本当はずっと、知っていたんだ。1−6
俺は……自分自身を認めてやることができなかったんだ。
『私はきっと自分が……自分だけが蛇になれることに、優越感を持っていたのだ』
俺は生まれた時から一度も燐みたいに、自分がヘビになれることを自慢に思えたことなどなかったから。
ヘビになれることはいつだって自分の恥であり、汚点であり、役に立たない欠陥だった。
『自分の子どもがヘビになれるなんて、あり得ない! そんなのは、人間じゃない』
それを言ったのは……俺の父親だった。
燐は父親の顔さえ覚えてないだろうが、俺は知っている。
正確に言うと、父の顔は覚えていないけれど、そう言った時の、言われた時の表情だけを、俺は今も覚え続けている。
『人間がヘビになれるなんて、あり得ない! そんなのは、人間じゃない』
父親はそう言ってしばらく経った頃、何も言わず家を出ていった。
……俺のせいで、父さんは家を出ていったんだ。
俺は最初、そのことに気づかなかった。
気づいたのは、小学校に入ってからだ。
小学校に入って物事を考えられるようになって、そこで周りを見てようやく気づいた。ああ、他の人は蛇にはなれないのだ……。そして蛇になれることは、普通のことではないんだって。
母さんはおそらく、最初から知っていた。
俺がヘビになれることを、なんとなく予期していたのだと思う。
だから母さんはすんなり俺を受け入れてくれた。
でも父さんは……?
父さんは、きっと知らなかった。
ヘビになれる人間が自分の子として生まれてこようなど、たぶん想像だにしていなかった。
だから捨てた。家族を……俺を。
たぶんその事に気づいてからだと思う。
俺がヘビになれる俺を、忌避し始めたのは。
そしてウソをついた。
ウソをつき続けてきた。自分自身に。
たいしたウソじゃない。でも決定的なウソだ。
俺は、自分がヘビになれることから、目を背け続けてきた。
けれど何度も何度もやり直して、それじゃ絶対に上手くいかないことを知って、俺は、最後には諦めた。
周囲との関わりを避け、未来に希望を持つのをやめ、自分でない自分を作って無理やりその中で生きようとした。でもそれは結局どこまでいってもむなしいだけのまがい物で、自分を騙せば騙すほど余計に、世界は灰色に、周囲は自分の敵に変わっていった。
『くすっ……逃げられると、思うなよ。逃げ場所なんて、どこにもない』
そうさ……逃げ場所なんてどこにもなかったんだ。
それをずっと知っていたのに、なおも俺は逃げようとした。
自分自身から逃げて逃げて逃げて……最後には、逃げ道がなくなった。
本当は、立ち向かわないといけなかったんだ。
逃げて逃げて別の場所に自分を探すのではなく、目の前の嫌な自分から、それでも逃げずに立ち向かっていかないといけなかったんだ。
けど俺には……その強さが、勇気がなかった。
『壊れてしまえばいいのに』って、鏡に映る自分を前にして、なおも自分を否定し続けて、自分を変えるのでなくいっそ自分自身が一度、壊れてなくなってしまえば、そうして本当の意味でやり直せばいいなんて、軽はずみに思ってしまったんだ。逃げて……しまった。




