壊れた世界2-1
*** 壊れた世界2
『お兄ちゃん!』
急に、昔を思い出す。
そういえば昔もよく、こうやってよく燐を助けていたっけ。
『お兄ちゃん! 助けて!』
昔はまだ燐も今より明るくて活発で、よく二人で外を遊び回っていた。燐はやたらトラブルを引き付ける性格で、俺はそんな燐を何かあるたびに助けていた。
『リン、大丈夫か!?』
『う、うん、お兄ちゃん! ありがとう!』
けれどその時はまだ燐は明るくて、俺が燐を助けると、燐は決まって満面の笑顔で『ありがとう』と俺に言った。
『ありがとう! お兄ちゃん』
それがいつから申し訳なさそうな『ありがとう……』に変わったのか、今ではもう思い出せない。
「大丈夫……お兄ちゃん? 噛まれて……ない?」
「ん? ああ……たぶん」
言われて身体全体を一応確認してみるが、それらしい傷跡はない。制服が少し汚れているぐらいで、それ以外は全く無事だ。
「よかった……」
燐が心の底から安堵したようにふうと息を吐く。
俺も少しだけ安心する。
これもここに来るまでに観察してわかったことだが、半ゾンビと化した人間に噛まれると、予想通りと言うか、その人も半ゾンビ化する。どれぐらい噛まれたら感染(?)するのかはわからないが、パターン通りで考えれば一回が致命傷と考えるべきなのだろう。さっきのも、もし女教師に手でも掴まれて少しでも噛まれてたりしたら、おそらくアウトだ。ここからの行動は一層慎重にいかないといけない。
「燐は……大丈夫か?」
「うん……大丈夫」
燐が言うが、表情は冴えない。
「でも友達は何人も……たぶん教室見てわかっただろうけど」
「……ああ」
たしかに、音楽教室の様子はひどいものだった。散乱する椅子や譜面台に、人間とは言えない物に変わってしまった元生徒たち。それに至る所に垣間見えた争いの痕や血の匂い……それはおよそいつもの明るい音楽室とは似ても似つかないものだった。しかもそれが仲の良い友達や部活の仲間だったのならなおさら……俺がそういう場面に居合わせなかったのは、もしかしたら非常に幸運なことだったのかもしれない。
「大丈夫か? 燐は……」
「……うん、私は」
何度目かわからない確認をする。
とにかく、燐が無事でよかった。
――無事でよかった。
あらためてそのことを反芻した時、急に身体がガクンとなって、「……?」と動揺する。
なんだろう、急に身体が重くなったような……気のせいだろうか。
ここからが本当の正念場だというのに。
「大丈夫……? お兄ちゃん」
燐にも、さっきまでとは別の方向で心配をされる。
いけない、と思い、とっさに「大丈夫だよ」と答えるが、身体の重さは消えない。俺の身体はこんな時に一体どうしてしまったというのだ、突然……
しかしそれもまたゆっくり考えてるヒマなどない。
俺は無理やりに頭を切り替えると、次なる本番……つまりこの学校からの脱出に向けて顔を上げた。
なんでもいいので、感想をもらえるとうれしいです




