第九話 お子様ランチ
どうやら厄介事があったようだ。街から帰ってきたケフォルによるとどうやらエルメアが貴族に捕まったようだ。犯罪を犯したなどではなく、単純にその貴族が勇者の大ファンだそうで捕まったらしい。しかも厄介なことに結構位の高い貴族であり、断るに断れずに連れ去られたそうだ。まあ危害を加える様子もなく単純に話が聞きたかっただけとのことなので、数日もあれば帰ってくるだろう。ついでにノイリーとバフも巻き込まれたらしい。
さて、そうなれば私もここに数日いることになる。ならば久々に揚げ物を作ろうか。あれはおいしいのだが大量に油を使う上に、処理が面倒臭い。風呂敷に入れればそれでいいのだが、そこは気分的な問題だ。
そうと決まればさっそく鍋に油を入れ、火にかけ温度を上げていく。隣ではお米を炊いてゆく。その間に揚げるものの下処理を行う。今回はレッドシュリンプを揚げよう。まずは頭と殻をむき、背ワタを取り出す。それに小麦粉をまぶし、卵を絡めてパンを細かくちぎった者をまぶしておく。これで準備完了だ。
そうこうしている間に油の温度がちょうどいいぐらいになったのを指で確認し、そこへレッドシュリンプを入れて、小麦色になるまで待ち揚がったら油を切る。そのころには米が炊けたようで、鍋に油を引き、そこへ細かく切ったタマネギを入れて飴色になるまで炒め、コカトリスの肉と緑豆を入れてさらに炒める。さらに炊けた米を入れ炒め、味付けに塩とコショウ、トマトソース、私特製のスープの素の粉末を加えたらチキンライスの完成だ。
お皿に盛りつけて、レッドシュリンプの揚げ物にはマヨネーズに酢とタマネギ、ゆで卵、などを混ぜ合わせたものをかける。マヨネーズを初めて知った時は衝撃を受けたものだ。人間の作るものは私の想像のつかないものがあるので面白い。
そういえば前にケフォルが街でお子様ランチなるものを食べたと、その時もらった旗を振り回しながら話していたな。私は風呂敷から爪楊枝と布切れを取り出して、それをくっつけてチキンライスに突き刺した。
「うわー!!お子様ランチだ!!」
そう言いながら嬉しそうにケフォルがチキンライスを頬張る。そのたびに尻尾がゆらゆらと揺れているので気に入ったのだろう。それを見ながら私も食べ始める。レッドシュリンプの揚げ物はさっくりと上がっており中身はプリッとしており肉厚で、ソースとよくマッチしておりおいしい。チキンライスはトマトソースの中にほんのりとタマネギの甘みが香り、それがコカトリスの肉にもよく合っている。
「おいしかったね、ありがとうクロ!!」
『それはよかった、どういたしまして』
食後のデザートにリンゴを切っている私に、旗を握りながらケフォルが笑いかける。子供の笑顔は良いものだ。そう思いながら切り分けたリンゴをケフォルに渡すのだった。
「なんつうか、この年にもなってお子様ランチを食うとはな・・・。いや、うまかったんだがな」
「そうね、私もそう思うわ…」
片手に旗を持ちながらアリーとツツジはそう呟くのだった。
レッドシュリンプ
赤くて大きい海老。魔物には分類されていないが、かなり凶暴でものすごく飛び跳ねる。殻がとても固く、剥くのが大変で、専用の包丁なども売られている。