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深炎の舞姫2  作者: 鳴砂
第二章
42/88

一花と呼ばれた舞姫学校へ18

 

 ユイナとコルフェが沿道の脇に敷物を広げると、ルーアとミアが敷物の四つ角に重石を乗せて風で飛ばないようにした。


「さぁて、花冠を作りますか。テンマさんもこっちに来たらどうですか」


 ミアが声をかけると、テンマは首を横に振った。


「私はいい。一人で作る方が性に合っている」

「えー、つまらないの」


 不服そうなミアに、苦笑いした。


「嫌がってるのに無理に呼ぶのはかわいそうだよ。花冠を作ってくれるだけでもびっくり……十分なのに」


 ミアが強引に誘わなければ決して実現しなかっただろう……。


「それに、一人で作るほうが集中できるんじゃないかな」


 屋上で見張りをするテンマは一人でいる時間が多かったが、別に寂しくしている様子はなかった。彼にとって一人でいる時間は大切な自由時間なのだろう。その彼を舞姫学校の掃除に付き添わせたり、お花摘みを手伝わせたりしているのだから、遠慮できるところはしたほうがいいのではないだろうか。


「しょうがないな」と、ミアは引き下がり、花冠用の花を摘み始めた。

「茎を長めに摘んでね。その方が編みやすいから」

「はーい」


 春の陽気と草花の香に包まれ、ユイナ達は思い思いに花を摘んだ。時折りミアが珍しい花を見つけてはコルフェに聞いていた。

 しばらくして両手いっぱいの花を摘んだユイナ達は、敷物の場所に戻ってきて花を並べ、膝を向け合わせて座った。


「それでは、先生、お願いします」

「先生だなんて大げさな」


 手を振って謙遜したコルフェは、咳払いを一つ。


「それじゃあ、両手に一本ずつ花を持って」


 ユイナ達は言われるまま二輪の花を手にした。


「はい。持ったよ」


 返事にコルフェはうなずく。


「そうしたら、左手に持った花の茎に右手の花の茎を『×』の形に重ねて。あ、花と花の間は窮屈にならないようにしてね。少し余裕があった方が茎を通しやすくなるから」

「これくらい?」

「そうそう。それで、『×』の交叉した箇所を左指でつまんで固定したら、右側に出ている茎を巻きつけるために裏に回して、そのまま花と花の間を通して前にもってきて。そうしたら、その巻きつけた茎と、まっすぐなままの茎を重ね合わせて左指で押さえてあげて。花と花の隙間があると思うから詰めてあげてね。

 次に開いた右手で新しい花を持って、さっきと同じように左手の花の茎に右手の花を『×』の形に重ねてあげて、右手の茎をぐるりと裏から花と花の間に回してきて左手の茎と合わせるの。花と花の隙間を詰めてあげるのも忘れないで。

 同じ要領で花を巻き付けていけば花が連なっていくでしょ?」

「こんな感じ……?」


 初めて作った連花をコルフェに見せると、「上手にできてるよ。それである程度の長さができたら最後は花が外側にくるように輪にして、二本の花を巻き付けて固定して、はみ出した茎は輪に縫い込んであげたら完成だよ」


「む、むつかしいよ……」


 編み方が甘いのか、形が崩れて苦戦するルーアが早くも泣き言を吐いた。コルフェはそちらの方へ教えに行く。遠くから講習を受けていたテンマが見よう見まねで花冠を作り始めた。

 ユイナは花を傷付けないよう、丁寧に編み合わせ、鈴花の白い花を連ねていった。

 どれほどの時間が経っただろう。花の連なりが適度な長さになったので、つなぎ合わせて輪にしてみる。愛らしい鈴花の輪ができた。


 こんな感じかな?


