蛇に、生まれた。1−4
「なんでだよ……わけわからないよ、お前。なんでその話から、そこの名無し君につながるんだよ。わけわかんない」
ふと天井から水滴が一粒水路に落ちて、「ぴちょっ」と音が響く。
燐は、裸のままの燐は、おもむろに顔を上げた。
その眼に熱さはなく、鋭さもなく、けれどその水面のように静かな視線が、なぜか白い髪の少女を「……っ!」とにわかに警戒させた。
白髪の少女が気おされて微妙に後ずさりする中、燐はもはやはっきりした意識をもって白髪の少女に語り掛けていた。
『私とお兄ちゃんがここに来たのは、去年の十月のことだった』
小さい頃私たちは、東京から少し離れた緑の広がる田舎に住んでいた。町の半分は田んぼと畑のような、そんなありふれた田舎だ。そこで私は小学四年生の頃まで、自由きままな生活を送っていた。お父さんはいなくてお母さんも家を空けがちだったけど、お兄ちゃんがいればそれで十分だった。お兄ちゃんと駆け回った自然の中、木漏れ日の差す森の中も、影の落ちない真夏のあぜ道も……今でさえその色を、私ははっきりと思い出すことができる。
『ほら、リン、こっち!』
『待って、おにいちゃ――キャッ!』
『リン、大丈夫か!?』
『う、うん、お兄ちゃん! ありがとう!』
そして兄は……お兄ちゃんは、何かにつけてドジをしてトラブルに巻き込まれる私をいつも助けてくれた。私を助けようと手を伸ばすお兄ちゃんはいつも真剣で、けれど『ありがとう! お兄ちゃん』と私が言うと、いつも照れくさそうに顔を背けて……そんなお兄ちゃんが、私は大好きだった。あの頃はきっと、私の人生の中でもっとも幸せな時期だった。
……けれどそんな幸せな生活を壊したのもまた、無知な自分自身だった。




