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深炎の舞姫2  作者: 鳴砂
第一章
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闇夜の賊と月夜の踊り子14

 

『みんな、少し話があるからこちらに集まってちょうだい』


 カトレアから召集がかかったのは、広場でアレスを待ちながら昼食後の時間をのんびりしている頃だった。友達と一緒に談笑していたユイナは、会話を中断してベンチから立ち上がる。カトレアは、自身が指揮する第一班の子供達と広場中央の芝生に座っていた。その後ろではノノル町の記念樹がそびえ立ち、三階建の家々に負けないくらいに枝を伸ばして青々とした葉を広げている。


「やっぱりアレかな。さっき話しかけてきた人に注意しろって」

「そうかもね」


 コルフェの言葉にうなずいたユイナは、他の子供達と一緒に広場中央へと移動し、木蔭で輪になるように座った。カトレアの召集がかかった時は円を描くように座るのが基本だ。そうする事で、みんなが対等の発言をしやすいようにしている。


「全員集まったわね」


 子供の人数を確認したカトレアが言った。


「みんなも心配していることだと思うけど、最近、このあたりで村の子供が海賊にさらわれたという話は聞いていたわね。今は海上警備隊の人達が見張ってくれているから、海賊がこの辺りに現れることはないのかもしれないけれど、それでも気をつけてちょうだい。ヨセフもエビンも、自分の班の子供をしっかりと見ていてあげて」


 その言葉に、真面目少年のヨセフと、ハンチング帽が印象的なエビンが「はい」と返事する。子供達は三つの班で六~七人に分けられており、一班はカトレアが、二班はヨセフ、そして三班はエビンが班長を務め、子供達の指示や面倒をみている。


「みんなは自分の班長の指示に従って行動して。絶対に一人にならないし、一人にもさせないこと。特にルーア、ミア、コルフェ、それにユイナ。あなた達は年頃の女の子だから、特に気をつけなさい。先ほどのように、海賊からまもってくれるはずの海上警備隊から誘いを受けることもあると思うわ。そういった誘いはうまく断ること。彼らは金で雇われた傭兵だと言っていたわね。あなた達に偏見を与えるのはよくないと思うけど、傭兵は報酬で兵士になることを約束した人よ。報酬次第では平気で裏切る事もある。そういった人はあなた達のこともお金で買えると思っているかもしれない。もし、相手が強引にくるようだったら、大きな声で助けを呼ぶこと」


 固唾を呑んでうなずいていると、彼女がふと、視線を横に向ける。その仕草につられて視線の先に首を巡らすと、広場の向こうから青い髪の青年が近付いてくるところだった。


「あ、ザイが戻ってきた」


 ザイは怪訝な顔をして近付いてくる。


「何かあったのか?」


 どうやら円陣を組んでいたことに疑問をもったらしく、聞いてきた。


「海賊が子供さらいをしていると聞いたから、集団で行動することを確認していたの。それと、海上警備隊の人に声をかけられてもついていかないように話をしていたところよ」

「まぁ、確かにあいつらは海賊に対抗するために寄せ集めた傭兵だからな」


 ザイは溜息でもつくように言う。まるで知っているような口ぶりだった。


「ザイさんはひょっとして、このあたりの生まれなんですか?」

「どうしてそう思う?」眉を片方だけ上げて怪訝な顔をされた。

「海賊のこととか、ロートニア海上警備隊のこととか、町の広場に露店が出ている事も知っていましたし、それに、貿易の町でいろんな髪の人がいますけど、ザイさんと同じ青い髪の人が多いので……」


 シルバート大陸の民は灰色の髪が多いように、ロートニアは青い髪の人が多いようだ。ラッチェをくれた店主も頭にバンダナを巻いていてわかりにくかったが、青い髪をしている。広場を歩く人々も青い髪が多い。

 ザイは顔を逸らして少し考えていたが、諦めたように向き直る。


「ユイナの推測通りだ。隠すことでもないから言うが、俺の出身地は、このロートニアだ」

「へぇ~、家はどこにあるのー?」


 子供達が無邪気に反応して話に入ってくる。


「もう少し内陸に進んだ鉱山の麓だ」

「それじゃあ、そこに行ったらザイの家族に会えるんだ」

「………」


 返事がないと思って振り向くと、ザイの顔が険しくなっていた。どんな状況でも冗談を言って本心を表に出そうとしない彼の、とうとつに現れた嫌悪の表情に、ユイナは目を疑った。みんなも困惑を隠しきれないようだった。


「ザイ?」

「やめとけ」

「え?」

「俺の家に行くのはやめとけ」


 心配する仲間に、ザイは拒絶の言葉を吐いた。そして、そんな自分にさえ嫌悪を感じているように眉をしかめると、「どうせ行っても廃屋になっているだけだ。それとも他の誰かが住んでいるか、取り壊されているだけだ」と、家に近付きたくないのか、そう言った。


