壊れた世界2-5
音楽室に繋がるドアからガンッ、ガンッ! と大きな音が響いてくる。
……思ったより長くはもたないかもしれない。
同じことを思ったのか、燐と張田が焦燥を浮かべながらこちらを見た。
「お……お兄ちゃん」
「土禍くん……」
俺はそれには答えず、サッと窓をスライドさせて開けると、校舎の壁面を確認した。
……
よかった。
校舎のへりもでかいし、隣の教室に行くのはそれほど難しくなさそうだ。
ただ――
「ああ……」
「うぅぅ……」
「うぐあ……ああ」
そこから覗ける校庭の様子は最悪だ……。
サッカーコート一面分の校庭にはもう見た限り生存者はおらず、無数の半ゾンビが校庭を埋め尽くしている。これは例え下まで行けたとしても、校舎の外まで無事にたどり着けるかどうか……
とはいえ、ここで悩んでいても仕方ない。
とにもかくにも、まずは一階まで行かないと話が始まらないのだ。
俺は後ろの二人に軽く目配せして、「大丈夫だ、行ける」と告げると、余計な時間は使わずすぐさま窓枠を跨いで壁面に出た。
「燐、張田、行くぞ」
校舎の中の二人に告げる。
「そうね、早くしないと今にもドアを破られそうだし。燐ちゃんも」
「うん……」
すると二人も、張田、燐の順に恐る恐る窓枠を跨いで校舎の壁面に出てくる。
「……最悪な景色ね。落ちたら正真正銘の地獄だわ」
さすがは部をまとめあげる部長と言うべきなのだろうか。張田はこの状況を前に苦笑いしつつも、まだ若干の余裕を残した感じで呟く。しかし問題は……
「きゃっ……」
「燐!?」
「ごめん……だいじょう、ぶ」
「……気を付けろよ」
足を滑らせそうになった燐を注意する。
心配なのは圧倒的に、燐の方だった。
正直言って燐はあまり器用ではない。
校舎のへりは歩くのに十分な幅があるとはいえ、地上四階の、ましてや柵もないコンクリートの上を歩くのは燐には相当難しいことだろう。それにこの場合、恐怖心が一番ものを言う。燐は下を見ないように精いっぱい頑張っているが、それが逆効果なのだ。むしろしっかり下を見れる俺や張田がスムーズに校舎のへりを進んでいく中、燐のスピードはその半分にも満たない。
しかも不都合というのはこういう時こそ重なるもので……
バンッ!
と、不意に音楽準備室の方から嫌な音がする。
まさか……と思うと、悪い予想があっさり的中する。
「きゃっ!」
「燐!?」
半ゾンビと化した音楽教師が勢いよく窓から顔を出す。
すぐに校舎のへりにいる燐に気づいて、手を伸ばしてくる。
「燐ッッ!?」
「燐ちゃん、危ない!」
「きゃあ!!」
バサッと、音楽教師の手が燐の方に伸びる……が、紙一重で届いてはいない。
そのまま「があ、がああ!」とジタバタと手を伸ばすが、燐にはぎりぎりで届かない。
燐はその少し先で恐怖に身を縮めながら固まっている。
胸の底からほっと大きなため息が出た。
「はあ……。燐、早くこっちに」
「う……うん、お兄ちゃん」
なんでもいいので、感想をもらえるとうれしいです




