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前世は精霊に愛された純粋な青年でしたが、今度は絶対に報われない恋なんてするもんか。  作者: ありま氷炎
第一章 精霊に愛される少女と王女の面影を持つ騎士のもどかしい交流
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青年が少女で、王女が騎士で

『ねぇ、ねぇ。家まで飛ばしてあげようか』


 うきうきと話しかけてくるのは風の精霊だ。

 こちらから頼みごとをすると、精気を少し分けてもらうという交換条件で力を貸してくれる。

 前世は精霊の力を借りすぎて、精気を失いすぎて死んでしまったので、ラダは極力精霊の力を借りないように心がけていた。

 

 報われない恋をしない。

 精霊の力を借りず、長生きをする。


 ラダの目標はこの二つだ。

 

 精霊に愛されることが嫌なわけではないのだけど、小さいときから付きまとわれているので、少しばかりウザイと思うことがある。

 ラダは前世の自身を思い出すと、よく精霊たちの相手を小まめにしていたなあと感心することが多かった。


「おじさん、またね」


 ひらひらと手をふり、最後の買い物を終わらせて彼女は帰路につく。

 風の精霊は完全に無視をされて、すこしむくれた雰囲気をかもし出していた。家に戻ったら、少し相手をしてあげようと決めて、とりあえずラダは先を急ぐ。本屋で少し立ち読みしたため、時間がかなり経っていた。

 彼女の家は食堂を営んでいて、今日はお使いを頼まれた。両親特に父親はうっかりしていることが多くて、大事な調味料を買い忘れることがよくある。その度に、仕方ないなあと言いながらラダはお使いに出かける。

 前世を思い出したときは八歳のときだった。

 それまでは両親がいることが当然だと思っていたのだが、前世を思い出してから、それが普通ではないことに気がついた。仲が良くて優しい両親、二人のことを思うと嬉しくなってニマニマと笑いたくなる。

 彼女自身も将来は家をついで、食堂の女将になり、父親のような優しい人と結婚したいと考えていた。

 まあ、まだ十五歳なので、結婚についてはまだまだなのだが……。


『ラダ!』

 

 不意にふわりと風が吹いて、彼女は足止めされた。

 その前を物凄い勢いで馬車が駆けていく。


『もう、あぶないんだから。これは好意でしてあげたんだからね!』


 風の精霊のすねた声が聞こえたが、ラダは今日ばかりは彼女に感謝した。

 もし風の精霊が力を使わなければ、そのまま歩き続け、馬車に轢かれていたに違いないのだから。


「ありがとう。風の精霊」

 

 心の底からお礼を言うと、照れたのか風が頬を撫でた気がした。

 家に帰ったらしっかり相手をしてあげようと歩き出そうとしたら、砂埃を撒き散らして誰かが駆けてきた。


「大丈夫か?怪我などしていないか?」

 

 それは騎士で、どうやら先ほどの馬車の御者をしていた者のようだった。

 

「だ、大丈夫です」


 騎士にはあまりいい思い出がない。

 前世で恋をした王女は結局あの森にやってきた騎士と結ばれている。共闘して隣国とも戦ったこともあったが、精霊の力を駆使する彼――彼女に対して距離を置かれてたのを覚えていた。


「ご心配ありがとうございます。それでは」


 関わりたくないと頭を下げて、歩きだそうとしたが、彼女の腕はしっかり捕まえられていた。


「は、離してください」

「……ヤルミル?」


(な、なんでその名を!いや、名前は有名だけど。なんで私に?)

 

 驚きながら彼女はじっくりと自分の腕を掴んだ騎士を見た。

 黒髪に紫色の瞳。しっかりとした顔立ちの美男。王女の面影がかなり残った顔で。


『あ、王女だ。王女。ヤルミルが女の子になったから、王女は男になったのかな』

 

 うきうきと風の精霊の嫌な言葉が聞こえ、ラダは聞かなかったことにした。


「騎士様。お急ぎだったのでないでしょうか?馬車の方から高貴な方が降りてきてますよ」


 それははったりだったのだが効果はありで、騎士はラダの腕を離すと馬車へ視線を向ける。


「風の精霊。家までお願い」


 それは今の人生において最初のお願いだった。


『はいはいー』


 軽い返事が戻ってきて、ラダの体が浮く。買い物籠を離さないようにして両手に抱えて風に乗った。風の精霊によって彼女は空の旅を楽しむ。実際楽しむ余裕などまったくなく、くるくると空に舞い上がった。

 買い物籠を抱えたまま、下を見ると騎士はラダの行方を捜すようにきょろきょろと周りを確認していた。



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