蛇に、生まれた。1−3
それから都内の新しい中学に転校して私たちは……私は、意外にも平穏な生活を送れていた。新しい中学には私たちが蛇になれるなんてこと知っている人は誰もいないし、噂にのぼる気配もない。私はもうこれ以上迷惑は掛けまいと、あえて普通に学校に行って、普通にクラスメイトと喋って……あえて今まで入ろうともしなかった部活にも入って楽しそうな生活を送った――いや、楽しそうな生活を送っているように見せた。そうでもしないと、さらに迷惑をかけてしまうから。お兄ちゃんとお母さんに。だから私は意図的に普通を振る舞った。普通に暮らして普通に楽しんで、ヘビになれることなんて気にならないくらい、誰かが気にしないぐらいに、普通を振る舞った。もうこれ以上二人に……なによりお兄ちゃんに、迷惑をかけることだけはしたくなかったから。
もうお兄ちゃんの邪魔にならないこと……いつしかそれが、私の最大の使命になった。
それからあっという間に私は、中学二年生になった。
教室でも部活でも、私は誰かと普通を装って話せるようになっていた。
「リン、おはよー」
「今日部活体力練だってよー、最悪だよねー」
「あはは、なにそれ、バカみたい、リンってば」
表面上は仲良く、けれどその言葉のどれも、たぶん私の心の中には届いていない。
でもきっと本当に悪いのは友達ではなく自分自身で……
「ねえねえ、外でバレーしようよ!」
「今度××行こうよ、欲しいお財布があるんだぁ」
「○○って最近、△△のこと好きらしいよ。お似合いだよね、二人」
「そういえば、――――――てしってる?」
「――――――だよね」
「――――――だとさ、――――――じゃない?」
「――――――――っ」
「――――――」
「――――――」
皆の言葉が、聞こえてはいるはずなのに耳から滑り落ちていく。
カラフルなはずの景色は、それでもどこか空しい。
友達も、クラスも、空も。
まるで自分と世界の間に見えない壁があるように。
まるで自分はこの世界のものではないみたいに。
まるで自分だけがこの世界からのけ者にされているように。
すべてのものが水銀みたいに、私の肌に触れた途端にツルリと表面を滑り落ちていく。
『それでも私は、お兄ちゃんのために生きようと、決めた』
「……は?」
暗くさびれた工場の片隅で、それまで黙って燐の声に耳を傾けていた白い髪の少女が、思わず聞いた。




