はた迷惑な金髪碧眼の紳士 1
「どうして私が参加しなければならないのでしょうか」
そう冷たく言い放ったのはイオラだった。
けれどもお茶を入れる作法は完璧で、スラヴィナとその向かいに座るケンネルの前にティーカップを置いた。
「だって、剣を振り回したのは君だろう?」
「そうよね。あなたの瞳は珍しいから覚えられている可能性もあるし。私は賛成よ」
「スラヴィナ殿下。そこで賛成しないでください。私にはあなたのお世話をするという使命が……」
「大丈夫よ。イオラ。私、見てみたいのよね。演劇」
「殿下がそう思うのであれば、殿下主催ということにしたらどうかな」
「それはいいわね。ぜひそうして頂戴。父上の説得ならまかせて。私の主催にすれば私も堂々を見学できるし、イオラも休みを取らなくてもよくなるわ」
イオラの意志を無視して、どんどん話が進んでいく。
あの騒動が城に伝わることはなく、今日も城内では平和な日常が流れていた。
ケンネルは以前にもましてスラヴィナの元を訪ねる事が多くなり、彼女自身も嬉しそうにするものだから、イオラは忌々しく思いながら毎回お茶の準備をして対応する。
侍女の身分であるので、本来は壁に控えているだけなのだが、ケンネルは事あるごとにイオラをからかおうとし、スラヴィナも面白がってそれに参加する。イオラにとっては頭が痛いお茶会が開かれ、時折ケンネルへの紅茶を不味いものに変えようと思ったりするのだが、スラヴィナの手前そんな小細工もできないでいる。
今日のケンネルは、イオラにとってトンデモナイ案件を持ってきた。
彼女が剣を持ち出しラダを襲った事は、ホンザを使って演劇の一部と誤魔化したものだけだと思っていたのだが、本気で演劇を上演するようだった。
嬉しそうに台本を抱えやってきて、配役になんとイオラの名前もあった。もちろんラダもホンザも名前が載っている。
「……イオラはいいとして、ラダちゃんは引き受けてくれるかな」
「私もよくありません!」
「イオラ。あなたならできるわ。ほら、ホンザも一緒に参加するのでしょう。最近街に降りてないみたいだから、会えてもないのでしょう。デートもできていいじゃないの」
「スラヴィナ殿下!」
彼女はいつからこんなことを言うようになったのかと、イオラは諸悪の根源のケンネルを睨むが、彼は楽しそうに笑っているだけだった。
時折、王太子の思いが込み上げてきてどうしようもない気持ちに駆られるが、ホンザのことを思うとそれは落ち着いた。
こうして、イオラは前世のことを昔のことだと気持ちを切り替えようとしていた。
「イオラが嫌なら、私が代わりに主演してもいいのよ。役者とかやってみたいわ」
「殿下!それはやめてください」
「じゃあ、イオラ。君で決まりだね。ほら、ラダちゃんともしっかり話をしてないし、この機会に打ち解けるといいよ」
「打ち解けるって……」
前世で殺され、現世では殺しそうになった相手とどう打ち解けるのか、イオラはケンネルの頭をぶん殴りなくなる。
「イオラ。その目で睨むのはやめてくれない。さすがに傷つく」
「あなたがこんな視線で傷つくわけないでしょう」
「確かにケンネルなら平気よね」
「スラヴィナ殿下まで、酷いなあ」
こうしてスラヴィナの部屋では今日も賑やかなお茶会が開かれていた。
☆
「え?ラダが演劇ですか?」
「そう、頼んでくれないかな。君から」
「無理に決まってるでしょう!」
父も兄も遅くなるということで母と寂しい夕食を終え、自室に戻り休んでいると、城から戻ってきた兄が訪ねてきた。
用件は、この間の後始末も兼ねて、王女スラヴィナ主催で演劇を上演することにしたので、ラダに出演を頼んでほしいという、無理難題に近い内容だった。
「大体、劇なんて上演しなくても大丈夫じゃないですか?」
「ほら、やらないとあれが本当だったと思われると不味いじゃないか」
「だったら、劇場で本業の役者に頼めばいい事でしょう?」
「違う人がやったら意味がないじゃないか。本物がやってこそ、迫力がある」
断言するケンネルにアレシュは脱力して、反論する気も失いそうになったが、そこはラダのためだと気合を入れ直した。
「本業の人に迫力ある演技をしてもらえばいいのですよ」
「それを言ってしまったら、味気ない」
「ラダに迷惑をかけるのは嫌なんです。明日も早いので俺は寝ます。兄上は馬鹿なこと考えるのはやめて、本業の役者にしっかり頼んでくださいね」
うだうだ言うケンネルを部屋から追い出し、アレシュはベッドに横になる。
(折角、今いい感じなんだから。劇団とは変なことが絡んで関係をおかしくしたくない。ちょっと今日は強引すぎたな。お母さんとか呼ぶのは流石に早すぎたかな)
昼間の照れたラダを思い出し、アレシュはベッドの中で悶える。
こんな様子、先輩たちが見たら訓練という名の扱きが待っているだろう。それぐらいアレシュの顔を緩みっぱなしで、そのまま幸せな夢の世界へ突入する。
そんな彼は兄の性格をまだ完全に理解していなかった。
「仕方ないなあ。明日、私が直接頼んでくるか。ラダちゃん、嫌がるだろうなあ」
わかっていながらも実行する男、それがケンネルである。