「もしかして、ザイさんも戦争で家族を失ったんですか」


 聞いてみると、子供達が悲しそうな顔で彼を見詰める。


「そうなんですか……?」


 アレスに拾われた子供達は戦争で家族を失った孤児も多い。家族を失う悲しみは彼らもよく知っている。彼らにとって家族とは、二度と触れることも話す事もできない、ただ、いつまでも年をとらずに笑いかけてくれる心の住人なのだ。

 だが、ザイは鼻で笑いながら首を横にふった。


「あいつらはどこかでのうのうと生きているだろうよ」


 彼の言葉には両親への憎しみと、あざけりがふくまれているように聞こえた。それだけに家族との思い出を胸にしまう子供達にはショックだったようだ。彼らの純粋無垢な瞳が、まじまじとザイを見詰めている。空気が悪いのを、ユイナは感じた。


「いったい、何があったんですか。よろしければ、聞かせてもらえませんか」


 ザイはもう一度首を振る。


「悪いが、おもしろい話じゃないんだ。そんな話、聞きたくないだろ」


 それは相手への気遣いにも聞こえたが、裏を返せば、自分の過去に踏み込んでくるなという拒絶でもあった。


「どっちにしろ話は終わりだ。アレス達が戻ってきた」


 言われて振り返ると、平民の格好をしたアレスとメリル王女が、広場を横切ってこちらに歩いてくるところだった。アレスはひと目をあざむくために銀髪を灰色に染めたが、メリル王女は髪を灰色に染めるのだけは絶対に嫌だと言い張り、今は自慢のブロンドを帽子で隠している。

 円陣を組んで芝生に座っていた子供達は、二人を迎え入れるために立ちあがった。アレスは笑顔で応え、メリル王女は平民に触れると品位が落ちるとでも思っているのか、距離を置こうとする。


「遅かったな」ザイが言った。

「ああ、少し尋問を受けていた」

「うまくいったのか?」

「問題ない。俺達はソイルバインの栽培技術を身につけ、シルバートに持ち帰るために派遣された集団だと認知してもらった。そして、その航海途中で海賊に襲われてロートニアに逃げてきた、ということになっている」

「よく納得してくれたな」

「シルバート王族だけが使う捺印と筆記体の書簡が功をそうしたようだ」


 アレスはふところから書簡を出し、ザイに差し出し、言う。


「書簡は大事に保管しておいてくれ」


 ザイがしげしげと書簡を眺める。


「道理で。出すあてもない手紙を書いていると思ったら、これを書いていたのか。……それで、あっちの方は、何か情報は聞き出せたのか?」


 ザイは手にした書簡をふところに収めながら聞いた。


「少しは。俺達を襲ってきた海賊は、どうやらロートニアでもかなりの脅威になっているらしい。詳しい話は宿に着いてからするとして、とりあえず先に昼食をとりたい」

「そうね。お腹もすいたことだし」


 アレスの言葉にメリル王女も同意する。


「そういえば俺も飯を食ってなかったな。宿で昼飯の用意は頼んでいないから、そこの露店でラッチェを買って、食べながら宿に向かうか? みんなも早く宿で休みたいだろうから」


 そうしよう、とうなずいたアレスはユイナ達を振り返る。


「食べ物を買ってくるから少し待っていてくれ」


 そう言って露店へと歩きだし、その背中をメリル王女が慌てて呼び止める。


「ちょ、ちょっと待ちなさい。食べながら歩くつもり? 私にそんな下品なまねをさせようというの?」


 呼ばれて立ち止まったアレスは王女へと顔を向け、小声で話す。


「気にしなくとも今の私達は平民です。その平民が気品を持っていたら逆に周りが怪しむでしょう。それだと困ります。不慣れだとは思いますが、自然にお願いします」

「あ、貴方がそこまで言うなら……そうするけど」


 許嫁のアレスに頼まれ、メリル王女は渋々と承諾する。しかし、それでは王女としてのプライドが許さなかったのだろうか。


「これは貴方の貸しにしておいてあげるわ。全てが片付いたら、それなりの利子もつけて返してもらうわよ」と悪戯っぽく笑う。


 アレスは苦笑した。


「いったいどれだけの利子がつくのかと思うと、怖くて借りられませんね」

「もっと優しくしてくれるなら、利子を低くしてあげてもいいわ」


 アレスはもう一度苦笑し、歩いていく。メリル王女も遅れないように急ぎ足で彼の横に並び、歩いていく。

 そんなふたりの背中を見送りながら、ユイナは立ち尽くしていた。

 自分の気持ちをストレートに言えるメリル王女に嫉妬していたし、メリル王女へと向けられるアレスの笑顔に胸が締め付けられる想いもしていて、そういった想いを胸の内に隠したくても、それがあまりにも大き過ぎて、両手で胸を押さえ込んでいないといけなかった。


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