しろ! そして禿げろ!」
吐き捨てたヘレンは部屋を出ると、口をパクパクさせる父を視界から消すようにドアを思いっきり閉めた。
ダーン! という残響音が耳から遠ざかっていく。
静けさを取り戻した廊下でヘレンは抜け殻のような気持ちで立ち尽くした。
「やってしまいました……」
落ち込むヘレンに、
「ええ、盛大にやってしまったわね」と、サマンサ教頭は苦笑いした。
「だけど困ったわね。あの様子だとますます意固地になってしまったかもしれないわ」
「すみません……」
「いや、責めているわけではないのよ。二人に圧倒されて何も出来なかった私も悪いのだから」
しかし、ドルドラン校長の説得がより困難になったのは間違いない。
「一度でいいからミグに勝負させてあげたいです。勝っても負けても、ミグの努力を無駄にしたくはありません」
「同感よ」と、サマンサはうなずく。
「でも、どうしたら良いでしょう。ミグとユイナを競わせるにしても、ユイナにその気がないのでは勝負が成り立ちません。そもそも、どうして彼女は舞踏大会を嫌がるのでしょうか? 踊ることが嫌いなわけではないと思うのですが……」
そうでなければ、舞踏場裏で見た日傘の剣舞は何だったのか。
サマンサ教頭はうなずく。
「踊りは、好きなはずよ」
その声は小さかったが、まるで自分に言い聞かせるかのように力がこもっていた。
「それならどうしてですか。踊りが好きなら、ロートニア舞踏大会に出場して、各校代表の舞姫を見てみたいとは思わないのでしょうか。大会には個性豊かな踊り子が集まります。彼女達に出会う事で見識も広がります。自分を磨く機会を棒に振るなんて、私には考えられません。彼女はいったい何を考えているのでしょうか」
理解できない苛立ちからか、つい詰問口調になってしまう。
サマンサ教頭も悩んでいるのか、眉間にしわを寄せた。
「友達と離れ離れなのが辛いのかもしれないわね」
「友達? いるのですか?」
「え? えぇ、まあ……」
驚いた。社交的ではないし、いつも独りなので友達の存在を考えもしなかった。
「友達……」
つぶやいて、ミグやシーマの顔が浮かんだ。ヘレン自身も内向的だが、踊りを通して二人と仲良くなった。自分には一緒に踊る仲間がいるのだ。それならユイナはどうか……。
「ユイナにも、一緒に踊れる仲間がいると良いのでしょうか?」
教頭がハッとしたような顔をした。
「それは、良いかもしれないわね。一人で踊るよりも、誰かと一緒の方が前向きになれるわ」
「ですよね? 彼女にも仲間ができたらいいんですよ」
なんだか自信がわいてきた。
「だとしたら、ユイナと一緒に踊ってくれる人を探さないといけませんね。できれば踊りが好きな人で年齢的にも近い人が良いのですが……」
そんな都合の良い人がいるのかと考え、
「「あ」」教頭と声が重なった
心当たりがあった。
「いるわね。適任な人たちが」
教頭も同じ考えのようだ。
と、言うより、舞姫学校『ノノル』において彼女達以外に合致する人はいないだろう。
カラーンラーン、カラーンラーン。
朝食を知らせる鐘が鳴った。しばらくして寮から日傘をさした生徒達が出てくる。
「私、さっそく声をかけてみます」
「わかりました。頼みましたよ」
舞踏大会まではあと一か月あるかもしれないが、練習期間を考えるとすぐにでも動かないと間に合わなくなってしまう。
教頭と別れたヘレンは三姉妹を見つけるために食堂へと向かった。食堂にはすでに生徒達が入っており、幾人かは食卓について朝食を始めていた。
スープや焼きたてパンの香りにお腹が空いてきたと思いながらも、ぞろぞろと入ってくる生徒や、食事中の生徒を見て回った。が、どこにもいない。
周囲の生徒達は、食事もとらずにうろつくヘレンを不思議そうに見ている。
しびれを切らしたヘレンは、三姉妹の同級生と思われる少女達に声をかけた。
「カノン、シノン、セノンを知らないかしら」
先輩から声をかけられた少女達はかしこまった顔をして答えた。
「この時間帯は、寝ていると思います」
「寝ている?」
「あの三人、朝食を取らないんです」
「そう……」
