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深炎の舞姫2  作者: 鳴砂
第二章
51/88

一花と呼ばれた舞姫学校へ27

 

 ***


 いつもの酒場で男達は暇をつぶしていた。

 最近は女も警戒して集団で行動するようになったので手が出しにくくなっていた。仕方なく酒を呑みながらカードに興じていた。勝負は白熱し、テーブルにはチップが積み上がっている。総取りする事ができれば、数日は贅沢な暮らしができる。


「今日の俺はついてるかもな。上乗せするぜ」


 髭もじゃの男が手元にあったチップを押し出した。


「あ? またかよ」


 苛立たしく言った男は、チップの山と手札を見比べて舌打ちした。


「くそ、やってられるか。俺は降りるぜ」

「俺もだ」


 机上にカードの束が投げ出される。


 二人が降りた中、ザムザは無言のまま真向いに座る髭もじゃの男を見ていた。いや、観察していた。

 人には癖というものがある。咄嗟の判断を迫られた時、緊張している時、疲労などで思考力が鈍っている時、そして、油断している時、人は自分でも気づかないような行動をしている事がある。たとえば剣を速く振ろうとする時、剣を握り直す癖。踏み込みは、必ず右足からくる癖。

 その癖を見抜く事で窮地を脱せる事もあれば有利に立てる事もある。ザムザはそうやって戦場を潜り抜けてきた。特に、一騎打ちでは負けた事がない。そして今、違和感を覚えていた。

 勝てそうな時は必ず舌なめずりをする男が、今回はしていなかった。


(こいつ、嘘をついていやがるな)


 最終ゲームを勝ちで終わらすために芝居を打っているに違いなかった。証拠に、続行して机の上に積んだカードへ手を伸ばそうとすると、相手は止めにかかってきた。


「おいおい、そこで引いていいのか。どんどん悪くなるだけだぜ」

「さぁな。だが、ここで降りてしまうとお前が勝者のままで終わってしまうだろ。だから、引くんだよ」


 そう言って二枚のカードを交換した後、薄く笑った。

 剣の絵札が三枚そろった。手の強さで言えば中の上ぐらいか。悪くない手だが大金をかけられるほどの手ではない。

 だが……。

 ザムザの薄笑いに、髭面の男が動揺した。


「な、なに笑ってんだよ」

「いま、掛け金を二倍にしようか考えているところだ」


 ザムザはもう一度相手を見た。強がりの笑みが消えていた。その様子を見て勝負に出た。


「しょうがない。全部賭けてやるよ」


 ザムザは手元にあった金をすべて押し出した。


「正気か?」


 すでに脱落している男達が目を見開いた。

 ザムザは何も答えない。その代わり、カードを手に硬直している男を見据えた。


「お前はカードを引かなくていいのか?」

「ひ、引くに決まってるだろ」


 男は恐る恐る山札からカードを引いた。手札を見詰める顔色は悪い。


「さぁ、勝負といこうじゃないか。俺は剣の三つ揃い。これより強い手があるんだろ?」

「おいおい、自信満々でその程度かよ」

「その程度かどうかは結果を見てから言えよ」


 ザムザが不敵に笑うと、髭もじゃの男は口を歪ませ、カードを机に叩きつけた。


「クソッ」


 叩きつけられたカードを見て、両脇の男達が目をむいた。


「なんだ!? ただの単揃いじゃねーか! 芝居を打ちやがったな!」

「俺の勝ちだ。てめぇが稼いだ分、全部もらってくぜ」


 掛け金を上から押さえつけ、手元に引き寄せる。周囲の男達が口々に「くそ」とか「おもしろくねぇ」とか不満をもらしている時だった。酒屋の戸が開かれ、棍棒を背にした男が入ってきた。


