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前世(むかし)は昔 2

「……それで、マクシム。私をどうするつもりだ」

「マクシム……か。本当に君は過去に囚われているね。イオラ」


 実家のベルカ家にアレシュとケンネルはラダとイオラを連れてきていた。

 意識のない少女に、拘束された女性。そんな二人を連れて現れた子息達に使用人たちも驚いたが、女主人であるベルカ夫人によって一喝され、動揺はすぐにおさまった。

 意識のないラダを抱えアレシュが客間へ、ケンネルはイオラを応接間に通して拘束を解いた。念のため、扉の外には使用人たちが張り付いている。



「君は私の大切な女性の友人だよ。何もするわけがないじゃないか」

「よく言う。本当にお前は変わったな」

「当たり前だよ。私はケンネル・ベルカ。マクシム・ベルカは過去に過ぎない。そして終わった過去だ」

「終わった、か……。勝者側だから言えることだろうな」


 イオラは琥珀色の瞳を挑戦的に閃かせ、ケンネルを睨んでいた。


「勝者とか、何なんだ?多くの人が王族の命令によって兵士となり命を落とした。私だってそうだ。王命により多くの人を殺した。そして同胞も殺された。戦争は避けられた。君はウルシュアが犠牲になればよかったと思っているのだろう。それは間違いだ。サイハリの王は、怠惰で強欲で、最低な王だった。君はその息子で、君は唯一国を変えることができた者だった。けれども、君はただ王に従い兵を駆り立て、チェリンダを襲った。その君が、ヤルミルやウルシュア、私を詰るのは間違っている。君は知っているか?サイハリの領主となった私が、民に感謝されていたのを。豊かな生活を送るようになりましたと、」


 ケンネルはイオラを見据え、言い放つ。

 彼女は悔しそうに目を背けた。


「そんなこと知ってる。私の母はサイハリの民だ。だからチェリンダの王が、マクシム、お前がどんなに民の生活に心を砕いたか、小さい頃から語られてきた。知ってるんだ。私は、イオラは……。だけど、許せない。私の中の、ゾルターンが憎悪の言葉を吐き続ける。彼は納得していない」

「まあ、そうだろうな」


 泣きそうな声で吐露した彼女に、ケンネルは軽く返して笑う。


「ゾルターンはそうだろう。だけど君は違うだろう。イオラ。君はゾルターンではない。イオラだ。スルヴィナ殿下の侍女であり友人であり、ホンザに愛される女性だ」

「な!」



 ホンザの名前を出され、しかも愛されるという単語で、イオラの毒気が抜かれる。恥らうように目線が彷徨わせて、その頬は少しだけ上気していた。



「ホンザさんは関係ありません!」

「ううん。関係ないじゃ困るんだよ。イオラ。ホンザは私たちの家族のようなものだった。それが君を追って家を出て行ってしまった。親代わりのデニスなんて寝込むんじゃないかと思うくらいへこんでいてね」

「……それはすみません」

「イオラ。元に戻ったね。それでいいんだ。君はイオラだ。ゾルターンは君の過去にすぎない。しかも終わった過去だ。私にとってマクシムがそうであるように。まあ、時折思い出すのはいいかもしれないけど、愉快な記憶じゃないからね」

「あなたにとっては簡単なことかもしれない。でも私にとっては……」

「そうだね。だから少しずつだよ。今を生きるんだ。イオラ」


 イオラは何も答えなかった。

 ケンネルは自分のティーカップにお茶を注いだ後、彼女のカップにも注ぐ。

 ゆっくりとお茶を味わってから再び口を開いた。


「まあ、しばらく考えてみてよ。ホンザも呼んでくるから」

「ホ、ホンザさんはどうなるのですか?このまま……」

「君次第かなあ。それに、君。スラヴィナ殿下のこと、心配しないの?私は本気で彼女の王配になる気だから。まあ、色々大変だと思うんだよね」

「ど、どういう意味ですか?」

「君ならわかるだろう。元男なんだから」

「な、なんて人なんですか。本当にマクシムとは違う!」

「だから違うんだよ。私とマクシムは。私はマクシムのように我慢しない。そういうことで、君、頑張って働くんだよ」

「なんていうか、本当に嫌な人ですね。あなたは」

「まあ、よく言われるね。特にあの、えっとランディだっけ。あいつには嫌われているな」

「ランディ。あなたとは火と油みたいですからね」

「まあ、いいよ。面白いし、腕は立つみたいだから。さて、私はホンザを呼びにいくよ。過去むかしは昔。今を楽しめ」


 ケンネルは立ち上がるとイオラの肩を軽く叩く。そうして部屋を出て行った。



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