朝の食事は当たり前の行為だと思っていたが、三姉妹にとっては違うようだ。
食堂で待っていても無意味だとわかったヘレンの行動は早かった。食堂を出ると、学生寮へと足を向けた。今から寮に行くとなると朝食は諦めるしかないだろう。だが、背に腹は代えられない。ミグとユイナを競わせるためなら朝食の一つぐらいは抜いても構わない。
「ここね」
寮の廊下を歩きながら部屋の表札を見ていたヘレンは、三姉妹の部屋を見つけた。名前に間違いがないか確認し、コンコンコン、とノックする。
「………………」
コンコンコン。
「………………」
ガチャリ、と隣室のドアが開いて少女達が出てきた。ヘレンと目を合わせた少女が、部屋の表札とヘレンを交互に見て察してくれた。
「あの姉妹ならどこかへ行きましたよ」
「どこに行ったか知らないかしら?」
「それは、わかりません」
「スゥ。行こうよ。朝食終わっちゃうよ」
友達に呼ばれ、少女は頭を下げる。
「すみません。失礼いたします」
「いえ、ありがとう」
小走りで去っていく少女達の背中を見送った。
今から食堂へ駆け込んで食べ物を口に掻き込めば一限目の授業に間に合うかもしれないが、そんな気分にはなれなかった。仮にも舞姫を目指す淑女の行いではない。
「まったく、どこにいるのよ」
三姉妹が悪いわけではないが、思い通りにいかない現実に腹が立ってきた。
「こうなったら教室の前で待ち構えてやるわ」
自室に戻って教科書を用意したヘレンは、校舎へ行き、舞姫候補生一年一組の教室前廊下で待つことにした。
候補生の第一学年には、結婚を許される十四歳を迎える少女達が属している。だが、廊下を歩く少女達を見ていると、まだまだ幼さを残す者も多い。もちろん、ヘレンも三年前にはこの廊下を当然のように歩いていたわけだが、ヘレンの長身と、制服袖にある上級生の印は明らかに浮いていた。
廊下の隅から目を光らせる上級生に、一年生はそわそわしながら前を通り過ぎていくが、奇異の視線を向けられるヘレンもまた心が削られる思いだった。だというのに、三姉妹が現れる様子はなく、時間ばかりが過ぎていく。このままでは一限目の授業が始まってしまう。教室を間違えたのだろうか、とも思ったが、間違えていたとしても一年生は一組と二組しかなく、見逃すとも思えない。
しびれを切らして手近の一年生を呼び止めた。
「カノン、シノン、セノンの三姉妹はこの教室で良かったわよね?」
「はぁ、はい、そうですけど……たぶん、来ないと思いますよ」
「?」
「あの三姉妹はこの教室にほとんど来ませんから」
「どうしてなのよ! 舞姫候補生は舞踊と教養を身に着けるのが本分でしょ」
思い通りにならない現実に怒鳴ってしまった。
ミグと仲直りできず、暴走する父に振り回され、挙句には三姉妹にまで翻弄された気分だ。
我慢も限界に来ていた。
こうなれば意地だ。授業をさぼってでも三姉妹を見つけ出してやる。
「見つけた――」
寮近くの屋外に三姉妹はいた。長女カレンと、次女シノンが用水路近くの長椅子に日傘を差して座り、三女セノンは少し離れた木陰で読書をしている。周囲に他の生徒はいない。授業中なのだから当然だ。
橋を渡って近付いていくと、サイドテールにした次女のシノンが顔を上げた。
「ヘレン様、こんな時間にどうしたのですか?」
長椅子から立ち上がったカノンが声をかけてくる。シノンとセノンも立ち上がり、視線を向けてくる。
「こんな時間……いいえ、そんな事はどうでもいいわ。あなた達に頼みがあって来たの。聞いてもらえるかしら」
「それは、内容によりますね」
カノンは上級生を前にしても落ち着いていた。次女と三女をまとめているだけの事はある。
「黒髪の少女については知っているわね?」
同学年で入学初日から有名になった人物だ。知らないわけがない。
「ええ、ユイナの事ですね。もちろん知っていますよ。彼女がどうかしましたか?」
「あなた達が良ければ、ユイナの友達になって欲しいの」
「どうして私達がユイナの友達にならないといけないのですか?」
不服とでも言いたげだ。やはり一筋縄ではいきそうにない。
「あの娘の踊りを見た事があるかしら」
「はい、舞踊の授業で見ました」
