壊れるその日3-2
変わった出来事は、帰りに起きた。
授業をすべて終え、バッグを持って教室を出る。
いつもと違ってだらだら準備をせずにサッと準備してサッと学校を出た。
別にこの後用事があるとか、いじめてくるやつらから逃げるだとか、そういうことではない。今まで感じていた不気味さと違和感が、なんとなく俺の足を速めたのだ。
そしてそれはまさに、学校の校門を出たところで起きた。
「おまえ……不思議な目をしているな」
心の底から、驚いた。
そこには今朝目にした白髪の女、もとい、白い髪の女の子が立っていた。
少女は寄りかかっていた石の柱から身体を離すと、ゆっくりとこちらに向き直った。
背は155cmもないぐらいか。すごく痩せていて、顔も細く幼い。よく見ればその白い髪もぼさぼさで、あまり身綺麗な感じではない。服はなぜかうちの学校の制服を着ていて、制服自体は綺麗だ。ただサイズが全く合っていなくて、明らかにオーバーサイズ。肩幅は大きすぎて余っていて、スカートも何かを使って無理やりとめているのだろう、ウエストのあたりがずれている。
「おまえ、この学校の生徒か……?」
まだ戸惑いを隠せない俺に向かって、女の子が聞いた。
「…………」
しかし俺は答えない。……答えられない。
この子がこの学校の生徒でないことなど明らかだった。この学校の生徒なら、俺の制服を見て校門の前でわざわざ「この学校の生徒か」なんて聞かないだろう。なのにこの学校の制服を着ている。それは逆説的に俺に危機感を覚えさせた。
「早く答えろ。お前はこの学校の生徒か?」
この学校の生徒だ……が、この質問に答えること自体が非常に危険な気がして俺は、少女の問いには答えず、ただ身を強張らせてどんな事態にも対処できるよう身構えた。そんな形で俺が全く動こうとしないものだから、先に少女の方がしびれを切らして口を開いた。
「まあいい。どうせどっちでも構わないことだ」
そして少女が一歩前に足を踏み出す。
その瞬間俺の本能が「やばい」と告げてきて、俺はすぐさま振り返り、駆け出した。
「おい、まてッ!」
すると少女の方も瞬時に走りだして俺を追いかけてくるものだから、俺は訳も分からないまま全力で少女から逃げた。
「はあ、はあ!」
動揺していたこともあって死んでしまいそうなくらい息が上がったが、彼女に捕まれば本当に死んでしまう気さえした。だから周囲には目もくれず、ただひたすらに本気で走った。
「おい……っ、おまえ、……はあ、はあ」
しかし彼女の方はそれほど体力もなかったのか、すぐに息を上げ、やがて止まった。
俺もそれを確認すると、ゆっくりとペースを緩め、次第に走りから歩きに変えた。
「はあ、はあ……! もう、大丈夫、か?」
見れば彼女とはすでに数十メートルほどの距離ができていて、彼女は俺をあきらめたのだろう、もう走るそぶりは見せてこなかった。
けれど彼女は、遠く後ろから、俺に向かって呟いた。不気味に口角を上げて、でも眼はちっとも笑わずに。
「くすっ……逃げられると、思うなよ。逃げ場所なんて、どこにもない」
決して大きくないその声を、俺がはっきりと聞き取れたのはなぜなのだろう。
俺はその後も小走りで、自分の家へと帰っていった。




