壊れるその日2-4
カリカリ――カリカリ
今日はテストの最終日だった。
今日が終わればテストも終わり、長かった一週間も終わりを迎える。
今日が終われば、ここまでの勉強が一区切りを迎え、次の期に移る。
今日はその集大成だ。
カリカリ――カリカリ
いつも通りスラスラとテストの問題を解いていく。その動きに一切のよどみはない。
カリカリ――カリカリ―――カ、カリ――カ……カリ
けれどふとリズムが崩れ、スラスラと解いていたはずの問題が解けなくなり、やがて、
カリ……カ――……
俺の手の動きが止まってしまう。
問題も解き終えていないのに、コトンとペンを机に置いてしまう。そのまま鏡を見るようにテスト用紙の向こう側に自分を見る。
――勉強は良い。
別に好きではないが、やっていて損はない。
それに、どんなに今の状態がひどくても勉強して良い点数さえ取っていれば、将来がなんとかなる気がした。仮に俺が蛇になることができる異常な人間だとしても、勉強さえできれば人間社会で生きていける、真面目に勉強していい大学に入って、大企業に就職して……そうすれば人より幸福な人生を手に入れることができる。そう思っていた。まるで昔の人が思っていたように。
けれど、もう俺の手は動かない。
動かしたいのに、動かない。
……なんで動かないんだよ。書け。書け! 手を動かせ! これがお前にとってどれほど重要なものか、お前が一番よく知ってるだろう!? 動け!
自分で自分に問いかけるが、やはり手は動かない。
なんでだよ……
またも自分に問いかけるが、答えは返ってこない。
――いや、答えなんて始めから知っていたのかもしれない。
それを、見ないふりしていただけだ。
「もういい……もう、いいや」
隣の席のクラスメイトが俺のつぶやきに「……?」とこちらを覗く。怪訝そうにわずか首をかしげたが、ちょうど教師が教壇で立てた「ガタン」という物音に反応して、慌ててテスト問題に戻る。それを横目に見ながら俺はとうとう、ペンと消しゴムを筆箱にしまい始めた。
テストが終わるまであと三十分もある。教師はペンをしまった俺を見て少しびっくりした顔をしたのち、しかし満足そうな笑みを浮かべた。俺がもうテスト問題を解き終えたと思ったのだろう。その光景が昨日とあまりに似ていて、俺も少し笑ってしまった。笑って、少しして、落ち着いて、その後は徐々に感情が消えていった。
そして、思った。
「壊れてしまえばいいのに……」
思って、失敗した。
口に、出ていた。
まさか他の人に聞かれていないかとびくびくしたが、だれもこちらを見ていない。おそらく聞こえてなかったのだろう。俺はほっと胸をなでおろす。
けれど同時にこうも思った。
聞こえてても、別にいいか……と。
だってそれはきっと、紛れもない自分の本心なのだからと。
いつかの日に思ったことを、今あらためて思う。
――そしてそれが間もなく、現実になる。