「ここに居たか。遊びながら金をもらえるとはいいご身分だな」

「あ?」と振り向いたザムザは、戸口からの光に目を細めて男の顔を見た。

「なんだ、オドじゃないか」


 昔からの傭兵仲間だった。ヘリオン鉱山が閉まる前は密売の協力もしていたが、廃れた今となってはすっかり疎遠になっていた。


「何しに来た。てめぇは王都で旨い仕事にありついていたんじゃねーのかよ」


 武器や麻薬の密売組織で用心棒をしているはずだったが……。


「仕事がなくなった」

「はぁ?」

「主人が怪物に殺されたもんだから、暇になった」

「怪物? 何だそれは」

「巨大な狼だ。たぶん、俺の背丈ぐらいある」


 聞いた男達は、一様にオドの背丈を見上げながら呆気にとられた。


「バカバカしい。そんな狼、見たことないぞ。目でもおかしくなったか?」

「俺は本気だ。逆に聞くが、俺が人間と狼を見間違えると思うか?」

「………」


 男達は難しい顔をして黙った。にわかには信じられないが、どんなに薄暗がりでも人間と獣を見間違えるとも考えにくい。


「だがよ、あの用意周到な男がどこで襲われるってんだ。屋敷から出るなら用心棒を何人も連れて行くだろ」

「襲われたのは屋敷の中だ」

「……、はぁ? じゃあ、門でも開いていたか?」

「それとも誰かが中に手引きしたとか? 恨みもだいぶ買ってたんだろ?」

「否定はしないが、奴が入ってきたのは門からじゃない。塀を跳び越えてきたんだ」

「塀と言うと、あの三階の天井ぐらいはある塀をか?」


 あり得ないと首を振ったが、オドは真顔で「そのまさかだ」と答えた。


「塀を越えて屋根から屋根に跳び移り、寝室に侵入された」


 男達は黙っていた。

 ザムザも真偽を確かめかねていたが、それよりも別の疑問が生じた。


「お前の話だと、その怪物は最初から殺す相手を決めていたように聞こえるが、気のせいか?」

「ザムザの言う通りだ。獣がそんな事を考えるわけがねぇ」

「それはこっちが知りたいぐらいだ。だが、現実に見たんだから信じるしかないだろ。それに、密売には協力者だとか仲介人もいたんだが、どうやらそっちも姿が見当たらないらしい。計画的に殺されたんじゃないかって話だ」

「馬鹿な、得体のしれない怪物が獲物を決めて殺してるって言いたいのか」


 周りは信じようとしないが、オドは真顔だ。

 事の異常さに戦慄が走った。


「ふざけてる」と、一人が笑い飛ばした。

「まったくだ」と他の男達も続く。

「しかし、いつか殺されるとは思っていたが、まさか獣に殺られるとはな。物騒な世の中だ」


 男達がそうやって話を締めくくろうとする中、ザムザには気になる事があった。


「一つ聞くが、お前は狙われてないよな」

「なに?」オドが眉間にシワを寄せて聞き返した。

「お前が狙われていたら、お前と話をしている俺達まで狙われないかって話だ」

「なめるな。追手の確認ぐらいはしている。たとえ襲ってきたとしても、返り討ちにしてやるがな」

「そうか。それならいい」

「何がそれならいいだ」


 オドは不機嫌丸出しの顔になった。だがすぐに何かを思い出したのか口を開いた。


「そうだ。噂で聞いたが海賊に村を潰されたんだってな。海上警備隊とか大層な名前をつけられて胡坐(あぐら)をかいているうちに、腕が鈍ったんじゃないか?」

「あァ!? もう一度言ってみろよ」

「やめとけって。売り言葉に買い言葉だ」

「そうだぜ、ひっく、本当のこと知らないやつには、言わせときゃ、いいんだよ」


 別席で呑んだくれていた男がしゃっくりしながら口を挟んできた。


「本当の事? どういう意味だ」

「知りてぇか?」


 もったいぶる呑んだくれをザムザは睨みつけた。


「黙っとけ」


 凄みを利かせてそれ以上の発言を止めさせる。

 それから奥の方を振り返ったが、酒場の店主はどこかに行っているのか姿が見えなかった。


「何だ? 隠し事か?」

「てめぇには関係ねぇ。それより、王都で銀髪の女を見なかったか」

「銀髪の女?」

「ああ。噂でも何でもいい、知っているなら教えてくれ」

「それは俺も聞きてぇな」


 近くの席で酒を飲んでいたジバも興味を示した。

 銀髪美女と出会ったのはジバとザムザの二人だけだった。

 流れるような白銀の髪。凛とした美貌。すらりとした肢体でありがなら服を押し上げる胸と尻の豊かなふくらみを思い出さずにはいられなかった。いや、思い出すと同時に素っ気なくかわされた事への怒りと、それを超える劣情が膨らんできた。


