壊れた世界1-2
最悪の予感は、呆れるほど完璧に当たっていた。
町では至る所でゾンビ化(?)が発生していて、そこら中で「キャ――――」といった悲鳴や「うああぁあぁ、助けて~!」という叫び声が上がっていた。
俺も幾度となく助けを求める声や視線に遭遇したが……あえて無視した。助けないと、とは思ったが、妹のもとに行くのが今の俺の最優先事項だった。それに俺なんかがしゃしゃり出て何ができる……。それが単なる正当化のための言い訳にすぎないとわかっていながらも、そう考える以外どうしようもなかった。
学校に着くまではそれほどかからなかった。もともと行こうとしていたスーパーが学校方面にあったおかげだ。
ただし状況は、他の場所以上に最悪だった。
「ああぁああ、やめろおおぉ!!」
「ねえ、起きて、起きてよっ、ねえ!」
「痛い……いたいよっ」
校門から見渡すと、校庭で多くの生徒が半ゾンビに襲われていた。
その光景はまさに悪夢そのもの。
ただでさえ人の多い学校ではあるが、それを抜きにしても明らかに半ゾンビになっている人が多い。パッと見でも数十人以上……それが偶然ではなく、白い髪の女の子が原因だということは確かめるまでもないのだろう。
「はあ……はあ……なんだよ、なんだよ、これ! ふざけんなよ!」
呆然と校門に突っ立っていると、見知った顔が横を通って学校の外へと逃げていく。俺をいじめていたクラスメイトの一人だ。視線を学校内に戻すと、逃げていったクラスメイトを追いかけてきたのか、またしても俺をいじめていたやつが一人、十メートルほど先をよろよろと歩いていた。
……その眼を赤一色に染めて。
「うぅう……ああぁ……」
そこにはもう以前のままではないクラスメイトがいる。
だがそれを見ても特に自業自得だとか、俺をいじめてきた罰だ、なんてことは思わない。ただ「ああ、やられちゃったのか……」と、それだけ。
それよりも今は半ゾンビと化したそいつに襲われないことの方が重要で、慎重に相手の様子を見る。まだ距離は十メートル以上離れている。
来る途中に観察して気づいたことだが、やつらはおそらく、走れない。
近づいてきたときに急に飛びかかってくることはあるものの、それも一瞬。基本の動きは非常に緩慢だ。距離を取っていれば、基本的に捕まることはない。
……けれど、こちらから近づかないといけない状況なら、どうだ。
例えば、校舎に隠れている妹を、探し出すために、とか。
「……シャレにならないな」
また一人、学校の生徒が「うああっ、はあ、はあ! 助け、て!」と叫びながら学校の外へと逃げていく。
――この中に、入っていく?
無数の半ゾンビがうごめくだろう、この学校に?
じりじりと、半ゾンビと化した元クラスメイトが近寄ってくる。
その間にも校庭では一人、また一人と捕まるものが増えている。焦って逃げるべき方向を間違えたり、囲まれたり、恐怖で動けなくなったりして。
けれど俺は……、意を決して、校門の境界をまたぐ。
警察はこの状況下じゃいつ来るかわからない。頼りになるかもわからない。
なら、俺が行くしかない。
「死にたくは……ないな」
けれど燐は、確実に校舎の中にいる。
気弱な妹のことだ、突然こんな事態になって器用に逃げられているはずがない。おおかた吹奏楽の部活動中にでも異変に巻き込まれ、必ず校舎内のどこかに隠れているはずだ。
「まずは、音楽室か。最上階の奥の方だっけか……最悪だな」
お願いだから生きててはくれよ。
それだけを願うと、俺は覚悟を決めて、校舎へと真っすぐ駆け出した。
なんでもいいので、感想をもらえるとうれしいです




