本当はずっと、知っていたんだ。1−4
――なのに、お前が、言った。
『私はお兄ちゃんを、見捨てない』
聞き間違えじゃないかって思ったのは、俺の方だよ、燐。
お前は内気で弱くて自分の意見が言えなくて……命の危険を前にして、そんなこと言えるやつじゃなかっただろう。
『私が唯一後悔しているのは、お兄ちゃんに迷惑をかけたこと。私が唯一恨んでいるのは、過去の無知だった自分……っ! それ以外のことなんて、どうでもいい!』
どうしてそんなこと言える……? 俺はダメだよ、燐。俺は、過去の自分を後悔しても恨んでもいない。けどただ、怖いんだ、自分自身が。……ヘビになれる自分自身が、怖くてたまらない。今でさえ、なお。
『ねえ、知ってる……? 初めて転校する時、私が東京に移る車の中でお兄ちゃんに「私のせいで……」って、「ごめんなさい」って謝った時、お兄ちゃんがどんな顔をしていたか……』
『お兄ちゃんは「気にするなよ」って。「今回はたまたまお前だっただけで、もしかしたらばれてたのは俺だったかもしれないんだ」「だから、気にするな」って言いなが泣きそうになっていたんだ』
『お兄ちゃんは変わった。きっと知ってしまったんだ。「ヘビになれる自分」に、未来なんてないことに。だからお兄ちゃんは、誰とも深く関わらなくなった。目立たず、話さず、極力自分の姿が周りから見えないようにした。自分にウソをつき続けた。そうするしかなかったから。そうでもしないと、自分の未来がなかったから』
そうだよ……本当に弱いのは、俺の方だったんだ。
『ヘビになれる自分』が怖くて、俺はウソをつき続けた。
かたくなにヘビになることを拒んで自分がヘビになれることを忘れようとした。
燐がヘビになるのも、自分にそれを思い出させるようで、その度つい俺は声を荒げてしまった。『やめろ!!』と。
燐を転校させたのだってそうだ。一度目はまだしも、二度目は本当は転校する必要なんてなかったんだ。『たかが噂にすぎない』そう片づけて今まで通り過ごしてしまえばよかったのに、俺がそうしなかった。……いや、そうできなかった。怖くて。だから燐を言い訳にして、再度転校するように母さんにけしかけた。燐のことより俺自身が、バレるのが怖かったんだ。
今の場所に移って燐と上手く話せなくなったのだってそうだ。
なんのことはない。
燐が俺を避けていたんじゃない。
燐が俺に遠慮してたからでもない。
俺が燐に後ろめたさを持っていたから、俺の方が逃げていたのだ。
それをあたかも燐がいけないかのように振る舞って……本当に弱いのは、いつだって俺の方だった。
『ここに来るまでに、お兄ちゃんは言われてた。「普通じゃない」って。「普通じゃないことを普通にしているのが変」って。それはそうだよ。だってお兄ちゃんは普通じゃない! ヘビになれる、私と同じ異常な人間だ。でも違うんだ。そうじゃない。本当におかしいのは、今のお兄ちゃんが本当におかしいのは、自分を捨ててしまっていることなんだっ』
『自分の中にある大切なものを逆に怖がって一つ一つ遠ざけて、自分にウソをつき続けている。それが一番、おかしいことなんだ。おかしいのはお兄ちゃんがヘビになれることなんかじゃない!』
そう、燐の言う通り……