 大きさを確認するために頭に乗せてみる。花冠はピタリとユイナの頭にはまった。


「あ、かわいい!」


 ミアが歓声をあげ、ルーアとミアが振り向いた。


「ほんとだー」

「ユイナの黒髪で白い鈴花が引き立って綺麗。大地の天女様みたい」

「い、言い過ぎだよ。そんなに褒められた髪じゃないよ」


 照れたわけではなく、謙遜でもなく、引け目から視線をそらした。花輪を頭から外して、指で黒髪をなでつける。


「えー、すごく綺麗だよ」

「違う、本当にそんな事は……」


 髪を褒められたのは初めてではない。メイドのアリエッタはユイナの髪を梳きながら『艶やか』だとか『綺麗』だとか毎朝のように褒めていた。だけど、その嬉しさが塗りつぶされるほど、ユイナの髪には嫌な記憶が詰まっていた。

 その様子にコルフェが眉をひそめる。


「もしかして、髪が黒いことを気にしてるの?」


 体で一番気にしている所を突かれ、ユイナはうつむいた。

 シルバート大陸で受け継がれてきた血筋は灰色がかった髪をしている。その髪が陽射しを浴びた時、銀色に輝くことを『銀の奇跡』と呼び、髪の透明度は容姿を計るための一つのステータスとされていた。その『銀の奇跡』と対極にいるユイナの黒髪は奇異の目を向けられる事が多かった。

 そんな視線にさらされるのが嫌で、舞姫学校『セフィル』の教室では一番後ろの席を選んだり、人通りの少ない場所を通ったりして人目につかないようにしていた。もともと口下手だし、大勢の人に囲まれるよりも独りでいる方が気楽なのでそれでも良かった。


 しかし、それは単なる思い違いだった。それに気付いたのは、舞姫学校で授業を受けていた時だ。

 その日は魔力中毒についての授業が行われていた。魔力中毒とは魔術を使用した時に発生する毒素で体が黒く変色し、精神が侵され、最悪、死に至る病気だった。戦時中、激戦となった国境付近には魔力中毒者が溢れかえり、五人に一人が命を落とすという大惨事となった。それを重く見たコルセオス王は解毒薬の開発を進めさせ、一方で、薬術についての知識を国中に広めさせた。舞姫学校で薬術の授業が必須となったのもこの頃らしい。

 それらを板書していたユイナは、ひそひそ声を耳にして手を止めた。顔を上げると、無遠慮に振り返っていた視線が逃げるように逸らされた。

 彼女達は隣同士で顔を寄せ合うとひそひそと囁き合った。聞こえるか聞こえないかの小声に『あの黒い髪』『中毒』という気になる言葉だけが聞き取れた。

 自分の事だと気付いた時、黒髪が魔力中毒を連想させ、避けられているという事に気付いてしまった。一人が気楽だから一人でいるという言い訳は、避けられているから独りぼっちなのだという現実に呑み込まれ、闇の底に落ちていくような焦燥感に襲われた。

 ユイナは教科書に視線を戻し、必死に続きを読み進めた。周囲の視線を気にしたくなかった。なにより、自分が中毒者でない事を信じ、それを証明する文章がどこかにないかとすがるような気持ちだった。


「……ぁ」


 ページをめくって走らせた視線がピタリと止まった。そこには『中毒症状は肌に現れる』と(しる)されており、焦る心に希望の光を射した。

 髪は中毒とは関係ないのではないか。

 もしそうなら潔白を証明できるような気がした。

 勇気付けられ、他にも手がかりはないかと読み進めていくと、二行下の文面に落とし穴があった。


『魔力中毒にかかった両親の間には、魔力中毒に侵された子供が生まれる可能性が高い』


 教科書を持つ手が震えた。

 ユイナの父親は、養父のガモルド男爵ではなく、血のつながった本当の父親は、気が荒く、自分の娘に対しても暴力が絶えなかった。ユイナが男性恐怖症になったのも一番の原因は父親にあったのかもしれない。そして、暴力を振るう両手が黒く変色していたのを、辛い記憶とともに思い出した。


 父親は魔力中毒者だったのだろう。そして、ユイナの髪はその毒素を受け継いで黒く変色した可能性があった。

 自分の髪に自信がなくなり、恨むようになったのはその頃からだ。髪が黒くなければ気味悪がられる事も避けられる事もなかっただろう。しかし、どんなに否定しても自分の一部なのだ。髪をむしり取るなんて考えられなかったし、おぞましくて想像したくもなかった。

