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前世は精霊に愛された純粋な青年でしたが、今度は絶対に報われない恋なんてするもんか。  作者: ありま氷炎
第一章 精霊に愛される少女と王女の面影を持つ騎士のもどかしい交流
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再び金髪碧眼の紳士。


 馬車に轢かれそうになったり、お店に変な客がきたり、散々な日が嘘だったように、日常が戻ってきた。

 相変わらず朝から風の精霊に話しかけられたり、火の精霊が父をからかったり、水の精霊がそれを止めようとして、ちょっとした騒動はあったが、それはラダにとっては日常であり、普通の日々であった。

 精霊のこと以外で、ヤルミルの影を見ない日々はラダにとっては安穏の日々であり、求めていた日常だ。

 ただ少し妙なことは、闇の精霊が現れなくなったことだった。

 数日に一度、寝る前にラダが明かりを消すと現れたのに、彼はぱたりと現れなくなった。その代わり、光の精霊が前よりも頻繁に来るようになっていて、闇の精霊のことを聞くと必ず不機嫌になって『爺のことは知りません』と答えるのが決まり文句だった。


(怪しいよね。喧嘩でもしたのかな。っていうかいつも喧嘩してみたいだからなあ)


「あら、あなたは!」


 お昼前の開店時間に合わせて、父の隣で野菜を洗ってると、店の入り口の方から母の声がした。


「父さん、ラダ!あの人がいらっしゃったよ!」


(あの人って、あの人だよね。あのマクシム・ベルカに似た人……)


「ラダ?」

「ああ、ごめん。挨拶しなきゃね」


 野菜と水の入った桶に手を突っ込んだまま動かないラダに父が視線を投げかけ、彼女は慌てて手を布で拭く。肉の下ごしらえをしていた父も手を洗い、二人は揃って店へ出た。


「いやあ、すみません」


 金髪碧眼の紳士――ケンネルは少しだけ申し訳なさそうにしていた。


「父さん、ラダ。お城の騎士様たちのためにお昼を注文したいんだって」

「え?」

「配達ってことですかね」

「いいえ。下っ端の騎士が取りに来る予定です。先日来た際に鶏肉の黒胡椒焼きがとても美味しそうでしたので、パンと一緒に騎士たちに配りたいのです。なので、鶏肉の黒胡椒焼きとパンを八人分用意していただいてもよろしいですか?

「八人分だけでいいのですか?」


 中途半端な数に父はケンネルに確認する。


「ええ。肉とパンを別に分けていただけると嬉しいです。お代は今払います。入れ物は後日返却するということで、いかがですか?」

「えっと、その」


(……突然すぎるよね。お父さんだって困るよ。騎士様の口に合うかわからないし。八人分くらいならすぐ用意はできると思うけど)


 ラダは黙ってやり取りを見守る。


「なんだい。父さん。この間のお礼もかねて引き受けないかい!」

 

 尻込みする父を押したのは、母だ。


「まあ、味は庶民の味だけど、街では評判なんだ。父さん、自信をもって受けようじゃないか」

「そ、そうだな。先日のお礼もあるし。えっと……」

「失礼しました。名を名乗ってもいませんでしたね。私はケンネルと申します」

「あ、ケンネル様。わたしはイルジー。そして家内のガリナ。娘のラダです」


「よろしくお願いします」


 母がそう言ったので、ラダもそれに続く。


(ケンネル……。名前なのかな)


 平民には苗字がない。

 その上、貴族への知識もないので、ラダにはそれが苗字なのか名前なのか確証がもてなかった。


「はい。よろしくお願いします。それでは、正午に取りにきますから。代金はいくらに」

「代金なんてとんでもない」

「それは困ります。無理な願いを引き受けていただいた事が、すでに先日のお礼ですから」

「それでは遠慮なく。……母さん、お代を」

「それじゃ、公平にいただきますよ。肉が銅貨二枚、パンが銅貨一枚、一人分が銅貨三枚なので、八人分だと銅貨二十四枚分だね」

「銀貨一枚で四日分お願いしてもいいですか?」

「四日分!銅貨四枚分多いですよ。しかも四日も」


 銅貨百枚で、銀貨一枚分だ。八人分で銅貨二十四枚なので、四日だと銅貨九十六枚で四枚余る。

丁度でなく、こちらに優位な払い方をされることで、父イルジーが戸惑ってしまった。

 横からそのやり取りを見守っていた母ガリナはすかさず言葉を挟む。


「銅貨四枚をお釣りできっちり返して、引き受けようじゃないか。父さん。ほら、もし騎士様が気に入らなければ、二日目以降は全額を返すということにしよう」

「うーん。まあ、騎士が気に入らないということはあり得ないと思いますが……。ですが、それなら公平ですね。イルジーさん、いかがですか?」


 ケンネルはマクシム似の容姿なのだが、性格は全く異なっていた。笑顔を終始浮かべて、ラダは少しばかり胡散臭い思いで彼を見つめている。

 それがわかったのか、ケンネルはラダに意味深な笑みを向けた。


(なんなんだろう。この人……)


 それで彼女の苦手意識はますます膨らんでしまったのだが、目の前の男は客だと思って、顔を引きつらせながらも笑顔を維持した。


「それでは、本日正午すぎにアレシュという騎士が取りに来ますから」


 ケンネルは支払いを済ませると、お釣りを受け取り揚々と店を出て行った。


「さて、頑張るかな。ラダ?」

「ううん。なんでもない」


 ふと風の精霊が去り行く彼に風を吹きかけ、整えられた彼の髪がぐちゃぐちゃになる。それを見送って、ラダはちょっとだけ溜飲を下げた。


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