白髪の女1-5
「はあっ、はあっ、はあっ!」
そうして短くない距離を走り続けたところで、俺は確認の意味も込めて後ろをチラリと振り返った。そして思わず「なっ!?」と驚嘆の声を上げた。振り返ったそのすぐ先、十メートルも離れていない距離に、白髪の姿があったからだ。
「うそだろ!? どうして!?」
俺の驚いた表情を見てか、白髪がニヤリといやらしく笑う。
――なんでだよ。夕方はあんなに簡単に引き離せたのに!
そこではっと気づく。……そうだ、今は夜だ。あの時はまだ日も出てる夕方だったし、あいつの眼も赤くなかった。けれど今のやつは、張田を片腕で貫けるような、異常な力の持ち主で、夕方と同じ身体能力であるはずがない。半ゾンビ達も、急に異変が起きて人を襲うようになったのも日が落ちてからだし、……もしやあいつの正体は。
「もう諦めたらどうだい?」
走りながら余裕しゃくしゃくに白髪が話しかけてくるが、あいにくそのつもりもない。白髪の身体能力が上がっているのはわかったが、走る速度においてはつかず離れずの力量差だ。なら逃げ続ければいい。そう考えて堤防の上を変わらず全力で走り続けた。
「はあっ! はあっ! おにい、ちゃん!!」
――けれど問題は、燐の方だった。
俺はともかく、燐の体力じゃ白髪からは逃げきれない。
俺が良くとも燐がダメだったらそれは……くそっ。
俺は前方にふと左に抜けられる脇道を見つけると、後先も考えずその道に入っていった。後ろについてくる燐も俺の急な方向転換に引っ張られて左に曲がるが、その顔はもう道の先を見てはいない。走り続けるだけで精いっぱいなようだった。ただ後ろからはなおも白髪が追いかけてきていて、俺はさらに逸れた道に入ると、
「こっちだ、燐!」
と、古びた工場の中へと逃げ込んでいった。
なんでもいいので、感想をもらえるとうれしいです