 悩み続ける日々に心が押し潰されそうになった。


 そんな時にティニーと出会えたのは幸運だった。同じ舞姫学校に通う彼女もまた茶色い髪を気にしており、共通の悩みを持つ二人はお互いを支え合う友達になった。

 今でこそ、コルフェやルーアやミアなど話せる人が増えたが、それまでに接してくれたのは、ティニーの他にガモルド男爵と世話役のアリエッタ、そして、奴隷商人のところから一緒に逃げたシェスの四人ぐらいだった。他の人々は、実の母親でさえ黒髪を気味悪がった。そんな経験をしてくれば、自分の髪に自信を持てるわけがなかった。


「恥じる事はないよ」コルフェの言葉にユイナは顔を上げた。

「下手にくすんだ灰色より真っ黒のほうが潔くて綺麗だと思う。うらやましいぐらいだよ」


 その言葉をどう受け止めたらいいのか分からなくて困った顔をしていると、ミア達も首肯した。


「そうだよ。ユイナの髪は綺麗なんだから自信を持っていいと思うよ。まぁ、最初は私達も偏見を持っていて、敵の密偵だと疑っていたから偉そうな事は言えないんだけどね……。あの時はごめんね」

「いいよ。もう過ぎた事だし、たくさん謝ってもらったよ」

「でも、本当にひどい事をしていたと思う。アレスにも言われたんだ。『髪の色でその人を決めつけるな。髪の色で彼女の何かが分かるのなら、筋道を立ててちゃんと説明してみろ。それができるのか?』って」

「うん。誰も答えられなかったねー」ルーアが相槌を打つ。


 ユイナは瞬きした。


「アレスが、そんな事を……?」

「ほら、誰に対しても公正であろうとする人だから」


 考えてみれば、道理を重んじる彼が差別を見過ごすとは思えなかった。今になって振り返ってみると、アレスの前で差別を受けた記憶がなかった。彼に守られていたわけだ。そして、それを知らなかったのは守られていた本人だけ……。

 その事実が一滴のしずくとなって胸の内に落ち、波紋となって全身へと広がった。

 やさしさに包まれ、自分までやさしくなっていくような気がした。

 黒髪だからと差別をしない。偏見を持たず、ありのままを見てくれる事が嬉しかった。想い人に守られている事が何よりも嬉しかった。


 やっぱり私は……アレスが好き……。


 花冠を掲げ、輪の向こうに見える青空を見上げた。もしも本当に鈴花で作った花輪の向こうから幸せがやってくるのだとしたら、私には叶えたい願いがある。

 胸中に芽生えたのは、まばゆいばかりの光景だった。

 世界が平和になり、ガモルド男爵の所へ戻り、アレスが、私の所へやってくる……。

 そんな事を考えていると、目の前にアレスの幻影が現れた。幻影は瞳の奥をのぞきこむように近づいてくると、ユイナの体をそっと抱き締めた。

 顔を赤く染めたユイナは白昼夢の中で身動きがとれなくなった。ぐっと引き寄せる大きな指の感触に身も心も浮いていく。

 体感する時間は(さかのぼ)り、銀狼と一緒に眠った山奥での夜と重なった。彼のしっぽに包まれて眠ったあの夜。彼のにおいまで思い出せる。その夢想はあまりに本物めいていて、それでいて甘美で、ユイナはその場で硬直してしまった。


 まさか、私はこれを望んでいるの……?


「――ユイナ?」


 不意に呼ばれ、カーテンが勢いよく引かれるように白昼夢が消えた。

 目を瞬かせると現実が戻ってきた。浮遊感は消え、敷物の上に横座りする重みを感じた。アレスの感触は、鈴花の香りを乗せた風に流されてしまった。

 周囲を見回してみても、ガモルド男爵のいるシルバート大陸は大洋を隔てた遠い国だし、もちろんアレスの姿も見えない。


「ごめん、ぼんやりしてた」

「え、大丈夫? やっぱり調子悪いんじゃ……」

「ううん、考え事をしていただけだから」

「そう?」


 それにしても現実味のない夢を見たものだ。

 世界が平和になって、ガモルド男爵の所に帰ることができて、そこにアレスがやってくるなんて……。

 彼に守られていた事実を聞かされ、望みがあるように感じてしまった。

 よくよく考えてみたら、アレスが優しくしてくれるのは誰に対してもそうだからで、みんなを大切にする彼がユイナだけを好きになるなんて考えられなかった。

 それに、彼を好きなのはユイナだけではないだろう。コルフェだってそうだ。考えたくもないがメリル王女も同じ気持ちだろう。それらを無視した想像は、やはり都合のいい妄想でしかなかった。

