お茶会後
『今日は風が大活躍だった』
夜の精霊たちの報告で、火の精霊は残念そうに風の精霊の活躍を語る。
ラダはそれを聞きながら、心底安堵していた。
どうやら、エリシュカは薬を使ってアレシュたちにふしだらな事をしようとしていたらしい。
『まだあきらめてないみたいだぞ。アイツ。燃やしちゃおうか?』
『凍らせよう』
火と水の精霊の暴走気味な発言に頷きそうになったが、ラダは慌てて首を横に振る。
「駄目だから!」
『わかってるって』
『言ってみただけダヨ』
火と水の精霊の話はそれで終わり、精気を少しだけラダから奪って消えていく。
『ワタシもアイツか王女様付だったら面白かったのですけど。そういえば爺は仕事しないないみたいですね』
次に光の玉が現れ、声が聞こえてきた。それは光の精霊で、発言に反応してラダの影が伸びる。
『うるさいわい。風の奴が張り切りおって。ワシだってすでにお茶を入れ替えるなど準備はしていたのだぞ!』
「闇の精霊!」
『風の精霊が珍しくすこし代わってくれるというからな、来たのじゃ』
部屋の中でラダの影と光の玉が拮抗しており、何やら不思議な世界できていた。
「闇の精霊もありがとうね。精気貰っていっていいから」
『この間もらったもので十分じゃ。無理はさせられぬからのう。さて、ワシはまた王女様の所へ戻る。光、ワシの陰口など意味がないからのう。ほほほ』
『爺、うるさいです』
ラダの影が小さくなり、元の影の形になる。そうして部屋の温度が少しあがり、闇の精霊が消えたのがわかった。部屋の中は蝋燭の温かい光と、光の精霊の輝きで満たされる。
『ワタシは引き続き、王太子の傍にいます。彼女は大丈夫ですが、念のためです』
「ありがとう。もし危ないことになったら、助けてあげてね」
『わかってますよ。ラダ』
光の玉がふわりとラダの頬を掠った後、窓から外に飛び出していった。
眩暈も感じず、ラダは本当に彼女たちが精気を貰って行ったのかと首を捻ってしまった。
『さて、ラダ。今日のボクの活躍を聞いて!』
最後に風の精霊が、火の精霊が語ったことに加えて、エリシュカが悔しがり、アレシュとケンネルがカップを落として壊したことなどを面白おかしく語る。それでラダの胸に巣くっていた想いが軽くなったような気がした。
「風の精霊ありがとう」
『お礼はたっぷりもらうよ。ゆっくり休んでね。ラダ』
風の精霊は少年の形をとる。
頭を撫でられ、ラダは眠気と共に脱力感を覚えた。
ベッドの上にいてよかったと思いながら、そのまま眠気に気持ちを委ねると彼女は直ぐに眠りに落ちていく。
『いい夢を』
蝋燭の火を吹き消してから、風の精霊は窓から外に出る。窓を閉めてから、少年の姿のまま夜空を飛んで行った。
☆
「精霊の力なのか……。おのれ、こうなれば、ゾルターン。お主の力を借りるぞ」
イオラはエリシュカに呼び出され、彼女の屋敷に来ていた。
もちろん、侍女の仕事が終わった後で、時間は深夜だ。
城を抜け出すときの門番はエリシュカの配下だったものだが、今ではケンネルの手駒に落ちていた。彼女の包囲網は徐々に狭まっており、イオラすら裏切り者であった。
それに対して、同情心が湧いてくる。これはゾルターンの気持ちだった。
(けれども、それは過去だ。私は過去を振り切る。私は、イオラなのだ)
ホンザの照れたような笑顔を浮かべて、イオラは気持ちを振り切る。
「計画はどのようにいたしますか。父上」
イオラは忠実な息子の仮面をかぶり、エリシュカに尋ねる。こうして、彼女は裏切られているとも知らず、明日の計画を語った。
すでにエリシュカの味方はだた一人。
国防副大臣のハウドローだけになっていた。
国を守る機関の副大臣でありながら重要な裏切りを犯すのをケンネルは見過ごすつもりはなかった。エリシュカともに沈んでもらうと決め、イオラにもその事をホンザを通して伝えていた。
「イオラ様」
屋敷から出てきたイオラを迎えるのはホンザだ。
「大丈夫ですか?」
少し離れていたところで彼女を迎え、馬に乗せてから顔色の悪いイオラに尋ねる。
「大丈夫です。ケンネル様の元へ参りましょう。明日がいよいよ最後になりそうです」
「イオラ様。私は、俺はどこまでも付いていきます」
「ホンザさん、ありがとう」
イオラはホンザの背中に顔をうずめ、礼を言う。
そんな彼女を抱きしめたいと思いつつ、ホンザは手綱を掴んだまま馬を歩かせた。




