蛇に、生まれた。1−12
「だから私は、お兄ちゃんを見捨てない……! 私のせいでお兄ちゃんがこうなってしまったというのもあるけど、それ以上に、見てしまったから。……お兄ちゃんはきっといつも気づいてないんだ。何かあった時に自分がどんな顔をしているかに。こんな状況になって、お兄ちゃんが私を助けに来てくれた時、お兄ちゃんは昔のままの格好いい顔をしていた。まっすぐ前を見て、すごく格好いい表情をしていた。けど身近な人から嫌になることを言われて、『普通じゃない』って言われて、すごく怯えるような、絶望したような表情を浮かべてた。そしてさっき、私を、私だけでも逃がそうとあなたに立ち向かっていく時、お兄ちゃんはいつもみたいに真剣な顔でまっすぐ前だけを見て……でもどこか寂しそうな顔をしていた。『燐ッ!!』って、お兄ちゃんを見捨てて逃げるのをためらう私に強く言って、けど私がヘビになるのを見た後お兄ちゃんは、優しく柔らかく、けれど寂しそうに笑っていたんだ。まるで、『これでようやく死ねる』って。そんなことでも言うみたいに、寂しく笑ってたんだっ!」
「だから私は、私だけは、お兄ちゃんを見捨てない! たとえ私が死んでも、お兄ちゃんが死んでも、私はお兄ちゃんを見捨てないっ。私がお兄ちゃんの人生を壊してしまって、その罪滅ぼしというだけじゃない。好きで好きで大好きで、いつも私を助けて守ってくれたお兄ちゃんがあんな寂しそうな表情を浮かべていて……だから私は、私だけは、お兄ちゃんを見捨てない。たとえ死ぬことになっても、私はお兄ちゃんを、決して見捨てないっ!」
はあ……はあ……と、今度は燐の方が肩で息をする。
一気にまくしたてたせいで、しばらく二の言葉を継げないほど疲弊する。
俯いて、工場の汚れで黒くなった自分の素足を見ながら、呼吸を整える。
そうして燐の呼吸が少しずつ落ち着いてきた頃だった。
これまでずっと沈黙を保ってきた白髪の少女が、口を開いた。