 ましてや、彼は今、大天女の啓示を受けて沈みゆく母国を救うため、反逆者にされてまで戦っている。責任感の強い彼からすれば、使命を果たすまでは恋愛をする暇などないのかもしれない。彼の心は使命に向かっていて、ユイナと向き合うことはないのかもしれなかった。


 だとしたら、どうしたら見てもらえるの?

 使命を果たすまで?


 ユイナは考える。

 何か、私にできる事はないだろうか。

 戦う彼を応援するだけでは終われない。彼の力になりたかった。

 そこにはメリル王女から突きつけられた『お荷物』への対抗心もあった。


「ふむ、たまにはこういう手仕事に没頭するのも一興」


 テンマの独り言を耳にして顔を上げると、ミアが眉間にしわを寄せてテンマの作業を見ていた。テンマは自分の世界に入り込んでいるようで、編み込んだ茎と茎の間に花をねじ込んでいた。手近な鈴花を引き抜いては、隙間が空いたところに差し込んでいくのだが、その隙間がなくなったとみると、満足したようにうなずいた。


「よし、できたぞ。――なかなかの出来であろう?」


 差し出されたソレを見て、ミアは呆れた顔をした。


「テンマさん、それはなんですか?」

「何って、頼まれていた花冠に決まっているだろう」

「わかりました。真面目にやってください」

「な、なんだと? 私が手を抜いているとでも言うのか?」

「抜いているかどうかは知りませんけど――」


 ミアは、ユイナが作った花冠を指さした。


「ほら、ユイナは初めてでもこんなに綺麗に。見てください、花が一列に並んで、花びらだってどこも傷ついてないじゃないですか。これを花冠と呼ぶんです。テンマさんのは何ですか。お団子ですか?」


 ムッとした視線を向けられてユイナはびくりとする。


 批評したのはミアなのだけど……。


「あのー」


 ルーアが自分で作った花冠を差し出す。


「私も同じ感じになりましたー」


 慰めのつもりだろうがテンマは気難しい顔をした。その横でミアが首を横に振る。


「そんな事ないって。お姉ちゃんの方が綺麗にできてるって。ほら、こうやって束ねて花を上に向ければ一味違ったブーケみたいに!」


 花冠とは言わないようだ。

 作り直そうとしたテンマだが舌打ちを一つ、「これで十分であろう」と、投げやりに言った。


「え、途中でやめるんですか」

「嫌なら自分で作るのだな」


 歪な花冠をミアに押し付け、やれやれという顔をしていたかと思うと、不意に鋭い目つきになり、林の奥をにらんだ。


「どうしたんですか?」

「誰か来る」


 その言葉にユイナ達は腰を浮かせて振り返った。薄暗い林へと目を凝らすと、木々の向こうに怪しい人影が二つ見て取れた。服装からして男と女だろうか。頭にバンダナを巻いた男は、遠目にも力仕事で培ったような引き締まった体をしていた。女はロングスカートを持ち上げ、草木に注意しながら歩いている。


 不自然だった。

 林を歩くような服装ではないのに、わざわざ林道から外れた獣道を歩いているのだ。しかも、男は手にした“何か”で邪魔な小枝を切り落としている。その“何か”が木漏れ日を受けて鈍く光った。


