蛇に、生まれた。1−5
それは、兄からもらった、指輪だった。
兄はきっとその時のことなど、もう覚えてもいないのだろう。
けれど私だけは覚えている。
兄が小学校に上がって、私がまだ幼稚園にいた最後の年に、私とお兄ちゃんは二人で夏祭りに行った。その夏祭りにはお兄ちゃんのクラスメイトも結構いて、けれどお兄ちゃんは私と――嫌々だったのかもしれないけれど――私と二人でずっと回ってくれた。それがなんとなく嬉しくて、お祭りで気持ちが上がっていたということもあって、私は途中、お兄ちゃんと人目のつかない静かな所で休憩している時に、ついヘビになろうとしてしまったのだ。
『リンっ、やめろ!!』
本気でお兄ちゃんに怒られたのは、その時が初めてだったかもしれない。
お兄ちゃんは小学校に上がってから、蛇になることを目に見えて避けるようになった。それまでは私だけじゃなくお兄ちゃんも、『なんとなく』とか『そういう気分だから』とか、くだらない理由でヘビになることがよくあって、その時も私にたいした理由はなくて、疲れたからちょっとヘビになって気分転換、それぐらいの気持ちだったのだ。なのにそれをお兄ちゃんにきつく咎められて、思わず小さい私は泣き出してしまった。
『う……っ、うぇ~ん!』
『お、おい、リン!? そんなに泣くなよ、リンっ?』
『うぐ……ひっく』
『くそっ、俺がわるかったよ、リン。……ちょっとまってろ!』
『お、お兄ちゃんっ?』
そうしてお兄ちゃんがどこかに消えて私一人残されて、また少し経った頃にお兄ちゃんは戻ってきて、その手にはたぶんどこかの露店で買ったんだろう指輪が握られていて……
『ほら……』
『なにこれ……?』
『知らないよ。でもこういうの好きだろ? さっきはゴメンな……俺がわるかった。別にヘビになるのがダメってわけじゃないんだけどな、たださ……いろいろあってさ……。うまく言えないけど。とにかくこれやるから、もう泣くなよ』
『うん……好き。ありがとう、お兄ちゃん!』
それがすごく嬉しかったから、成長してすぐに指輪は指に入らなくなってしまったけど、ずっと肌身離さず持ち歩いていた。たぶん、お守りのようなものだった。小学校に上がってお兄ちゃんはヘビになってくれることが極端に減ったけど、その指輪があれば、なぜか元気をもらえた。
だからそれが失われた時、私は自分を見失った。