 平民とはいえあれだけの上玉なら貴族の情婦になっていてもおかしくはない。だとすれば、あの女は王都に向かったと考えた方がいい。あれだけの美人で髪も目立つなら、王都でも噂になっているはずだ。

 だが、予想に反してオドの反応はあっさりしていた。


「銀髪は見た事ないな。どこの生まれだ? そんな珍しい女がいるなら話題に出てくるはずだが」

「いるらしいぜ」横から仲間が割り込んだ。

「しかもすごい別嬪らしい。俺たちは見た事ないがな」


 狼の怪物と同じで胡散臭いとでも言いたいのだろう。

 けなし合いの空気だった。一端はザムザにも責任があるのだが、自分が矢面に立たされると不愉快だった。


興醒(きょうざ)めだ」


 ザムザはカードを放り投げた。


「ジバ、行こうぜ」

「ああ」


 相棒を連れて席を立つ。


「おいおい、勝ち逃げすんのかよ」


 怒鳴ってくる男を尻目に手を振った。


「ほっとけよ。それより俺も混ぜろ」


 オドの声を背中で聞きながら酒場を後にした。


「あの女、どこに行きやがった。王都にいると思っていたのによ」


 ジバが手の平に拳を叩きつけ、憎々しげに言った。


「くそ、こんなにむしゃくしゃするぐらいだったら、後をつけて襲っておけば良かったぜ。他の女もなかなか楽しめそうだったしよ」

「まぁな」


 ザムザは適当に相槌を打った。ジバの愚痴は聞き飽きていた。だが、それを辞めろと言わないのは同じ気持ちだからだ。


 銀髪の女と出会ったあの日から、いつか手籠めにしてやろうと目を光らせていた。暇があれば港町をぶらぶらとして探索し、聞き込みも行った。

 だが、どこにも姿はなく、聞き込みも非協力的な住人のせいで成果は皆無だった。広場にいたラッチェ売りの男を脅してみたが、銀髪の女とはあれ以来会っていないと首を振った。軽く痛めつけてやったが答えは変わらなかった。

 港町を離れ、鉱山近くの宿泊街にまで足を伸ばした事もあった。ヘリオンが採掘されていた頃は出稼ぎ労働者で賑わっていた街も、閉山とともにすっかり寂れ、空き家だらけだった。唯一営業していた宿の中年夫婦に期待したが知らないと答えた。

 消去法で王都に行ったと思っていたのだが、先程の話でそれも疑わしくなってしまった。


 二人は街を出て港へ向かった。

 別に潮風に当たりたいわけでも、散策したいわけでもなかった。ただ、そこには銀髪の手がかりが残されていた。

 三週間前、女を探し始めて気になったのが、女がどこから何の目的で来たのかという事だった。

 髪の色からしてロートニアの出身ではない事は明らかだった。


 人は生まれた大陸によって髪の色が変わると言われている。ヴィヴィドニア大陸に生まれたなら青色、ウィンスター大陸なら金色、他にもアドラー大陸なら紫といった具合だ。ザムザ自身、ヴィヴィドニア大陸の出身で髪は青い。傭兵として他の大陸も渡った事があるが、確かに大陸によって髪の色は違っていた。だが、銀髪は見た事がなかった。世の中には他にも多くの髪色があるので、銀髪の人間が生まれる大陸もあるのだろう。


 銀髪は別大陸の女だ。そして、別大陸からノノルの港町を訪れるとしたら、長く険しい陸路からではなく、海からの可能性が高かった。入港記録を調べると、銀髪と会った頃に二隻の船が入港していた。一隻は、舞姫学校『ノノル』に物資を卸している馴染みの商船だった。だが、もう一隻は通りすがりの貿易船で、寄港の目的は船舶修理となっていた。他は何もない。貿易船なのに商品の積み下ろしをしていなかったのだ。それがどうにも引っかかった。

 海を渡るには金がかかる。船がいるし、それを動かす労力・命をつなぐ食糧・迷わず海を渡る知識と技術を兼ね備えた人材が必要になってくる。もちろん、嵐や海賊に襲われて命を落とす危険もあるだろう。それらを乗り越えて利益を出さなければ商売はやっていけない。

