本当はずっと、知っていたんだ。1−3
俺がヘビに生まれて悩みを抱えていたように、燐もいくつもの悩みを抱えてきた。
自分のせいで生まれた地から逃げるように引っ越すことになり、自分を見失い、やがては友達も全員失った。新しい学校でもイジメを受け、外の世界を怖がるようになり、最後にはクラスメイトに言われた一言を誤解してまた俺たち家族を引越しさせるハメになった。
けれど、俺だってわかってるさ……それが燐のせいではないことなんて。
本当にいけないのは燐ではなくて……きっと俺と燐が、ヘビになれることなんだ。
俺たち家族が仕方なく元の場所を引っ越さないといけなかったのも俺と燐がヘビになれるからだし、転校した学校でも燐が上手く周囲に溶け込めなかったり、噂一つ出ただけで再度転校したりしないといけなかったのも、俺と燐がヘビになれるからなのだ。
俺と燐が……俺がヘビになれるせいで、父さんもいなくなった。
全ては、俺と燐が間違ってヘビに生まれたせいで……
それさえなければ、俺は……
「うっ……ああぁっ!!」
暗い意識の沼を漂っていると、急に心臓にとてつもない痛みが襲ってくる。
血管すべてに針が流れるような痛みが走り、動かない口で俺は悲鳴を上げた。
「うぅ、痛い……痛い……っ! うああぁあああっ!?」
やがて全身が勝手に動かされるような不思議な感覚に襲われ、気づけば視界の向こうに、うっすらと赤い景色の中に、燐がいるのが見えた。
「お、お兄ちゃん!? や、やめて……っ」
しかし遠く向こうにいると思った燐の姿は、実際にはごく至近距離にいて、俺はどうやら燐を床に押し倒して今にも噛みつこうとしているようだった。
それを必死に燐が抵抗している。
(なん、で……!? 身体が言うことを、聞かないっ!?)
俺も必死に自分自身を止めようとするけれど……どうにもできない。
まるで自分の身体が誰か別の人間のものになって、俺はただその景色を意識の奥から見させられているようだった。
(このままだと……燐がっ!)
なんとか燐を助けようと必死に身体に念じ続けるもそれは全く通じなくて、結局俺の行動を止めたのは、白い髪の少女だった。
『離れろ』
「があぁあ……あぁ……」
たったそれだけで俺の身体は……あれだけ必死に抵抗しても何一つ動かなかった俺の身体は、命令を受けたロボットみたいにピタリと止まった。
その瞬間に俺はなんとなく理解した。
ああ、俺はもう、死んでるんだと。
死んで、この身体はすでに白い髪の少女のものになっているのだと。
脳も目も心臓も、もう俺のものではない。
そのことを全身に流れる針のような血流が俺に知らせてくる。
『お前はもう、死んだんだ』って。
この身体はすでに、白髪の血に支配されているのだって。
そっと、目をつむる。
自分はきっともうダメなのだ。
もう、死ぬしか残されていない。
なら最後ぐらい、恐怖や未練の中ではなく、安らかな気持ちで死んだっていいだろう。
あれだけ苦しんできたんだから、最後ぐらい苦しまずに死んだって、痛みから、嫌なことから、この世界から逃げて死んだって、別にいいだろう。
そう思った。
そう思って、目を閉じて、もう本当に終わる準備をした。
意識さえ消えてなくなる最後の一瞬を、静かに待った。