「斧を持ってる」


 目の良いユイナがいち早く気付いた。


「斧?」

「焚き木を集めているの?」と、ルーア。

「それは違うだろう」


 バッサリ切り捨てたテンマだが、何をしているのかは彼にもわからないようだ。


「用心しておくか。お前達は後ろに下がっていろ」


 言われるままテンマの後ろに隠れ、林を歩く男女に視線を送る。

 向こうの男女もこちらに気付いたようで道を作りながらこちらへ歩いてきた。

 二人が林から出てきた時、ユイナは目を見開いた。ウェーブのかかった女の髪が金色混じりの茶色だったからだ。親友のティニー以外で茶色の髪を初めて見た。シルバートでは見かけない髪も、他国では普通にあるのかもしれない。


「ちょっといいかしら」茶髪の女は言った。

「何用か」


 テンマの堅い口調に、女は苦笑した。


「そんなに警戒しないで。このあたりの墓地を教えてほしいだけよ」

「墓地?」


 テンマが訝しんでいるのは声でわかった。


「彼女だと思うんだけど、(とむら)ってあげようと思って」


 言って右腕にかけたボロ布に視線を向ける。雨ざらしになっていたのか薄汚れ、破れてしまっていたが、女物の寝間着に見えた。


「林に置き去りにされていたの。おそらく噂の海賊に襲われたのでしょう。惨い有様だったわ」


 女の瞳が、男の手に握られた斧を一瞥した。もしかすると凶器はそれなのかもしれない。かなりの力が加わったのか斧の柄は半ばから折れていた。


「見つけた以上、そのままにしておくわけにはいかないでしょう。そのままにして恨まれるのも嫌だし」

「生憎だが墓地の場所は知らない。ここの住人ではないのでな」

「そう。わかったわ」


 ありがとう、と言う女の横でバンダナの男が引き結んでいた口を開いた。


「ところで、村を襲った海賊について知っている事はないか?」


 低い声と瞳の奥に燃える感情にユイナ達は身構えた。

 襲撃を目撃したという療養中のおばあさんが脳裏に浮かんできたが、誰とも知れない人に教えたものか判断に困っていると、「そんなに迫ったら怖がってしまうでしょ」と、茶髪の女が止めた。


「気にしないでね。少し気が立っているの」

「しかし、これはバロッサさんにとっても……」

「やめておきなさい。聞き込みなら街でゆっくりできるでしょ」

「……わかりました」


 バンダナの男は素直に引き下がった。

 二人がどういう関係なのか想像もできなかったが、立場は女の方が高いらしい。


「邪魔して悪かったわね」


 謝った女の視線がユイナの手元に向けられた。


「誰か婚約するの?」

「え?」ユイナは瞬きした。

「しませんけど、どうしてですか?」

「あら、そうなの? だってその花で冠を作るのは『永遠の愛』でしょ? 二人の想いが繋がって輪になり、その想いが永遠に続き、輪の向こうから幸せがやってくる」

「そうなんですか?」


 ミアは驚いていたが、目を伏せたコルフェはどうやら知っていたようだ。


「鈴花の冠は求婚とか、結婚の儀で使われるわね。基本的に男から女に贈られるものよ?」

「知らなかった」


 ミアは手にした花の塊を見詰め、それからハッとしたように顔を上げる。


「わたし、テンマさんから花冠渡された」

「馬鹿なっ。せがまれて作っただけだろう」


 突っ込むテンマ。

 その掛け合いに茶髪の女は笑った。


「いい夫婦になれそうね」

「おぬしまで!?」


 初対面の女に茶化されてテンマは面食らったようだ。

 茶髪の女はニコリとする。


「私はバロッサ。こっちはオーカ」


 名乗られたのだと気付き、ユイナは作法にのっとってお辞儀する。


「わ、私はユイナです」


 続いてコルフェ達も名乗った。テンマは黙ったままなので彼の紹介はミアがした。


「しばらく港町に滞在するから、会った時はよろしくね」


 別れ際に彼女はそう言った。

 その背中が遠くなっていくのを見送りながら、ミアがささやく。


「ギブリーさんの事を話したほうが良かったかな? 一応、目撃者だし……」

「やめておけ。無理に関わる必要もない」テンマが否定的な事を言った。

「それにあの男、海賊に対して何かある目をしていた」

「何か、って何ですか?」

「それがわからないから何かと言っている。恨み……、それとも復讐心か……」


 最後の方はほとんど独り言だった。



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