 なのに、その貿易船が利益を追求していない事が怪しかった。

 記録係りの男を問い詰めると、案の定、その船に女子供が乗っていたらしい。ついでに行き先や目的を聞いているのではないかと思ったがそこまでは掴めなかった。


 ザムザとジバは港を横切り、修理工場へと向かった。半開きになった扉から中の様子を覗くと、海賊船の体当たりを食らって半壊していた左側はほぼ修理が終わっていた。今は船べりを補強している所だ。人手が少なく、完成にはもうしばらく時間がかかりそうだ。その中に女子供の姿は見当たらない。

 話し声が近づいてきたので扉から離れると、工場から屈強な男が二人外に出てきた。髪の色は灰色。あの女の周辺にいた子供と同じ色だった。おそらく出身大陸は同じだろう。その男達が不審そうにこちらを見た。その眼光は鋭く、油断がなかった。

 海賊と一戦交え、死者を出さなかったという噂も耳にしていた。下手に嗅ぎまわって争いになれば無傷では済まないだろう。そういえば、銀髪女にも護衛の男がいた。あの時、距離があったのでジバは気付いていなかったが、手投げ用のナイフで狙いを定められていた。もしも女に手を出していたら死角から攻撃されていたかもしれない。

 ザムザ達は通りすがりを装い、工場に背を向けて歩き出した。


「あの女、ここに戻ってくると思うか?」


 角を曲がって男達が見えなくなった所でジバが聞いてきた。


「さあな、それが分かれば苦労はしない」

「案外、近くにいるんじゃないか? 船の修理を待つなら遠くにいるのはおかしいだろ」


 否定はできなかった。捜索と言っても街中をぶらぶらしただけだし、家探しをしたわけでもない。もしかすると目の届かない二階に身を潜めており、見逃しているだけかもしれないのだ。


「近くでも遠くでも、戻ってくるとしたら修理が終わる頃だろう」

「だとすれば、もうしばらくか。逃がさないように見張っておかないとな」


 ジバとザムザは現状を確認するだけで特に収穫がないまま街へと戻ってきた。

 酒場に戻る気にはなれなかったので、商業区に立ち寄り、最近の日課となっている女探しをする事にした。

 食材を販売する商業街にはそれなりに人通りがあった。夕飯の食材を求める青髪の女達が集まり、よほど大事件でもあったのかのような顔で真剣にしゃべっている。が、ザムザ達の姿を見ると声を潜めて道端へと避けていった。

 避ける女達の中には胸や尻を触った覚えのある女もいたが、眼中にない年増まで身を守ろうとする姿は滑稽だった。いや、中には熟女を好む奴もいたか。だが、ジバとザムザにそっちの気はなかった。


「おい、ここで待っててくれ。しょんべん行ってくる」


 ジバが我慢できないように言った。


「俺も行く」


 二人は誰もいない薄暗い路地に入り、壁に向かって立った。


『あっ、ドロシー! いいところに来てくれたわ』

『どうしたの?』

『聞いたわよ! 宿に貴族が来たんですって?』


 どこからか聞こえてくる声に顔を上げ、塀の向こうにある建物に目を向けた。


『あら、もう聞いてしまったの?』

『そうよ! だって町中で噂になってるんだもの』

『噂は本当なの? 平民の娘が舞姫学校に行くって』

『そうなのよ。制服を作るために仕立て屋が来たりで大忙しだったわ』

『『キャー、凄いわ!』』


 中年女のはしゃぎ声が開かれた窓から聞こえてきた。


「(うるせぇババァだ)」


 ジバは用を足しながら悪態をついた。


『それで、どうして平民の子が貴族の学校に? どんな娘なの?』

『知ってるわ。黒髪の娘でしょ? 踊りが凄いって噂になってるわよ』

『ちょっとー、これから話を聞くのに先にしゃべらないで』


(……黒髪?)