「どう思った? 率直な意見を聞かせて」
カノンは当時を思い出すように黙った。
「正確な踊りをする娘だと思いました。教頭の踊りを細かな部分まで再現していました。私達以外でそんな芸当ができるのを初めて見ました」
「そう」
三姉妹の目から見てもユイナは稀有な存在なのだ。
「ただ、それだけです。それ以外は感じませんでした」
「心を揺さぶられなかった?」
「そうですね。誰かのマネが出来たところで面白味もないでしょう」
ヘレンはうなずいた。
ユイナは淡々と踊っただけなのだろう。真剣さが伝わってこない踊りに人の心を動かす力はない。だが、
「ユイナの剣舞は見た事があるかしら」
「剣? 戦場で使う武器の?」
「そうよ」
「そんな物騒な物、この舞姫学校にはありませんよ。男達の魔術学校にはあるかもしれませんが」
「確かに剣はないわ。だけど、ユイナは日傘を剣のように扱っていたわ」
「日傘を?」
三姉妹はどんな想像をしたのかわからないが、三人とも同じ顔でくすりと笑った。
「日傘を剣に見立てるだなんて――」
「あなた達も見ればわかるわ」
ヘレンは真剣な顔で言った。
「凄まじかったのよ。震えるぐらいに」
「…………」
カノンはシノン、セノンと視線を交わした。にわかには信じられないようだった。見ていないのだから当然だ。しかし、ヘレンの真剣さは伝わったようだ。
「ヘレン様がそこまで言うのならユイナにはそれだけの力があるのでしょう。しかし、それと私達が彼女の友達になる事に何かつながりがあるのですか?」
「あるわ」言い切った。
「ユイナは今、友人と離れ離れになって孤立している。学校で誰かと一緒にいるところを見た事がないでしょ。そのせいで舞踊に対して前向きになれていないと思うの」
「確かに孤立していますね。しかし、孤立が舞踊に影響を与えますか?」
「それなら聞くけど、貴女は、シノンやセノンがいなくなっても同じ事が言えるかしら?」
「…………」
今まで落ち着いていた瞳の奥に、一瞬、敵意のような光がちらついた。だが、すぐに瞳で蓋でもするように見えなくなる。
「確かに、一人は気持ちが良いとはいえませんね。だから私達がユイナと友達になることで、彼女の本気を引き出させると」
「そうよ。友達になってもらえるかしら?」
カノンは、妹たちと視線を交わした。そしてヘレンへと向き直り、うなずく。
「やってみますよ。本当にヘレン様を脅かせるだけの踊り子なら興味はあります。ただ、一つ疑問があります。他人のためにどうしてそこまでするのですか?」
「ユイナのためではないわ。ミグのためよ。ユイナが現れたせいでミグは補欠にされてしまった。でも、ユイナは選考会で踊っていない。校長が独断で決めた事よ。私はそれをあるべき姿に戻したいの。ミグとユイナが競い合う場を設けて、勝った人が舞踏大会に出場する。そういう形にしたいの。でも、ユイナにやる気がないのでは意味がない。本気のユイナと、本気のミグがぶつかって勝敗を決めなければ意味がないの」
「なるほど。分かりました。しかし、他人の心配ばかりしている場合ですか?」
「他人? 違うわ、友人よ。頑張っている友人が大会に出場して欲しい。それだけよ」
「違います。私が言っているのはヘレン様です」
「私?」
「舞踏大会でヘレン様がするはずの独舞、ユイナにやらせるつもりですよ。貴女のお父様は」
ヘレンは目を見開いて三姉妹を凝視した。
「何ですって? 独舞を、ユイナに……?」
「シノンが聞いております」
カノンの言葉に、次女のシノンがうなずく。情報屋で知られる彼女が言うのだから、おそらく間違いないのだろう。
「そんな……」
驚きのあまり声がかすれた。
独舞とは、一人でする舞踊だ。そして、ロートニア舞踏大会において、舞姫学校で最も優れた舞姫が代表して行う演舞でもある。演者の決定は各学校で様々だが、舞姫学校『ノノル』においては、選考会で一位を取った者がするとされてきた。そして、今回の選考会においてヘレンが勝ち取ったものだ。
それなのに、校長の権力で今までの決まりさえも覆すというのか。
ヘレンの怒りは頂点に達した。強張った肩は震え、瞬きさえも忘れていた。




