蛇に、生まれた。1−1
◆◇◆ Ⅳ:蛇に、生まれた。
「私は――、
暗い工場の片隅で、燐が呟く。
一度蛇になって戻ったおかげで、その身体は何も着ていない。
けれどそんなこと気にする風もなく、燐は答える。
「私は、燐。……お兄ちゃんの、妹」
その声はか細くもしかし、音のない廃墟の工場にはしっかり響く。
辺りの空気がピンと張り詰める。
先刻までは全くなかった緊張感が、燐と白髪の少女の間に漂う。
燐も少女も、なかなか次の言葉を継がない。
あたりには静寂が落ち、まるで呼吸の音さえ聞こえてくるようだった。
そんな中先に口を開いたのは、白髪の少女の方だった。
「……へえ、妹、ね」
そのねっとりと威圧するような白髪の声にも、燐はほとんど反応しない。
まるで魂が抜けてしまったかのように、燐はただその場に真っすぐと立つ。
燐が全く返答する素振りを見せないので、白髪が再度燐に向かって聞いてくる。
「……君は、蛇になれるのかい?」
しかしその問いにも、まったく燐は答えようとしない。
ただうつむいたまま、何かを呟くみたいにしきりに口だけを動かす。
「…………っ」
そんな状態が数秒も続いたので、とうとう、白髪の少女がしびれを切らして問いただした。
「……黙ってるなよ、お前っ! 僕の質問に答えろっ! お前は、何者なんだよ、おいっ!!」
そうして白髪が怒鳴り散らすと、ようやく燐はわずかに顔を上げ、言葉を発した。
「私は――」
虚ろな表情で、燐は言った。
『蛇に、生まれた』
「はぁ? 何を言って……」
白髪の少女が訝しげな視線を送るが、もはや燐の目は少女を見ていない。燐の思考から白髪の少女のことは完全に消えてしまったかのように、ただ遠くの、どこかここではない場所を見つめながら、燐は語り続けた。
『蛇に……生まれた』
――生まれた時の記憶は、ない。
ただ物心つく前から蛇になれることは知っていたし、それを不思議に思ったこともない。ただ事実として、私は蛇に変身することができた。人間から。