 聞き流しかけた言葉がザムザの耳に引っかかった。

 捕まえたいのは銀髪の女だが、黒髪にも心当たりがあった。


(まさか、銀髪の女と一緒にいた小娘……)


 間違いないと思えた。黒い髪はあの娘しか見た事がない。声をかけただけで異常なまでに怯えていた。線が細く、異国情緒をまとった少女は、これから先、美人になりそうな気配があった。その黒髪が近所に住んでいるらしい。だとすれば銀髪もそこにいる可能性が高かった。

 もし一緒にいるのなら、二人を連れ帰って遊んでやるのも一興だろう。

 手籠めにする女達のあられもない姿を想像するだけで口元が吊り上がった。

 その横でジバが気味悪そうな顔をした。


「なにを笑ってやがる」


 これが笑わずにいられるか。


「銀髪の居場所がわかるかもしれねぇ」


 ジバは呆気にとられた顔をしていたが、「本当か!?」と聞き返した。


「声がでかい」


 ザムザは声を潜めるように言い、黒髪少女の話をした。ジバも覚えていたらしく、込み上げる笑いを抑えられないようだった。

 ジバとザムザは、女の長話が終わるのをじっと待った。


 しばらくして建物からドロシーと呼ばれていた中年女が出てきた。丸い体格に青い髪……どこかで見たような、どこにでもいるような、そんな女だった。女は食材の入った買い物袋を片手に歩いて行く。路地裏のザムザ達は、その後をこっそりとつけていった。

 女は住宅街を歩いていた。どこかの建物に入るかと思っていたが、そのまま通り過ぎ、街すらも抜けて海岸沿いの車道を上がっていく。車道の周りには身を隠せるような建造物や木々もなかったので、かなり離れた所から草むらに隠れるようにして尾行した。


「どこまで行く気だ」

「そう遠くはないだろう」


 そんな言葉を交わしていると、一つ目の丘を上がり切った所で女が道を曲がり、宿泊街に入った。いや、宿泊街とは名ばかりの、ヘリオン鉱山の閉山とともに寂れた村だった。

 ザムザ達は見失わないように車道を駆け上がり、建物の陰に身を寄せ、通りに顔を出した。女は村の通りを直進していた。そうかと思うと道を左に折れていった。

 ザムザ達は表通りに出ると、足音に注意して走った。そして、女が消えていったと思われる横道の前で立ち止まった。

 植木の陰からそっと通りをのぞくと、女の姿はなかった。どこか別の道に入ったか、もしくは、どこかの宿に入ったか……。そう思って近くの宿に目を向けると、二階の窓に子供が横切るのが見えた。それは一瞬の出来事だったが、このロートニアでは珍しい灰色の髪はザムザの目にしっかりと焼き付いた。

 銀髪の連れ子に違いない。銀髪の女はこの宿に隠れている。


「どうした、見つけたのか?」


 後ろのジバが我慢できずに聞いた。ザムザは振り返って答える。


「ああ、見つけた。あの女の隠れ家はすぐそこだ」

「まじか、俺にも見せろ」


 ジバが植木の陰から通りを覗く。


「どれだ?」

「二階建ての宿だ。すぐ近くにあるだろ」

「おいおい、あの宿は一度来たことがある所じゃねぇか。あのババァ、宿には誰もいないと……騙しやがったのか。ぶっ殺してやる」

「本気で殺すなよ。殺すと後が面倒だ」


 制止するとジバが舌打ちした。


「そのくらい分かってるぜ。だが、どうやって女を捕まえる? 一気に突っ込むか? それともガキを人質にとるか?」

「そうだな。ガキを利用するのも一つだが……、とりあえす俺が見張っておくから他のやつらも連れてきてくれ」

「は? 何であいつらを連れて来なきゃいけないんだ。俺達だけで楽しもうぜ」

「用心棒がどこにいるのか気になる」

「用心棒? ああ、確かにそんな奴もいたな」

「あいつはおそらく腕が立つ。あいつをどうにかしなければ無事では済まないぞ」


 ジバは不服そうにしていたが、ザムザの眼光に圧されたようだ。


「お前の勘は当たるからな……。わかった。他の奴も連れてくる。だが、女を可愛がるのは俺が最初だぜ。それを認めるなら呼んできてやろう」


 嫌な交換条件だった。かと言って、戦力不足のまま突っ込むのは危険だし、ジバを残してしまうと先走りされる危険もあった。そういう意味では信用できない男だった。

 ザムザはため息をつく。


「あんまり殴ったり汚したりするなよ。俺の楽しみが減る」


 ジバは、ニィッと笑った。


「交渉成立だ。絶対先に手を出すなよ」


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