白髪の女1-7
「――もう、逃げられないね」
「……っ!」
俺と燐が同時に固唾を呑んだ。
後ろの燐がぎゅっと俺の服をつかむ。
俺は緊張で身体を強張らせる。
一方の白髪は追い詰めた側の余裕か、急いで襲う風もなくこちらをじっとり見つめてきた。
品定めでもするように俺と燐を順に観察するが、すぐに何かをしてくる素振りは見せない。
燐が後ろで呟く。
「お、お兄ちゃん……」
その表情はこれまで以上に不安そうで、俺を掴む手は小刻みに震えている。
俺は、なんとか時間を稼ごうと、白髪に聞いた。
「……どうして俺たちを、おいかけてくる?」
その声もまた、自分でもわかるくらい震えていた。
情けないが、どうしようもない。
文字通り生命の危機なのだ。
今更外聞など気にしてても仕方がない。
一方の白髪は、すぐには答えず、周囲や俺たちの様子を嘗め回すように確認してから、余裕しゃくしゃくに口を開いた。
「どうしてもなにも、理由などない。ただ追いかけているから、追いかけているのだ」
俺が再度聞く。
「お前がこの事態を起こした、犯人なのか?」
それに白髪は笑ってみせる。
「私じゃないよ。この事態を引き起こしたのは、人間そのものだ」
禅問答のような返答に俺が顔をしかめるが、今更そんな茶番に付き合うつもりもない。俺は三度、なんとか打開策を思いつくまでの間白髪の気を逸らそうと、質問を投げかけた。
「なんでこんなことをした?」
しかし白髪もこの質問にはさすがに感情を刺激されたのか、今度は白髪がにわかに顔をしかめて答えた。
「なんでって……そんなの関係ないだろう、お前には。お前はここで死ぬ。それだけの話だよ」
この時俺は質問を投げかけながら、ある二つの覚悟をし始めていた。それは、普通の状況であれば絶対にしないだろう二つの覚悟……。だがそれは、稼いだ時間で唯一思いついた、この場を燐だけでも切り抜けさせるために、絶対必要な事だった。
なんでもいいので、感想をもらえるとうれしいです




